No.172 ヒトコブラクダ – おもしろ哺乳動物大百科 117 偶蹄目(クジラ偶蹄目)ラクダ科

おもしろ哺乳動物大百科偶蹄目(クジラ偶蹄目)ラクダ科ペットコラム

ラクダ科

同じ偶蹄目のキリンやシカより古く出現し、ラクダ亜目に分類されています。現生のラクダ科はラクダ属とラマ属、ビクーナ属の3属に分類され、ラクダ属にはヒトコブラクダとフタコブラクダの2種がいます。両者は背中にある大きなコブの数がひとつかふたつかで容易に見分けられます。コブは大きいもので約100kg、小さいものでも約30kgの重さがあります。
ラマ属はグアナコ、ラマ、アルパカの3種、ビクーナ属はビクーナ1種がいずれも南米の南部と西南部の高山に生息しています。大型のラクダ属に比べ、ラマ属は肩高130cm以下で、耳介が大きく、背中にコブはありません。尾は短く先端に毛の房もありません。
前足、後足ともに指は第3指と第4指の2本で、他の偶蹄類と違って指が地面に着く指行性です。足の底は幅が広くなっています。ラクダより後に出現した同じ偶蹄類のキリンやシカ、イノシシ、ウシは足の指を立てて歩き、指先の周りを蹄で包んでいますが、ラクダの指の骨はほとんど水平で、地面に接する部位に硬いパッドがあり、砂漠などの環境に適応しています。爪は人間と同様に指の上側だけをおおう扁爪です。胃は4つに別れていますが、第3胃が小さく第4胃と境界がはっきりしていないため、過去には3室と考えられていました。盲腸は短く、胆嚢はありません。
このように偶蹄目の中でラクダ科は肢や胃に独特な形態をもち、砂漠のような過酷な環境に適応し生きてきました。

ラクダ属

大型で肩高160cm以上、耳介は小さく上唇は大きく垂れ下がっています。尾はやや長く先端に毛の房があります。前胸、肘、手根部、後肢の膝にそれぞれ「タコ」あって、座るときにこのタコのお蔭で熱い砂漠の上でも耐えることができます。足の指は2本ですが、指の幅が広く足底ではほぼ繋がってハート形を呈して砂地にめり込まないようになっています。砂漠の船と形容されるように、背中のコブは水を貯めていて、砂漠で水分不足の時に水に換えて使うと長い間信じられていましたが、実際は脂肪組織です。体の脂肪をコブに集中することで、他の部位の脂肪を少なくし、熱を逃がしたり日光を遮断したりしています。休憩するときに太陽に向かって座ることで、日光の照射を最小限に体に受けています。さらに、外気温に合わせて体温を34℃から42℃の間で上下することができます。この結果、日中、砂漠の気温が上昇したときは体温を上げることによって40℃以上になるまで汗をかきません。ふつう動物の水分は血液や筋肉などの体組織に含まれ、汗は血液中の水分を主に使いますが、ラクダは組織の中の水分を使うため血液中の水分は一定に保たれています。多くの動物は体重の約15%の水分を失うと脱水症状を呈しますが、ラクダは約30%の水分を失っても耐えることができます。脱水状態後に、体重202kgの若いメスが1度に66.5L、235kgのオスが104L、他にも一度に130Lの水を飲んだ例が報告されています。第一胃が貯水槽として働き、12分間に体重の30%の水を飲んでも血液の浸透圧は正常値より少し下がる程度で済みます。そして、このように急激に大量の水を飲めば、他の動物では赤血球が壊れてしまう危険がありますが、ラクダの場合は赤血球の数が多いことや、形が細長く血液が流れやすいために膨張しても血管が破裂することはありません。また、体の水分を無駄なく使うために、血液中の水分を排泄する前に腎臓で再吸収して濃い尿として排泄し、大腸でも水分を吸収するので、糞は乾燥した状態で排泄します。ウシの呼吸数は平常時約20回で、高温になると60~80回になるのに比べ、ラクダは20回程度と暑くなってもあまり変わりません。反対に寒いときには体温を下げることによってエネルギーをおさえています。

