No.126 マレーグマ – おもしろ哺乳動物大百科 74 食肉目 クマ科

おもしろ哺乳動物大百科クマ科食肉目ペットコラム

マレーグマ属

1属1種でクマ科の中では最小のマレーグマが東南アジアに分布しています。この中でボルネオ島に生息する個体を別亜種とし、大陸とスマトラ島の個体と区分して2亜種に分類する学者もいます。このシリーズでは今泉吉典博士の分類に従っていますので1種として以下概説します。

マレーグマ

タイ、ラオス、マレーシア、カンボジア、ベトナム、バングラデシュ、ミャンマー、インドのアッサム、スマトラ、及びボルネオ島など東南アジア各地に分布しており、北限は中国雲南省南部です。熱帯や亜熱帯の低地の降雨林地帯やマングローブ林から、タイでは標高2,500m、ボルネオで2,300m、インドネシアでは2,800mの高地までの常緑、半常緑、落葉樹などの混合した森林に生息しています。人間との接触を避ける地域では夜行性ですが、森林の奥地で接触が少ない場合は昼間も活動します。外敵となる人間やトラなどがいる環境下では、2~7mの樹上に枝を集めて巣を作りそこで睡眠や休息し、餌は地上を歩いて探します。しかし、通常は地上や倒木の上、樹の洞で休み、樹の洞は出産するときの巣としても使い、その後も休息場として利用します。木登りは得意ですが、ぶら下がることや木から木へ飛び移ることはできません。生息環境が暑いので寒さを回避する必要がないことと餌が一年中豊富なため冬眠はしません。行動圏はボルネオでの調査によると、平均14.8km²と報告されています。基本的には交尾期のオスとメス、母親と子ども以外は単独生活をしますが、餌が豊富な所ではまれに複数の個体が集まっているのが目撃されています。食物は鋭い嗅覚で匂いを頼りに探します。

からだの特徴

胸のU字型の模様がはっきりわかるでしょう。赤ちゃんもかわいいですね。写真家 大高成元氏 撮影

体色は普通黒、または濃褐色の光沢がある短い毛が厚く生えていますが、足の裏には毛は生えていません。胸部にUの字で白色やオレンジ色のマークがある個体が多いのですが、時には模様のない個体やV字の形の個体もいます。目から鼻端にかけての口吻部は、灰色、オレンジ色、銀色です。この他4肢の色が薄い個体もいます。体は全体的にずんぐりとして口吻部は短く、4肢にはそれぞれ5本の指があり、とりわけ前肢の掌は大きく、湾曲した鋭い爪が生えており、シロアリや幼虫をとるとき地面を掘る場合や木登りをする際に威力を発揮しています。動物園で地面を掘るのを観察しましたが、強力な前足の掌を使ってたちまちのうちに地面を掘りました。前肢は内側に曲がって、歩行の場合内股歩きのように見えますが、この体形は木登りに適応し、クマの中では最も木登りが上手な種類となっています。舌は長く20~25cmもあり、ハチミツを舐めとるときや、シロアリを捕まえるのに適しています。耳は丸く4~6cmです。 体長(頭胴長)は100~140cm、体重は27~65kg,尾長は3~7cmです。
歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3-4/3、臼歯2/3で左右上下合わせて38~40本です。犬歯は頭部に大きな歯根部が入り込み強力な咬合力を持っています。乳頭数は2対です。

えさ

雑食性で、昆虫(100種類以上ですが、主にシロアリ、アリ、甲虫、ハチ)、ハチミツ、果実や果汁、小型のげっ歯類、トカゲ、鳥、卵、ココナッツの新芽などを食べます。タイでは果実を採るためにおよそ40科の木に登り、中でもシナモンや楢(ナラ)や樫などの実が好きだと報告しています。

繁殖

繁殖は年中可能で、発情期間は5~7日間あり、この間に1~2日間交尾します。妊娠期間は着床遅延があるために95~240日と大きな幅があります。ちなみに北米テキサスのフォート・ワース動物園の妊娠期間の3例は、174日、228日、240日と長いのに対し、東ベルリン動物園ではすべて95~96日間でした。産子数は1~2頭、新生児の体重は300~340gです。生まれたばかりの赤ちゃんは、歯は生えておらず、目は閉じていて、聴覚もまだ発達していません。目は生後25日齢ぐらいで開きますが、生後50日齢ぐらいまではまだものは見えません。耳は少しずつ聞こえるようになりますが、よく聞こえるようになるのは生後50日齢をすぎてからです。生後2ヶ月齢までは母親が子どもの肛門を舐めて排泄を促します。子どもたちは性成熟するまで母親と一緒に生活します。母親は移動するときは子どもの頭部をくわえて運びます。性成熟は2~3歳です。
長寿記録としてはベルリン動物園で1997年3月2日に死亡した個体(メス)の35歳10ヶ月という記録があります。

生息数減少の原因

農地拡大のための山林の伐採による生息地の消失・分断と漢方薬や食料のための密猟が生息数減少の大きな原因です。そのほかにココナッツ畑に入りこみ、新芽を食べるので害獣として駆除されることも大きな問題となっています。
野生での外敵としてはトラ、ヒョウ、ウンピョウ、大型のニシキヘビなどがいます。

データ

分類 食肉目 クマ科
分布 東南アジア、スマトラ島、及びボルネオ島
体長(頭胴長) 100~140cm
体重 27~65kg
尾長 3~7cm
肩高(体高) 約70cm
絶滅危機の程度 IUCN(国際自然保護連合)発行の2011年版のレッドリストでは絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定され、積極的な保護が必要とされています。

主な参考文献

今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科1食肉目 平凡社 1986.
林 壽朗 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社 1981.
川口幸男 4.クマ科の分類,In.世界の動物 分類と飼育2 食肉目
:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991.
Fitzgerald,C.S. & Krausman,P.R. Mammalian Species . Helarctos malayanus. No.696, The American Society of Mammalogists 2002.
Parker, S.P. (ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. Carnivores
Lynx Edicions 2009.
安間 繁樹 ボルネオ島 アニマル・ウオッチングガイド 文一総合出版 2002.
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