No.181 ケープハイラックス – おもしろ哺乳動物大百科 125 ハイラックス目 ハイラックス科

おもしろ哺乳動物大百科ペットコラムハイラックス目

ハイラックス目

アフリカから中近東まで広く分布する草食性の原始的な有蹄獣で、ゾウに近い動物と考えられています。1科3属11種に分類されます。

ハイラックス科

ハイラックス科はキノボリハイラックス属、イワハイラックス属、ハイラックス属の3属に分類され、合わせて11種が生息しています。体重は1.5~5.5kgとウサギほどで、体つきがタヌキに似ているところから別名イワダヌキと呼ばれています。しかし、骨格化石や体のつくりがゾウと似ていることから分類上はゾウに近い仲間とされ、近年のDNA分析結果からも証明されています。

  1. キノボリハイラックス属
    ミナミキノボリハイラックス、ニシキノボリハイラックス、ヒガシキノボリハイラックスの3種に分類されます。アフリカの南東部、東部、中央部、西部に分布しています。乳頭数は鼠蹊部に1対で稀に胸部にもある個体がいます。餌は葉食が主食ですが昆虫も採食します。他のハイラックスと違い夜行性です。ニシキノボリハイラックスはもっとも原始的なハイラックスで、唯一樹上で生活します。
  2. イワハイラックス属
    アハガルイワハイラックス、コンゴイワハイラックス、キボシイワハイラックスの3種が知られています。アフリカ中部から北部にかけて分布しています。昼行性で岩場や崖、木の洞を利用してねぐらにしています。体色は背側に淡灰色で黄色の斑点があり、下部は白色です。乳頭数は胸部に1対、鼠蹊部に2対あるものと、胸部にはない種がいます。
  3. ハイラックス属
    アフリカ全土、アラビア半島東部、シナイ半島からレバノンまでハイラックスの仲間で最も広い範囲に分布しています。今泉吉典先生と齋藤勝氏は次の5種に分類しています。種ごとに体色は若干違いがあります。a.ケープハイラックス b.シリアハイラックス c.サハラハイラックス d.カオコベルトハイラックス e.ジョンストンハイラックス。この中から日本の動物園でもなじみの深いケープハイラックスを紹介します。

ケープハイラックス

南アフリカ、ボツワナ、ジンバブエ(旧ローデシア)、マラウイ南部の各地に分布しています。サバンナ地帯の岩場、イネ科の生える草原、低木林などに生息して、砂漠や半砂漠のような乾燥した環境を好みます。巣穴は岩の下や割れ目、自分で掘った穴を利用して群れで生活しています。1頭が岩場の頂上で見張りをして危険が迫ると声をあげ避難させます。巣穴として利用する割れ目の深さは14cm程度あればよく、わずか1m²の場所に成獣の5頭がくっついていたと報告されています。また、巣穴の入口の広さは外敵となる動物の大きさと関係が深くあります。ヒョウのような大型動物が外敵となっている場所では入口が狭く、ヒョウが入り込むことができないようになっています。基本的に家族単位で2~26頭の群れで生活しています。その社会構造は生息地の大きさによって変わります。4,000m²以下の所では、1頭のなわばりを持つオスと3~7頭の血縁関係のある成獣メス、周辺部のオス、亜成獣のオスとメスで構成されて、なわばり内に侵入してくるオスを激しく攻撃しています。また、成熟したオスは次の4つのタイプに分類できると報告されています。(1)なわばりを持つオス(2)周辺部にいるオス(3)前期はなれオス(生後16~24ヶ月齢の若オス)(4)後期はなれオス((3)より1年遅れのオス)です。最優位のなわばりオスがいなくなると、単独で生活している周辺部のオスの中でいちばん順位が高いオスがメスの群れを引き継ぎます。活動する時間帯は昼行性で7時30分~9時30分と15時30分~18時30分の2回ピークがあり、月明かりのある時は夜間も活動します。一日のうち90%以上は休憩しています。ハイラックスは他の多くの哺乳動物に比べ体温の調整能力が乏しく、変温動物のように外気温に左右されます。そのために夏と冬、時間帯、天候などの変化によって活動量が変わります。寒いときは日光浴したり、お互いにくっつきあったりして暖を取り、雨天の時は巣穴から出ません。反対に暑いときは巣穴で休息しています。危険が迫るとこれらの巣穴に逃げ込みます。決まった場所に排泄するため炭酸カルシュウムの結晶が堆積し岩肌が白くなっています。視覚、聴覚ともに鋭く素早く動きます。鳴き声は21種類が報告され、仲間同士のコミュニケーションとして、警戒、不安、脅しなどに使います。クックックッやピーピー音、あるいはブタのようにキーキーが良く聞かれます。歩く時は、前足は足の裏を地面につけて歩く蹠行性ですが、後ろ足はつま先だけで踵は地面に付けずに歩く指向性です。

