No.179 ターキン – おもしろ哺乳動物大百科 123 偶蹄目(クジラ偶蹄目)ウシ科

おもしろ哺乳動物大百科ウシ科偶蹄目(クジラ偶蹄目)ペットコラム

ウシ科

ターキン

インドのアッサム、ミャンマー、ブータン、中国のスーチョワン(四川)、ユンナン(雲南)、カンスー(甘粛)、シャンシー(陝西)の高山に分布しています。
分布が不連続的で分布域ごとに体色が異なることなどから、分類は研究者によって違いがみられ、3~4亜種あるいはそれぞれを独立種とする場合がありますが、今泉吉典博士は次の3亜種に分類しています。

  1. アッサムターキン(Budorcas taxicolor taxicolor)
    アッサム東部からミャンマー、およびブータンに分布し、標高1,200~3,500mに生息しています。体の上面は淡灰色か黄色を帯びた灰色、あるいは灰褐色です。
    ブータンに生息する個体群を別亜種とする場合はブータンターキン(Budorcas taxicolor whitei)となります。
  2. スーチョワン(四川)ターキン(Budorcas taxicolor tibetanus)
    スーチョワン(四川)、チョンツー(成都)、ユンナン(雲南)の標高1,500~3,000mの山地に生息しています。オスの体上面の冬毛は赤みの強い黄金色で、濃い灰色の不規則な形の雲型斑がありますが、メスでは黄金色の部分が灰色です。Tangjiahe Nature Reserve(自然保護区)では、51の群れが観察されています。
  3. シャンシー(陝西)ターキンBudorcas taxicolor bedfordi
    カンスー(甘粛)、シャンシー(陝西)の標高1,500~3,600mの急峻な産地に生息しています。北方に生息するものは明るく黄色から金白色になります。メスはベージュ色から濃茶色ですが、オスの成獣はとりわけ冬毛に日光が当たると黄色に輝くことから別名ゴールデンターキンと呼ばれています。

針葉樹と常緑広葉樹のシャクナゲなどの低木や竹が密集した場所や、急勾配の傾斜地に生息しています。夏は標高2,400~4,250mの高地森林限界付近の草地に移動して100~300頭の大きな群れになります。群をつくることで繁殖行動をスムースにしたり、外敵のトラやツキノワグマなどの捕食動物を避けたりしていると考えられています。冬季には10~35頭に分散し草の多い谷間に降ります。
スーチョワン(四川)ターキンの大部分の群れはメス、幼獣、亜成獣、それに数頭のオスからなる混成群で、群れのサイズは10~35頭でした。1頭または数頭のオスが複数のメスを率い、外敵から群を守りながら生活しています。年老いたオスは単独で生活しますが、8~9月の繁殖期はしばしばメスと一緒に過ごします。
シャンシー(陝西)ターキン(ゴールデンターキン)の群れの平均サイズは10.8頭、最大で59頭でした。50%以上が15頭より多く、53%に1頭以上の成獣のメスがいました。1例のみオスだけの群れが観察されています。オスとメスの比率は49頭のオスに対してメスが100頭でした。行動圏は夏が19.5km²、秋が22km²、冬が11km²でした。若メスの行動圏は成獣のメスの行動圏よりも広いと言われています。1年の間に季節によって4回移動しています。夏(6~8月)は2,200~2,800mの高地、冬(12~3月)は1,900~2,400mに低地に移動します。さらに春(4~5月)と秋(9~11月)には1,400~1,900mの低地に短期間ですが移動しています。
ふつう活動時間帯は早朝と夕暮れ時ですが、ブータンでは冬季でも終日断続的に採食しています。移動の際は岩から岩へ跳び移ったり、ゆっくり移動したりしながら定期的にえさ場となる草地や塩なめ場に行きます。
危険を察するとウマのような咳払い、鼻を鳴らす、ラッパ音、鋭いホイッスルのような警戒音を発し、群れのメンバーは安全な藪の中に急いで避難します。(現在は、動物園で検索すれば、インターネットとで録音したターキンの鳴き声を聞くことができます)
発情時にはオスは前肢や胸に自分の尿をスプレー状に飛ばし、一方メスは尾を体に密着して排尿し長い尾の毛を濡らします。このような状態でオスはメスの外陰周辺部を舐めることで、発情の兆候を察知していると考えられます。

