イタチ科
イタチ科は23属、総種類数は66種に分類されます。次に23属を列挙すると、
(1)イタチ属 (2)マダライタチ属 (3)テン属
(4)タイラ属 (5)グリソン属 (6)グリソンモドキ属
(7)ゾリラ属 (8)サハラゾリラ属 (9)ゾリラモドキ属
(10)クズリ属 (11)ラーテル属 (12)アナグマ属
(13)ブタバナアナグマ属 (14)スカンクアナグマ属 (15)アメリカアナグマ属
(16)イタチアナグマ属 (17)スカンク属 (18)マダラスカンク属
(19)ブタバナスカンク属 (20)カワウソ属 (21)オオカワウソ属
(22)ツメナシカワウソ属 (23)ラッコ属です。
本科の仲間は南極大陸、オーストラリア、ニュージーランド(ヨーロッパケナガイタチとオコジョが後に移入されました)、ニューギニア、西インド諸島、マダガスカル、セレベス、フィリッピンの島々を除き広く全世界に分布しています。イタチ属のイイズナの体重は、わずか25~250gですが、最大の種、クズリやオオカワウソは100倍の30kg以上となります。ほとんどの種に強い匂いを出す肛門腺があります。肛門腺は皮脂腺が変化したもので貯蔵のうに蓄えられ、排便の際にわずかに付着し匂いの信号となります。多くの種は陸上で生活していますが、カワウソ属やラッコ属のなかまでは時々陸地に上がるものの、水中生活に適応し餌を水中でとります。ラッコは海中に潜り貝を採って水面に仰向けになり石で貝を割って食べることが知られています。歯式は種によって大きく異なり、最も歯数が多い種はアナグマ属で総数は38本あります。食性はオコジョやイイズナのように完全に肉食のものから、果実なども食べるアナグマのように雑食のものまで種により様々です。捕食に当たっては嗅覚を頼りに獲物を捉えますが、環境によっては視覚で餌を見つけるラッコやカワウソなどもいます。盲腸はなく、腎臓は単純な形状をしています。イタチ科の仲間は古くから毛皮として利用する種が多く、人間に捕獲され種によってはラッコのように絶滅が危惧されている種もいます。
今回はこの中からイタチ属、クズリ属、アナグマ属、スカンク属の4属を取り上げ、それぞれ1種ずつ紹介しましょう。
イタチ属
この属の中には次の18種類がいます。
(1)アルタイイタチ (2)オコジョ (3)オナガオコジョ
(4)キバライタチ (5)イイズナ (6)タイリクイタチ(チョウセンイタチ)
(7)ニホンイタチ (8)セスジイタチ (9)ハダシイタチ
(10)アメリカミンク (11)ヨーロッパミンク (12)ヨーロッパケナガイタチ
(13)フェレット (14)ステップケナガイタチ (15)クロアシイタチ
(16)アマゾンイタチ(スジハライタチ)(17)コロンビアイタチ
(18)ウミミンク。
このうち、ペットとして知られているフェレットはヨーロッパケナガイタチを家畜化したものと考えられ、毛皮用に養殖されているミンクはアメリカミンクを改良したものです。ウミミンクはかつて北米の海岸に生息していましたが、1860年頃に絶滅したと推測されています。
本属の仲間はいずれも四肢が短く、胴が長いのが特徴で、体は小形のものが多く、食肉動物のなかで最小といわれるイイズナでは体長10~20cm、体重は25~250g、最大のハダシイタチでも体長が約30cm、体重が1~3kg程度です。
また、ニホンイタチをタイリクイタチ(チョウセンイタチ)の亜種とする学者もいます。
今回はこれらの中からニホンイタチを紹介します。
ニホンイタチ
日本固有種で本来の分布は本州、四国、九州、淡路島、佐渡、隠岐、壱岐、伊豆大島、種子島、屋久島ですが、その他に移入種としてサハリン、北海道、八丈島、奄美大島、沖縄、西表島、波照間島にも分布しています。
川辺や海岸近くの森から人家近くまで河川や水田などに幅広く生息し、海抜2,000mぐらいの高所でも見られた報告があり、基本的に水のある場所を好みます。通常は単独で生活し夜行性ですが、繁殖期になると日中も活動します。行動圏は1988年に多摩川河川敷でラジオテレメトリー法により行われた調査では、平均0.08km²と報告されています。オスは複数の巣を持っており、メスは通常単独の巣で過ごします。水かきがあり泳ぎも得意で潜って魚を獲るほか、木登りも上手で鳥の卵や鳥を捕まえて餌とします。休息や出産用に、木の洞やほかの動物が使った穴、岩や石垣の割れ目を巣穴として使います。地中の巣は直径5~10cm、奥行き60cmから1mで、出産用に使うときは中に枯草や自分で捕った鳥の羽や動物の毛も入れます。歩行は足の裏を半分地面につけて歩く半蹠行性です。時々後肢で立ち上がりあたりを見回す行動が見られます。
からだの特徴

イタチはとてもかわいいんですよ。でも家畜のニワトリにとっては怖い相手です。写真家 大高成元氏 撮影