体の特徴

分類学的にはゾウに近い種類ですが、外見上は大違い。大きさはウサギくらいのかわいい動物です。写真家 大高成元氏撮影

  • 体長 30.5~58cm
  • 体重 3.6~4.0kg 雌雄の体格はほぼ同じです

体色は茶を帯びた灰色で、毛は短くて硬く、体には長い毛がところどころに生えていて感覚毛として働いています。口先は短く、耳は丸くて小さく毛が生えています。尾は1.1~2.4cmと短く外見上見えません。四肢は短く前肢に4指(第1指はありません)、後肢には3本の指(第1指と第5指はありません)があり、前肢と後肢の第2指以外の指には蹄と似た平爪がありますが、後肢の第2指だけは鋭い鉤爪となっています。この鉤爪と下顎の門歯(切歯)はセルフグルーミングをする時に使われます。肢の軸は第3指を通ります。前肢はゾウに似て、手根骨の構造が同じく上下2列に並び、上列と下列もきちんと並んでいます。足裏はやわらかで凸凹があり岩場を歩くのに適しています。活動するときには足裏にある分泌腺から分泌液が出て滑り止めとなり、垂直に近い岩山や木にも登れます。背に分泌腺の背腺(はいせん)裸出部があり黒色の長い毛で囲まれ、発情期には黄色の液体が出ます。背中に分泌腺があるのはペッカリー(北アメリカ南部から南アメリカに分布するイノシシのなかま)と似ています。胆嚢(たんのう)はありません。胃は単一でバクやウマに似ていますが、一対の盲腸のほかに結腸の一部に一対の盲嚢膨大部があり植物の消化を助けています。腎臓が効率的に働くため、水は少量で足ります。歯式は、門歯1/2、犬歯0/0、前臼歯4/4、臼歯3/3で合計34本です。上顎の門歯(切歯)は1対少なくなっています。また、上顎の門歯は無根で一生伸び続け、先端はエナメル質があって堅いものをかじるのに適しています。臼歯の表面は歯冠が高く、畝(うね)があってかたいイネ科植物を食べることができます。乳頭は胸部に1対、鼠蹊部に2対で計3対(6個)です。
体の特徴は遺伝的には原始的な有蹄類に近いことがわかっています。

えさ

巣穴から50~100mの場所で一日に約1時間採食しますが、多くの草食獣のように門歯(切歯)を使って植物をかみ取るのではなく臼歯を使います。草や樹皮のほか、木の葉や実、果実や花、地衣類、苔類など、季節に応じて様々な植物質を食べます。主にイネ目イネ科が主食でキビ属(ギニアグラス)、雑草のハルガヤ属、メガルガヤ属、チカラシバ属、マダケ属、マツバシバ属です。その他、ユキノシタ目ベンケイソウ科マンネングサ(セダム)属、キク目キク科ウスユキソウ属や樹木のマメ目、マメ科、キンモクセイ属及びアカシア属、キク目モクセイ科オリーブ属がリストアップされています。また、有毒なキク目キキョウ科キキョウ属・ミゾカクシ属、ロベニア属なども採食しています。
飼育下の餌として、ニンジン、サツマイモ、リンゴ、バナナ、パン、穀類、青草、乾草、動物用のソーセージ、コオロギなどが給与されています。また、アカシアの葉、カシの新芽、バナナを先に食べると報告しています。

