インドリ属
インドリ属は1属1種ですが、体色の違いから2亜種に分類する学者もいます。マダガスカルの東部の多雨林に生息し、原猿の中で最も大型の種類で、メスがオスよりも体重は重くなります。インドリの特徴はその風貌からも伺えますが、ほかにも木から木に移動するとき、強力な後肢を使って立ったままの姿勢で跳び移ることです。その跳躍力はふつう約3m、ときにはおよそ10m跳んだ報告があります。
また、原地の住民たちはインドリを「森のイヌ」と呼んでいますが、鳴き声に由来したものです。朝夕に、のどを震わせながら1頭が鳴き始めると、群れのメンバーが続き、鳴き声は数km先までとどきます。とくに喧騒が激しいのは採食のときで、お互いのコミュニケーションや群れ同士でなわばりを主張していると推測されます。
インドリ

高い木の上でリラックスしている野生のインドリです。大高成元氏撮影
マダガスカルは日本の1.6倍もある大きな島で、島の中央部東よりに南北に山脈が通っています。このため山脈の東と西では大きく気候が変わります。インドリは東部の海岸に沿った多雨林や多湿の地域、海岸線近くから海抜1800mと広い範囲で生活しています。昼行性のかれらは朝9時から午後3時ころまで活動し、この間約40%が採食時間に当てられます。採食が終わると休息しながらのグルーミング時間となります。夜間は10〜30mの高い樹上で眠ります。これは低地で昆虫に刺されるのを避けているようです。
群れは数頭の成獣の雌雄とその子どもたち2〜6頭で構成されていますが、同性間でも優劣があり、雌雄間ではメスのほうがオスより優位です。
からだの特徴
黄色い目は夜行性動物の目のように内部に反射板(タぺタム)があり、かつて夜行性であったと推測されます。黒い耳、わずかに残る尾はすべてのインドリに共通の特徴です。体毛は黒い部分と灰白色、あるいは赤褐色と変化に富んでいます。臭覚が発達しており唾液腺や性器の臭腺の分泌液を木にこすり付けてなわばりを主張し、雌雄共にこれらの匂いを嗅ぎ取って情報を収集しています。木の葉が主食ですが、粗繊維の消化は腸内細菌が行うため、大きな胃と腸をもっています。歯式は門歯2/1、犬歯1/1,小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて30本です。このうち下顎の櫛(くし)歯は門歯と犬歯各2本で4本となっています。乳頭は胸部に1対あります。
えさ
野生でのえさは、若葉や木の芽が約70%、他に果実、花、種子を食べています。採食する植物の種類数は、42種類あるいは76種類の植物を採食した報告がありますが、4月から9月は果物や花が多くなります。
繁殖
性成熟は7〜9歳で、2〜3年間隔で出産します。発情期は12月から3月で、妊娠期間は120〜150日、出産は5月と6月に多く見られます。通常は1産1子で、生後約4ヶ月間は母親の腹に抱かれて移動しますが、その後は背にのって移動します。子どもは4〜5ヶ月齢で飛び跳ねはじめて、8カ月齢になると上手に跳び移ることができます。授乳は1日に3〜4回行われ、約8カ月齢で減少し、生後1年で終わります。2歳になると母親から離れて餌を探しますが、未だ母親に依存しています。
インドリは飼育が難しく、わずか1例が1年間生存したに過ぎません。また、飼育下の繁殖例もありません。
天敵
人間が肉や毛皮をとるために行う狩猟が最大の天敵です。この他に森林を伐採し木材として搬出することで生息域を失っています。他にもワシやタカなどの猛禽類に子どもが狙われます。
データ
分類 | 霊長目インドリ科 |
分布 | マダガスカル東部 |
体長 | 60〜70cm |
尾長 | 約5.0cmで痕跡程度 |
体重 | 6.0〜10.0kg |
絶滅の危機の程度 | 国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に指定されています。現在は国立公園や保護区で保護されています。 |
主な参考文献
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988 |
今泉吉典 監修 D.W.マクドナルド編 |
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986 |
杉山 幸丸編 | サルの百科 データハウス 1996 |
淡輪 俊監修・宗近功編著 | レムール マダガスカルの不思議なサルたち 東京農業大学出版会 2009 |
NickGarbutt | MAMMALS OF MADAGASCAR A&C BLACK LONDON 2007 |
Nowak,R.M. | Walker’s Mammals of the world Six Edition The Johns Hopkins University Press 1999 |