ヒトコブラクダ

原産地は北アフリカとアラビアの砂漠と考えられますが、野生のものはすでに絶滅し、家畜化したラクダが北アフリカ、インド、ヨーロッパ南部、カナリー諸島で飼育され、その後南アフリカ、アメリカ合衆国、オーストラリアなどに移入されました。特にオーストラリアでは移入されたものが逃走して、野生化し広大な砂漠に大群が生活しています。現在ヒトコブラクダは全世界で約1400万頭生息しているといわれていますが、このうちオーストラリアで野生化しているものは約100万頭と推測されます。
野生時本来の行動はわかりませんが、以下は主にオーストラリアで野生化したラクダの生態を参考にして紹介します。
ヒトコブラクダは暑くて乾燥した土地で乾季と短い雨季があるような環境を好み、湿気が多く寒さの厳しい地域では飼うことが難しい動物です。暑い時には群れ同士が一か所に集まって、外から高い温度が流入するのを防ぎます。夏(10~3、4月)にはメス中心のグループ、冬(4、5~9月)には繁殖グループが見られます。ふつうは家族単位の群れで生活し、1頭のオスと複数のメス、その子どもたちからなる2~20頭で、一夫多妻のハーレムを築きます。ハーレムに入れないオスは、オス同士で群れを作ります。移動するとき、リーダーのオスは後方からメスたちに指示を出し、一列縦隊になって砂の中を歩いていきます。ラクダの歩き方は体の左右の同じ側にある脚を同時に前に踏み出す「側対歩」と呼ばれる歩き方をします。ふつう1分間に40歩、時速約5kmで歩きますが、時速7~25kmで歩くことができます。日中は休み、朝夕に移動します。短期間の行動圏は50~150km²ですが、年間では5,000km²に及びます。また、泳ぐのも上手です。サハラでの調査例では“においつけ行動”は観察されませんでしたが、イスラエルの場合、オスが後頭部からの分泌物を特定の場所にこすり付けたと報告されています。
座るときは初めに前脚を折り曲げ、膝の上に体を乗せます。次に後ろ足を折り曲げて体の後ろ部分を地面に下ろします。
この写真を見ると、カバの子どもと見まちがえるかもしれませんが、これでも立派なコビトカバの成獣です。体重はカバの十分の一くらいです。

体の特徴

本当に首と肢が長いですね。この体形が極暑の砂漠に対応する秘密の一つです。写真家 大高成元氏撮影

  • 体長 220~340cm
  • 体高 180~200cm
  • 尾長 45~55cm
  • 体重 400~600kg

頭部と首は長く、上に伸ばすと365cmの高さになり、遠方の植物や水を視覚と鋭い嗅覚で発見できます。背は山のように盛り上がり一つのコブ状の山型を形成し名前の由来となっています。毛皮は細かい毛がびっしり生え断熱効果が高く、体毛はヒツジの毛のようで、頭頂、頸部、喉、肩、背中のコブで長くなっています。冬の長い被毛は春に抜け替わり、夏季には短くなります。体色は薄い茶色で腹部は薄く色も白っぽく、地面からの反射熱を防いでいます。顔に分泌腺はありませんが、オスでは後頭部に分泌腺(後頭腺)が発達しており、発情中は黒い粘液を分泌します。4肢は細長く、地表から腹部が離れることで、砂漠の熱い反射熱を防ぎます。足底の大きさは前足が長さ18cm、幅19cm、後ろ足は長さ16cm、幅17cmで、いずれも幅広で丸く、踵の厚いパッドで体重を支えています。大きな目は視力が発達して、虹彩は楕円形で細長く、太い眉毛と2列に生えた長いまつ毛で保護され、哺乳類では珍しく瞬膜があり、砂嵐の時でも砂が入るのを防ぎながら見ることができます。聴覚も発達し、自在に動く小さな耳の耳孔は細かい毛が密集し、鼻孔も開閉でき、ともに砂漠の砂嵐にも耐えることができます。鼻の粘膜の表面積は広く、砂漠で乾いた熱い空気を吸い込み水分が蒸発すると、その気化熱で鼻の粘膜が冷やされ、同時に血液も冷やされます。大きく硬い唇は、中央でウサギのように分かれていることで、唇を左右別々に動かし、器用に棘のある枝を折ったりむしりとったりすることができます。
ラクダは家畜の歴史が古いため、歯の萌芽状態が良く調べられていて、年齢を決める時の一つの指標としています。歯の萌芽状態から成長を見た場合、8歳までに下顎切歯6本(左右各3本)と下顎犬歯2本(左右各1本)が生えてオトナとします。9歳では、さらに上顎の切歯2本(左右各1本)と犬歯2本(左右各1本)も生えて、完全なオトナとしています。15歳をこえると歯が抜けはじめ採食が困難になる、と報告されています。歯式は門歯(切歯)1/3、犬歯1/1、前臼歯3/2、臼歯3/3で合計34本です。乳頭は鼠径部(そけいぶ)に2対あります。

