No.075 スローロリス – おもしろ哺乳動物大百科 25 霊長目 ロリス科

おもしろ哺乳動物大百科霊長目ペットコラムロリス科

スローロリス属

本属は、長い間スローロリスと一回り小柄なレッサースローロリスの2種に分類されていました。しかし、IUCN発行のレッドリスト2008年版によれば、これまで亜種に分類していたものを、種に格上げした結果、(1)ベンガルスローロリス(2)スンダスローロリス(3)ボルネオスローロリス(4)ジャワスローロリス(5)レッサースローロリスの5種に分類しています。この中で、ベンガルスローロリスは体重が他の種類より重くおよそ2kgになりますが、他の種類では500g〜800gほどです。レッサースローロリスの体重は250〜450gで、別名ピグミースローロリスとも呼ばれています。

スローロリス

スローロリスは分類学者によって、2種から5種に分類していますが、体のつくりや習性は似ているため、全般的に概説しましょう。生息地は、インドのアッサム、インドシナ半島、ビルマ、タイ、インドシナ、マレー、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島、フィリピンです。夜行性で日中は森林の高い木や樹洞、あるいは竹林で寝ており、夜間ゆっくりと採食するために動き始めます。野生では単独生活者と言われていますが、飼育下ではペアや家族グループで同居することができます。なわばりを持ち、尿や体をこすりつけて匂い付けをし、あるいは数種類の鳴き声を発してコミュニケーションを行っています。

からだの特徴

ほのぼのした感じがするサルでしょう。大高 成元氏撮影

顔や体の色と模様に違いがあり、その特徴から種または亜種を特定できます。体は短く厚い羊毛質の毛で被われています。夜行性動物特有のタペタムのある大きな目は、光を増幅して暗いときに見ることができます。4肢には5本の指がありますが、前後肢の第2指は短くなっています。後肢の第2指だけは鉤爪で他のすべての指は平爪となっています。尾は非常に短く毛で隠れていて一見すると尾がないように見えます。名前のとおり動きが緩慢で、ゆっくり動くことで代謝を極力抑えています。握力はとても強く片手でぶら下がることも簡単にできますが、ジャンプすることができなくて、必ず一本の肢でどこかに掴まっています。口の先端部は鼻鏡となっています。歯式は門歯2/2、犬歯1/1,小臼歯3/3、大臼歯3/3で左右上下合わせて36本です。下顎の門歯と犬歯はやや上向きに前方に突き出し櫛のような形をしています。乳頭は2対あります。

えさ

野生でのえさは、カタツムリやナメクジなどの軟体動物、昆虫、クモ、トカゲ、トリ、小型の哺乳類、樹液、果物などを食べています。獲物をつかむときはすばやく両足で木をつかんで立ち上がることができ、両手で獲物を捕らえます。

繁殖

野生のスローロリスは年間を通して繁殖していますが、飼育下の発情期は8月から12月、出産期は3月から5月でした。飼育下の発情周期はスンダスローロリスの場合、29〜45日で発情は1〜5日間続きます。産子数は通常1産1子で稀に双子がありますが、レッサースローロリスでは双子の割合が高くなります。赤ちゃんは30〜60gあり、出産後すぐに母親のお腹にしがみつくことができ、授乳期間は5〜7ヶ月です。レッサースローロリスの場合、オスの性成熟は生後14ヶ月齢ですが、飼育下では生後17ヶ月齢で繁殖可能となっています。メスの性成熟はスンダスローロリスが生後17〜24ヶ月齢です。この2種類の妊娠期間は平均で188〜192日でした。寿命はふつう15年ぐらいですが、長寿記録としては1978年10月にロンドン動物園で生まれたスンダスローロリスが、2004年7月現在25年9カ月飼育されてなお生存している記録があります。

天敵

人間がペットとして飼育することや、東南アジアの人々は漢方薬や食料として使うために捕獲しています。この他に森林を伐採することで生息域を失っています。このほか、野生のネコ科動物やマレーグマが天敵です。

飼育は原則的に禁止されています。

スローロリスは人間がかわいいと思う条件である、小さく丸みを帯びた体と柔らかい毛、ゆっくりとした動きが人々を魅了して、ペットとして飼育している人もいました。しかし、2007年(平成19)に種の保存法(絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律)により国際希少動植物種に指定され、また動物愛護管理法(動物の愛護及び愛護に関する法律)で保護され、現在は原則的に売買が禁止されています。また、許可を受けて飼育しても、虐待、遺棄すると罰せられます。本種は歯がするどく、咬まれた人のなかにはアナフィラキシーショックで蕁麻疹(じんましん)などを発症し、重症に陥ることもあります。咬まれたら速やかに医療機関で受診するようお勧めします。

データ

分類 霊長目 ロリス科
分布 南および東南アジア
スローロリス(レッサースローロリス以外) 体長 270〜380mm
体重 400〜2000g
レッサースローロリス 体長 180〜220mm
体重 250〜450g
絶滅の危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、ジャワスローロリスは絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に、他の4種は絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。現在は国立公園や保護区で保護されています。

主な参考文献

今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986
杉山 幸丸編 サルの百科 データハウス 1996
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the world Six Edition
The Johns Hopkins University Press 1999
中村壮登 スローロリスの新しい分類と保護規制
財団法人東京動物園協会 冬号2010
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