No.131 ハナジロハナグマ – おもしろ哺乳動物大百科 79 食肉目 アライグマ科

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ハナグマ属

ハナグマ属の分類は、アカハナグマ、ハナジロハナグマ、コスメルハナグマの3種、又はアカハナグマの中にハナジロハナグマを含めて2種とする説があります。北米の南部から南米にかけて分布しています。
アカハナグマはアンデス東部、アルゼンチン、ウルグアイに分布しています。体長が43~66cm、尾長が42~68cm、体重が3.5~5.6kgです。ハナジロハナグマと似ていますが、鼻端が白くないので容易に区別できます。
コスメルハナグマはメキシコ、ユカタン半島のコスメル島に分布しています。尾のリングがはっきりして、他の2種より小型で体長が42~44cm、尾長が33~35cm、体重3~4kgです。メキシコのコスメル島に生息している本種の生息数はわずか約150頭と推定されて絶滅が危ぶまれています。
本属は3種とも尾が長いのですが、物に巻きつけることはできません。本稿では3種の分類として、その中から次のハナジロハナグマについて詳しく見ていきましょう。

ハナジロハナグマ

ハナジロハナグマは、アメリカ合衆国のアリゾナ南東部、ニューメキシコ、テキサス南部、中央アメリカのパナマ、南アメリカのコロンビア北西部に分布しています。生息環境は熱帯雨林、ナラやブナ、川岸の松などの森林地帯から開発された森、しばしば砂漠やサバンナまで入り込み、アリゾナでは海抜508~2,897mの範囲に見られます。性成熟したオスは単独で生活し、母親とメスの子どもは集まって4~25頭(大きなものは200頭になります)の群れを作り、この群れをバンドと呼びます。バンドのメンバーは通常成獣のメスと、雌雄の亜成獣、ワカモノ、赤ちゃんで構成され、オスは発情期にバンドに入り交尾します。行動圏は0.33~13.5km²で熱帯地域より北方のほうが広い傾向が見られます。パナマの3つのバンドの行動圏は、0.45km²、0.41km²,0.34km²で、お互いに隣接している場合は重複していますが、よく利用する中心部は重複せずその広さはそれぞれ0.20km²、0.15km²、0.15km²でした。1日の移動距離は1,500~2,000mで雨季より乾季は短くなっています。さらに、繁殖で巣にいるときの移動距離はもっとも少なくなります。
基本的に昼行性で夜間は静かな森林で休みますが、アリゾナではしばしば岩棚や穴で休憩します。雨季の盛りにはバンド全体が神経質になり辺りを警戒し、子どもたちは母親に抱かれています。日中の90%は地上で過ごし、そのうち90%は餌を探すのに費やしています。彼らは直径2cmから50cmの太さの木を垂直に登り、樹冠では数メートルをとび跳ね、また頭部を下方に向けて木から降りることができます。時速約27kmで走り、猟犬に追われたときに3時間走った報告があります。自発的に水に入ることはありませんが、泳ぐのも得意です。
バンドのメンバーには相互のグルーミング、敵への警戒、外敵への攻撃などの行動が見られます。チイッ、チイッというかん高い鳴き声は周波数が30~55kHz(キロヘルツ)のヒトには聞こえない超音波で、移動時にコンタクトコールとしての機能があると考えられています。視覚サインでは、鼻上げ、頭下げ、尾ふりなどがあります。匂いつけは、オスは1年中、メスは発情期にのみ会陰部からの分泌物を木や丸太、つる草につけます。餌は協力して捕ることがありますが、分け合うことはしません。

からだの特徴

良く見ると赤ちゃんの爪が長いのがわかるでしょう。爪はとても大事な役割を果たしています。写真家 大高成元氏 撮影

体色は頸部と肩部は黄色みを帯びていますが、全体的にうすい褐色から赤褐色、目の周囲はこげ茶か褐色で、鼻端、頸部、喉は白っぽくなっています。また、鼻端から目の間を通って白い筋が入っています。腹部は黄色みを帯びるか暗褐色、尾は背面と同色でぼんやりとした輪が見られます。耳は小さく白く縁取りされています。口吻部は長く突き出て鼻端は丸く白いバンドがあり、動かすことができます。4肢にはそれぞれ5本の指があり、前肢は頑丈で、爪は後肢より長めで湾曲し地面を掘って根や朽木の下の昆虫や幼虫、ムカデ、サソリなどを探します。歩行は足の裏全他を付けて歩く蹠行性です。尾は長く立てることができバランスをとるときに役立ちます。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/2で左右上下合わせて40本です。前臼歯と臼歯の歯冠が高く、アライグマより大きくて鋭い犬歯は武器となります。乳頭は3対~4対です。

