No.102 キンシコウ(金絲猴) – おもしろ哺乳動物大百科 51 霊長目 オナガザル科

おもしろ哺乳動物大百科オナガザル科霊長目ペットコラム

ドゥクモンキー属

本属は、中国に2種ブレーリッヒモンキーとキンシコウ、およびベトナムからラオス、カンボジアにかけて生息するアカアシドゥクモンキー、ベトナムに生息するトンキンシシバナザルの4種に分類されます。いずれも山奥に生息していることで、長い間生態が不明でしたが近年ようやく原産国と共同調査が進み明らかになってきました。
今回は別名ゴールデンモンキーとも呼ばれているキンシコウ(金絲猴)について紹介しましょう。

キンシコウ(金絲猴)

中国の湖北省、陝西省、甘粛省、四川省、雲南省、チベット山地の、標高1500〜3500mの山奥に生息しています。このあたりの冬は長く、雪が降り積もり、気温はマイナス5度〜マイナス8度に下がるため、体には長い毛が密生しています。昼行性で、行動域は20〜40km²と推定され、おもに樹上生活ですが、成獣のオスは地上にいる割合が多く、全行動の約15%と報告しています。樹上生活をするサルの仲間ではもっとも大きな群れを作り、最大でおよそ600頭におよぶ大群の観察例があります。しかし、通常は1頭のオスと複数のメス及びその家族で構成される5頭前後で生活し、それらが集まり30〜100頭前後になります。このほかに、周辺部にはオスだけの群れもいます。移動は4足歩行で、木の間を飛び移るときは前足をいっぱいに伸ばして飛び移ります。群内の交信やなわばりの主張には、警戒、威嚇、呼びかけ、その他を入れると18種類の声を使っている、との調査報告があります。

からだの特徴

中国にはジャイアントパンダ以外にも、希少な動物が生息しています。キンシコウは孫悟空のモデルとも言われていますが、きれいなサルですね。写真家 大高成元氏 撮影

4肢と体はがっしりとして、顔は三角形で、鼻は上向きで鼻端が目の近くまで来ています。大型のサルで、オスの体長と尾長は70cmを越え、体重も20kgに達します。オスは成獣になると二次性徴の特徴であるイボが口の両端にできます。体色は全体的にオレンジ色ですが、頭部の隆起部位から背中、尾にかけては暗褐色から黒褐色、肩には50cmに達するたてがみ状の金色の毛が生えています。口吻と目の周りには毛が生えていず、目の上と鼻の周囲は淡青色で顔が際立って美しくなっています。樹上生活に適応して手の親指が非常に短くなっています。胃は大きく、小嚢(のう)にわかれています。頬袋がなく、歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本で、大臼歯の咬合面は高く盛り上がっていて、主食となる葉を細かく切る事ができます。犬歯の長さもオスが大きく性的二型となっています。オスの尻だこは雌雄ともに左右が離れています。

えさ

野生時の主食は葉ですが、地衣類、竹、草、茎、新芽、果実、松の実、種子、樹皮、昆虫、小鳥、卵なども食べます。大きな胃でゆっくり時間をかけて消化するために日中も休息しています。

繁殖

月経周期は約27〜29日間で、飼育下の妊娠期間は174〜208日ですが、野生では約6ヶ月です。交尾期は生息地によって違う報告が出ていますが、9月から11月でピークは11月(名古屋東山動物園の例:10月から1月が交尾期で、半年後の4月から6月が出産期となります)です。性成熟はメス4〜5歳、オス7歳と推定され、初産年齢は5歳です。赤ちゃんは体長20〜25cm、体重約500gで、体の色はうすい黒です。母親は生後10〜15日齢までは抱いており、この間赤ちゃんは寝ている時間が多くなります。生後3〜4週齢で手の届く範囲まで離すようになります。生後2〜3ヶ月齢で遊び始め、約7ヶ月齢ころから子供同士で遊びます。授乳は約1年間続きその後も19〜20ヶ月齢までは乳首をくわえるのが観察されます。
長寿記録としては、北京繁殖センターで1980年5月1日に生まれ、2004年3月に死亡した23歳10ヶ月という記録があります。

生息数減少の理由

キンシコウの生息域近くまで道路ができて開発が進み、大幅に生息域が減少しました。中国政府はパンダと同様、保護にのりだし、現在の生息数は8,000〜20,000頭と推定されています。人々は1000年以上まえから、金色のマントのような毛皮でコートを作り、肉と骨は漢方薬に利用するために捕らえていましたが、現在もまだ密猟者に狙われています。野生の外敵としては、トラ、ドール、ヒョウ、アジアゴールデンキャット、タイリクオオカミ、インドジャコウネコ、キツネ、テンのなかま、オオタカ、イヌワシなどがいます。

データ

分類 霊長目 オナガザル科
分布 中国中部から西部の山岳地帯
体長 オス53〜73cm メス50〜52cm
尾長 オス59〜80cm メス48〜52cm
体重 オス 約20kg メス 約13kg
絶滅危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2010年版のレッドリストでは、絶滅危惧種(EN)に指定し、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いとしています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
Gron,K.J.(Reviewed by Ren, R.) Primate Factsheets: Golden snub-nosed monkey, Rhinopithecus roxellana ,
Taxonomy, Morphology, Ecology, Behavior and Conservation, National Primate Research Center(University of Wisconsin) 2007
林 壽朗 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968
ジョン・R・ネイピア プルー・H・ネイピア
伊沢紘生 訳
世界の霊長類 どうぶつ社1987
東山動物園 インターネット情報
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 世界のサル 毎日新聞社 1968
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
杉山幸丸 編 サルの百科 データハウス1996
四川資源動物誌編集委員会 編 四川資源動物誌 第2巻 獣類 四川科学技術出版社 1984
タイトルとURLをコピーしました