体は胴長短足、頭部が平らで、動きは素早く、しなやかな体でわずかな隙間でも入り込むことができます。体毛は上毛がふかふかとして厚く、腹部は白くなっています。夏毛はチョコレート色ですが、冬毛に変ると赤褐色に黄色が加わり下顎の口のまわりの白色部分との区切りがはっきりしません。オスはメスの倍ぐらいの大きさとなり、体長はオスが27~37cm、メスは16~25cm、体重がオスは290~650g、メスは115~175gです。4肢は短くそれぞれ5本の指があり、足の裏には毛が生えていません。指間には水かきがあって、鋭い爪がありますが引っ込めることはできません。「イタチの最後っ屁」ということわざがあるように、強い匂いを出す肛門腺が発達しており、排泄のときに匂いのついた排便をすることや、驚いたときに反射的に噴射することで防衛作用としても働いています。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3/3、臼歯1/2で左右上下合わせて34本です。乳頭数は腹部に1~2対、鼠蹊部(そけいぶ)に1~2対の6~8個あります。
えさ
肉食傾向が強い雑食性で、おもにネズミなどのげっ歯類を捕食していますが、カエルなどの両生類、トカゲ、ヘビ(マムシのように毒ヘビからアオダイショウのような無毒のヘビ)などの爬虫類、ザリガニ、カニ、エビなどの甲殻類、鳥類とその卵、昆虫などの無脊椎動物、魚類、死肉、果実なども食べます。嗅覚が優れているのでウサギなども匂いを頼りに追いかけ捕まえると報告があります。また、食べきれない餌は巣内に持ち帰り貯める習性があります。
繁殖
発情期は本州中部から関東地方では3~5月で、交尾したときに排卵する動物なので、ふつう1回の交尾で妊娠します。妊娠期間は35~38日、産子数は1~8頭、通常3~5頭です。生まれたばかりの赤ちゃんは体長約5cm、体重は3~4g、毛は生えてなく、生後10日齢で灰白色の毛が生え始め、20日齢で全身が毛で被われます。目は閉じて生まれますが、生後約4週齢で開きます。離乳はおよそ生後40日齢ですが、その前から固形物も食べ始めています。生後70~80日齢で親と同じ大きさになり、10~11ヶ月齢で独立します。5月生まれの子は7月末から母親と一緒に獲物を探しに出かけ、秋には独立し早熟な個体は1歳未満で発情するといいます。その後繁殖を続けますが、寿命が5歳くらいと短いので、繁殖し育児が成功するのは満3歳くらいまでで生涯の繁殖回数は推定3~4回とされています。長寿記録としては、日光にあった国立の養殖場での8歳78日、東京都多摩動物公園で2004年3月23日に死亡した個体(メス)の飼育期間5年4ヶ月、推定年齢5歳10ヶ月という記録があります。
外敵
人間以外では各地に生息するイヌワシ、ノスリ、ケアシノスリ、クマタカ、チュウヒ、シロフクロウ、シマフクロウ、ワシミミズクなどの猛禽類、食肉類では、ヒグマ、ツキノワグマ、キツネ、タヌキ、アナグマ、イノシシ、イヌ、幼獣やメスではネコ、ハブやアオダイショウなどに捕食されます。さらに、ニホンイタチは外来種のタイリクイタチ(チョウセンイタチ)が一回り大きく強いため(体長30~40cm、体重350~800g)、彼らによって平野部から山間部に駆逐されています。
タイリクイタチは1930~1935年頃、阪神地方の毛皮養殖場から逃げ出したものや、さらに1945年頃には戦後の混乱期に朝鮮半島から九州北部に持ち込まれたものが野生化し、西日本各地に分布を広げたと考えられています。
データ
分類 | 食肉目 イタチ科 本種はタイリクイタチ(チョウセンイタチ)の亜種とされることもあります。 |
分布 | 日本(本州、九州、四国 およびその周辺の島) サハリン、北海道、八丈島、奄美大島、沖縄、西表島、波照間島などで移入したものが野生化して分布しています。 |
体長(頭胴長) | オス27~37cm、メス16~25cm |
体重 | オス290~650g、メス115~175g |
尾長 | オス12~16cm、メス7~9cm |
亜種 | ニホンイタチはコイタチ(種子島・屋久島に生息)、オオシマイタチ(伊豆大島に生息)、その他の地域に生息するホンドイタチの3亜種に分類されます。 |
絶滅危機の程度 | 西日本では外来種であるタイリクイタチ(チョウセンイタチ)により山間部へ追いやられ、また急速な都市化により生息地と生息数が減少しています。しかし現在のところはまだ絶滅の恐れは少ないと判断され、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、低懸念種(LC)にランクされています。 |
主な参考文献
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988. |
今泉吉典 監修 | 動物大百科 食肉類 平凡社 1986. |
日高敏高 監修 | 日本動物大百科1.哺乳類Ⅰ 平凡社 1996. |
今泉忠明 | イタチとテン 森をかけめぐる万能選手 自由国民社1986. |
林 壽朗 | 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981. |
齋藤勝・伊東員義・細田孝久・西本秀人 | イタチ科の分類.In.世界の動物 分類と飼育(2)食肉目:今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991. |
東英生、原正宣、羽澄俊裕、楠本清吾 | 多摩川河川敷におけるイタチの生息状況の把握並びに行動圏の調査(ラジオテレメトリー法による), とうきゅう環境浄化財団研究助成成果報告書 115号,1988. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009. |