No.030 お乳の成分

動物エピソードペットコラム

昔は乳離れをさせるために、乳首に辛子をチョット塗っておき、赤ちゃんが吸うと辛いのでびっくりして止める、と言うことを聞いたことがある。これでは赤ちゃんもびっくり仰天で、おっぱいを吸う気にならないだろう。さすがに現在はおっぱいが栄養面だけでなく、お乳をくわえることが赤ちゃんに安心感を与えるものであるから、もう少し上手に離乳食に移行するようになっている。

人工保育のトラにミルクをあげる女性

さて、アジア各国に行くと、どこの国でもトラは最強の猛獣として畏敬の目で見られており、人気も高い。
ミャンマーのヤンゴン動物園に行ったときのことだ。以前友人がヤンゴン動物園に贈ったトラが出産していた。ところが、園長さんの話に寄れば、母親が育児放棄をしてお乳を飲ませないので、人工保育に切り替えているが、ちょうど授乳時間なので見学しますか、という一言に、喜んでついていった。そして、部屋のドアを開けて目に入った光景がこの写真で、ご婦人の両乳房にトラが吸い付いてお乳を飲んでいた。話によれば、トラがお乳を飲ませないというニュースを見たご婦人が、それではまだお乳が出るので私があげましょう、と申し出たそうだ。

ミャンマー・ヤンゴン動物園園内 樹木が多くいやされる。

いやはや素朴でいい国だなーと思った。しかし、トラの乳成分と人間では、各栄養素の割合が違うことや、初乳を飲まなければ、子どもを病気から守る免疫を得ることができないので、充分その辺りも注意してください、と老婆心ながら獣医師の皆さんにお話しして帰国した。

上野動物園で勤務していた中で、1960〜1970年代は、野生動物の研究者が少なく、自然で生活する野生動物の行動が不明で、研究者が1種類ずつ生態を明らかにする度に、その報告書を読んで感動したものだ。当時は飼育環境も現在に比べれば良くなかったのか、母親が育児放棄し人工保育に切り替えたトラ、ライオン、ヒョウ、サルの仲間などがいて、新米飼育係の私などかっこうの仕事としてお手伝いした経験がある。その度に獣医師は乳成分をはじめ健康管理に神経を尖らせていたが、自分の胸にトラやライオンの赤ちゃんを初めて抱いたときの感触は、骨太でいかにも猛獣の中でも王者の子どもと言う感じがして今でも忘れられない貴重な体験だ。

人工保育で問題となる一つの点は、動物ごとに異なる乳成分である。たとえば、ヒトとネコ科のライオンで比較してみた。

  水分 脂肪 たんぱく質 炭水化物 灰分
ヒト 87.0 4.0 1.3 6.5 0.2
ライオン 63.9 18.9 12.5 2.7 1.4

この数値で一目瞭然のように、ヒトのお乳は水分が多く他の野生動物に比べ薄いのだ。人間にはちょうど良くとも、動物には脂肪分やたんぱく質が不足してしまう。ところが動物によっては、不足した乳成分を添加しても簡単に吸収されないことがあり、どうすれば吸収されるか研究を続けている。

それにしても、ミャンマーのご婦人ってほんとうにやさしんだなー。

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