体の特徴

顔を見るとウシに似ていますが、全身に油性の臭腺が分布しベタベタしているそうです。そのためこんな雪の中で生息できるのでしょう。

  • 体長 170~220cm
  • 肩高 オス100~130cm
  • 尾長 10~20cm
  • 体重 240~350kg オスの方がメスよりひとまわり大きくなります。

太く短い角は雌雄共にありますが、オスの角はメスより長く、頑丈になります。はじめは基部から上に伸びると急角度で外側に曲がり次に後方に曲がりながら上方に伸び長さが約63cmあります。オスの角の先端部は左右で58~91cmに広がっています。根元の周囲は20~32cmです。肢が短く体は全体にがっしりとしています。後肢より前肢が特に頑強蹄が大きくなっています。飼育下の子どもはヤギのように活発に岩場を駆け登りますが、2つに分れた蹄が岩場を動き回るのを助けます。目は頭部の上方、鼻口部から離れ、角の近くについています。鼻鏡は小さく左右の鼻孔の間に毛が生えています。体毛の長さは横腹が3~5cm、背中は7.5~10cm、頸部は約7cm、あごひげは約12cmです。幼獣や成獣の冬毛の下毛には羊毛状の毛が生えます。たてがみはありません。鼠径腺、眼下腺、蹄間腺など臭いつけを行う特定の分泌線はありませんが、臭腺は全身に分布しており、年中強い臭いがする油状の物質を分泌しているので体中がベタベタしています。生息する地域は湿気が高いのでからだに露が付着するのを防止するためと考えられています。乳頭は2対(4個)で鼠蹊部にあります。歯式は、門歯0/3、犬歯0/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計32本です。

えさ

ターキンの採食する餌の種類は広範囲で、草、木の葉、竹の葉、タケノコ、豆類の葉、ニレの樹皮などがあります。
日中は茂みに隠れ、主に朝夕活動しますが、曇天の時は日中も生息地に点在する灌木や草を採食します。夏の主食は低地に生えているイネ科以外の草(広葉草本)で、茎、花や実も採食します。冬は竹林やシャクナゲの繁った森で竹、ヤナギの芽、シャクナゲの葉や小枝などを主に食べています。直径8~10cmの若木は押し倒して若葉を採食します。
ウシ、ウマ、ヒツジなどの家畜には有毒なキク科セネシオ属の植物も採食しています。後肢で立ち上がると2.5~3mまで届くので、小型の有蹄獣が採ることができない枝や葉を幅広で柔らかな唇で選択しながら採食しています。移動の途中に離れた場所にある塩なめ場や塩分を多く含む沼地に立ち寄り塩分補給をしています。
一般に草食獣は餌にしている植物がナトリウムや塩化物をあまり含んでいないためミネラルと塩分をする必要があり、ターキンもまた、その場所で数日間過ごし採食と塩分補給をしています。
採食する植物数はスーチョワン(四川)ターキンが70種の低木を含む130種類、ゴールデンターキンでは161種類の植物が報告されています。
飼育下の餌は、青草、牧乾草、草食獣用ペレットのほか、樫(カシ)の小枝や葉は好物の一つです。その他、甘藷、ジャガイモ、ニンジン、キャベツ、穀類、エンバクなどを適宜与えています。