えさ

雑食性で果実、アリ、シロアリ、クモなどの昆虫、ムカデ、サソリなどの節足動物、カエル、トカゲ、小鳥、鳥、カメ、トカゲの卵、ネズミなどの小型哺乳類、時には死肉などを食べます。果物があるときは数日間同じ木で過ごし、樹上と地上に落ちたもの双方を食べます。パナマの観察例では、44%は葉にいる無脊椎動物、56%が果実、脊椎動物は1%以下の報告があります。乾季と雨季、果物が多く多く実る時期で食性が変わります。餌は視覚より嗅覚を使って見つけ、脊椎動物などの大きな獲物は数回噛んで殺します。

繁殖

発情期は1~3月です。パナマでは1月下旬から約2週間続き、交尾は地上と樹上の双方で行います。妊娠したメスは単独でバンドから離れ木の上や岩棚に作った巣に移動し、2~7頭の子を出産します。妊娠期間は70~77日で平均74日です。出産時期はアリゾナで6月下旬、メキシコで6月から7月、パナマでは4月から5月初旬と地域差があります。パナマにおけるメスの初産は生後22ヶ月齢ですが、生後46ヶ月齢の初産の場合もあります。すべてのメスが繁殖するのではなく、わずかに20%ほどのメスが繁殖する場合もありますが、数の増減は餌が十分採れるか否かなどの生態的な条件に左右されます。生まれたばかりの赤ちゃんの体長は15.5~16.5cm、体重は約180g、濃い灰色の毛が生え、顔と尾の模様はうっすら出ています。飼育下の報告例では生後10日齢の平均値は体長17.7cm、体重214g、尾長12.8cmになりました。目は生後4~11日齢で開きます。赤ちゃんは生後11日齢頃に歩きはじめ、尾を立てることができます。乳歯は生後15日齢頃から門歯が生え始め、犬歯は27日齢頃に生え、生後2ヶ月齢ぐらいで乳歯がすべて生えそろいます。生後約5週齢で母親は樹上の巣から子どもを連れて地上に降りて群れに合流します。授乳のほとんどは巣の中で行われますが、バンドに戻っても生後3ヶ月齢ころまで行われます。生後9ヶ月齢でオスはメスより大きくなります。
産後の4~5週間は、母親は子どもの世話をしながら単独で餌を探し、授乳するとき巣に戻り夜間は一緒に寝ます。巣から離れた最初の数週間は子どもの死亡率が最も高くなります。オスは次第に1頭でいることが多くなり、生後24ヶ月齢頃から単独で生活するようになります。繁殖期にはオス同士は闘うことがよくあり、約30%のオスが犬歯で噛まれて負傷します。オスは生後約34ヶ月齢で初交尾しますが、繁殖オスとなるのは4~5歳です。
長寿記録としては、英国のチェシントン動物で1990年6月29日に死亡した個体(メス)の飼育期間26年5ヶ月という記録があります。

外敵

人間以外では、ピューマやジャガーなどの大形のネコ科動物、猛禽類、ボアなどの大形のヘビ、ノドジロオマキザルが巣にいるハナジロハナグマを捕食した例も報告されています。また子どもがオスの成獣の犠牲になることもあります。

生息数減少の原因

正確な生息数は不明ですが、多くの生息地で減少しています。原因としては生息地の消失と狩猟によることは他の動物と共通していますが、その他にメキシコや中央アメリカの人々によって食料用やペット用に捕獲されています。またイヌのジステンパーや狂犬病にかかりやすいことも問題になっています。

データ

分類 食肉目 アライグマ科
分布 アメリカ合衆国アリゾナ南東部、メキシコ、中央アメリカのパナマ、南アメリカのコロンビア北西部
体長(頭胴長) 43~66cm
体重 3.5~6kg メスはオスより約20%少ない
肩高 約30cm
尾長 42~68cm
絶滅危機の程度 生息地の消失と狩猟により生息数が減少している地域もありますが、分布域が広く、保護区内ではまだ個体数も多いことからIUCN(国際自然保護連合)発行の2011年版のレッドリストでは低懸念種(LC)にランクされています。毛皮の商品価値が少ないことや、家畜にたいする脅威がオオカミやコヨーテ、クマなどの大型食肉獣ほどなく、雑食性であることからすぐに絶滅の恐れはないとしています。

分布により次の3亜種に分類されます。(1)北アメリカ南部、メキシコ (2)メキシコ南部、中央アメリカ、コロンビア北西部 (3)メキシコ・ユカタン半島

主な参考文献

Wilson, D.E. and Ruff, S.(ed) The Smithsonian Book of North American Mammals, Smithsonian Institution Press, 1999.
Gompper, M. E. Mammalian Species . No.487 Nasua narica , The American Society of Mammalogists , 1995.
林 壽朗 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981.
今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科1 食肉目 平凡社 1986.
中里竜二 2. アライグマ科の分類 In. 世界の動物 分類と飼育□2 食肉目 : 今泉吉典 監修、(財)東京動物園協会 1991.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Parker, S.P.(ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. (ed) THE MAMMALS OF THE WORLD, 1. CarnivoresLynx Edicions 2009.
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