繁殖

南アフリカでは交尾期は2月から3月で出産期は9月と10月です。発情周期は約13日ですが、しばしば7週間になることもあります。交尾する個体の多くはなわばりを持っているオスと成獣のメスです。発情中は鳴き声が非交尾期より頻繁になり、なわばりに侵入する他個体を上顎の門歯(切歯)を使い激しく攻撃することもあります。妊娠期間は212~240日間で、1産1~6子、普通は2~3子を出産します。小型の草食獣としては妊娠期間が長いのは、ハイラックスの祖先が今よりはるかに大型であった時代の名残ではないかと考えられています。初産の産子数は1~2頭ですが、2~8歳では産子数が増え、老齢個体は減少します。出産直後の子どもは目が完全に開き、毛も生え揃った状態で生まれます。出産時の体重は170~240gで母親の体重の10.8%でした。生後2日齢で高さ40~50cm跳びあがり、生後3~4日齢で少しずつ食べ物を採食し始めます。最初の数日間はおよそ1.5時間間隔で授乳します。生後2週齢で固形物も摂取できます。離乳は生後3ヶ月齢です。性成熟はオス、メスともに通常は28~29ヶ月齢と言われています。オス、メスともに3歳ほどで親と同じ大きさになります。
飼育下の長寿記録としては、1987年3月15日にアメリカのバージニア州のバージニア動物公園で死亡した個体(メス)の飼育期間14年10ヶ月という記録があります。野生では8.5歳、10歳の記録があります。

外敵

肉の利用のために狩猟をする人間は最大の敵ですが、野生動物の外敵はヒョウ、ジャッカル、リカオン、サーバルキャット、ライオン、マングース、エジプトコブラ、パフアダー(毒ヘビ、クサリヘビ科、全長約1m、胴が太い)、コシジロワシ、サメイロワシ、ゴマバラワシやフクロウなどが挙げられています。

生息数の現状と絶滅危機の程度

地域によっては肉を目的とした狩猟がおこなわれていますが、分布が広く生息数も安定しているので、現在のところは絶滅のおそれも低い種であるとして、国際自然保護連盟(IUCN)発行の2015年版レッドリストでは低懸念種(LC)になっています。

データ

分類 ハイラックス目(イワダヌキ目)ハイラックス科
分布 南アフリカ、南西アフリカ、ボツワナ、マラウイ、ジンバブエ(ローデシア)
体長(頭胴長) 30.5~58.0 cm
体重 オス 平均 約4.0 kg メス 平均 約3.6 kg
体高(肩高) 20~30 cm
尾長 1.1~2.4 cm(外見上見えない)

主な参考文献

G.E.ベロフスキー ハイラックス In 動物大百科 4 大型草食獣 D.A.マクドナルド(編) 今泉吉典 (監修) 平凡社 1986.
今泉吉典 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
Estes, R.D. The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991.
林 壽朗 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore. 1999.
Olds, N. & Shoshani, J. Mammalian Species.No.171, Procavia Capensis The American Society of Mammalogists. 1982.
Parker,S.P.(ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
斎藤 勝 1.ハイラックスの分類 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅲ (財)東京動物園協会 1988.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. (ed) Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.
三浦愼悟 小学館の図鑑 NEO 新版 動物 ハイラックス目 2014.
イアン・レッドモンド
川口幸男 (日本語版監修)
ビジュアル博物館 象 同朋舎出版 1994.
滝沢晃夫 イワハイラックスの飼育経過 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅲ (財)東京動物園協会 1988.
山根健一、福永年博、原本 章、大津晴男 イワハイラックスの飼育と繁殖 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅲ (財)東京動物園協会 1988.
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