繁殖

発情期になると成獣のオス同士は正面から頭部でぶつかり合い激しく戦い順位を決めます。発情周期(排卵周期)はよこはま動物園の記録では平均23.3日と報告されています。スーチョワン(四川)での交尾期は7月下旬~8月上旬、出産は翌年の3月から5月で、生後2ヶ月齢で肩高60cmになりました。角芯はまだありませんでした。シャンシー(陜西)では4月が交尾期で出産は翌年の2月から3月でした。
妊娠期間は飼育下で200~220日、平均で210日です。妊娠中は活動が不活発になり休憩する時間が長くなります。出産はメスの群れの中で行われ、母子は一緒にいます。生まれた時の子どもの体重は5~7kg。一産一子で稀に双子が生まれます。子どもは産後約30分以内に起立し、乳を飲みます。生後3日齢以内で母親とどこにでもついて行くことができます。生後1ヶ月齢で濃い茶色の体色が明るくなってきます。生後1~2ヶ月齢で固形物(草)の採食量が増加すると授乳回数が減りました。多摩動物公園での繁殖例では生後1週間ごろ落ち葉や乾草を口に入れたり、土を舐めたりしたとの報告があります。生後2ヶ月齢で肩高60cmになりました。多摩の例では生後5ヶ月齢で角が萌芽しました。
性成熟はオス、メスともに平均3.5歳ですが、オスが実際に交尾できるのはさらに数年後になると思われます。若オスより年上のオスのほうが種オスになる確率が高くなります。
なお、多摩動物公園の観察によれば、母親は採食中に近づいてきた子どもを追い払うしぐさを見せたそうです。野生では他の個体と一緒に採食しないようなので、自分の子どもとて例外ではないのでは、と報告しています。しかし、危険を察知すると即座に子供を守る行動も見せるとも報告しています。
長寿記録としてはベルリン動物園で1983年2月17日に生まれ、2005年1月現在も飼育中の個体(メス)の飼育期間21年10ヶ月があります。

外敵

外敵として、ヒョウ、ドール、トラ、ユキヒョウ、ハイイロオオカミ、東アジアに生息するクロクマ(ツキノワグマ)などがいます。しかし、一番の外敵は人間と言われています。

主な減少原因

野生の生息地は高地ですが森林伐採が進み生息域が減少しています。加えて食用や薬用、毛皮を得るために続いてきた密猟により生息数が減少しています。現在は中国、ブータンなどいずれの原産国でも手厚く保護されています。

絶滅危機の程度

国際自然保護連合(IUCN)発行の2015年版レッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。また、ワシントン条約では付属書Ⅱに掲載し、国同士の取引を制限しないと将来絶滅のおそれがあるとして、輸出入に際しては輸出国の輸出許可証が必要としています。
ブータンにあるジグメ・ドルジ国立公園は東ヒマラヤ地区で最も生態系が豊かな場所で、温暖な広葉樹林から北西の国境にある氷河と永久氷原まで広がり、そこに生息するターキンも保護されています。そして、中国ではターキンをジャイアントパンダと並んで、国家第一級の保護動物に指定して保護しています。

データ

分類 偶蹄目(クジラ偶蹄目) ウシ科 ターキン属
分布 インドのアッサム、ブータン、ミャンマー、中国:スーチョワン(四川)、ユンナン(雲南)、カンスー(甘粛)、シャンシー(陝西)の高地
体長(頭胴長) オス 210~220 cm メス 約170 cm
体重 オス 300~350 kg メス 240~280 kg
体高(肩高) オス 110~130 cm メス 100~110 cm
尾長 15~20 cm

主な参考文献

1) V.ガイスト ヤギ、ヒツジの仲間 In 動物大百科 4. 大型草食獣
D.A.マクドナルド編 今泉吉典 (監修) 平凡社 1986.
2) 今泉吉典 ターキン属 ウシ亜科の分類 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅲ (財)東京動物園協会 1988.
3) 林 壽郎 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968.
4) Neas, J. F. & Hoffman, R. S. Mammalian Species. No.277, Budorcas taxicolor.
The American Society of Mammalogists. 1987.
5) Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ
The Johns Hopkins University Press, Baltimore. 1999.
6) Parker, S.P.(ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
7) Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. (ed) Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.
タイトルとURLをコピーしました