繁殖

繁殖期は冬で雨期と重なりますが、サウジアラビアではオスは年中交尾可能です。モロッコで12月中旬から5月、エジプトでは3月から4月、インドでは11月から2月、オーストラリアでは6月から9月です。発情周期は平均28日、発情は2週間続きます。発情後2日目くらいにメスが座って交尾します。オスは発情期になると後頭腺から盛んに分泌物をだし、肩の部分や柱などになすりつけます。また、泡を吹きながらピンクの口蓋を膨らませ口から出します。時にはオスの間でメスをめぐる戦いが行われ、低い声を出して威嚇したり、噛みついて相手を倒そうとしたりします。発情中のオスは気が荒くなり飼育員も咬まれて大けがをした例が各地で報告されています。メスは交尾の刺激によって排卵し受胎します。妊娠期間は平均377日、ケニアでは360~411日、インドの平均390日、その他に336日前後など報告があり幅があります。出産間隔は2年に1回(ケニアでは平均20.2ヶ月)です。普通は1産1子ですが、まれに双子の例もあり、その割合は0.4%程度と言われています。出産時の子どもの体重は、チュニジアでは平均で25.8kg、インドで平均37.3kg(26.4~52.3kg)と差があります。生まれた日に歩くことができます。そのほかの行動が初めて観察されたのは次のように報告されています(生まれてからの時間)。ものを噛む:10分後、歯ぎしりと頭振り:18分後、地上で体の向きを変える:74分後、強烈な吸引力で吸い込む:100分後、蹴る:156分後、欠伸をする:160分後、排尿:185分後、尾でたたく:198分後、母親の頸部に体をこすり付ける:294分後、身震いする:304分後。
初発情は生後4.5~10ヶ月齢に見られます。9~11ヶ月齢まで授乳しますが、家畜のラクダで乳を利用する場合、2~3年授乳させながら搾乳します。2歳までは母親と一緒にいます。メスの性成熟は3歳ですが、ふつうは4~5歳で交尾をさせます。ケニアでは初産は45.6~71.3ヶ月齢(平均54.2ヶ月齢)でした。20歳ぐらいまで繁殖可能です。オスも3歳ぐらいで発情をはじめますが、実際に繁殖可能になるのは6~8歳になってからです。
約1000年もの間、トルクメニスタン、イラン、アフガニスタンなどで、フタコブラクダのオスとヒトコブラクダのメスを交配させて雑種が作られています。この雑種はオスでも発情期に凶暴になることがないので、使役に広く使われていますが、繁殖能力がないと言われています。
長期飼育記録としては、アメリカのフィラデルフィア動物園で1914年4月4日から1942年9月5日まで飼育された個体(オス)の28年5ヶ月があります。

えさ

基本的に木の新芽や葉を採食するブラウザーで、首を上に伸ばすと高さ350cmの木の枝や葉を採食できます。サハラ砂漠では潅木やイネ科以外の広葉草本が冬で70%、夏は90%混じっていました。他の草食動物が利用しないような栄養価の低いものでも、食べられる植物は何でも食べることで有名で、サハラでの調査ではアカシアやアカザ科などトゲのある植物や塩分を多く含む植物332種類(1984年)がリストアップされています。一日のうち8~12時間を採食時間に費やし、一口に40~50回咀嚼し、植物の栄養分を余すことなく吸収しています。

データ

分類 偶蹄目(クジラ偶蹄目) ラクダ科 ラクダ属
分布 東南アジア、北アフリカ、オーストラリア
体長(頭胴長) 220~340cm
体重 400~600kg
体高(肩高) 180~200cm
尾長 45~55cm

主な参考文献

D.A.マクドナルド編
今泉吉典(監修)
動物大百科 4 大型草食獣 R.A.ペルー著 カバ 平凡社 1986.
今泉吉典 (監修) 偶蹄目総論 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ (財)東京動物園協会 1977.
K öhler-Rolleson, I U. Mammalian Species No.375 Camelus dormedarius.
The American Society of Mammalogists 1991.
小森 厚・小泉満冶 ラクダの飼育 In世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅰ (財)東京動物園協会 1977.
堀内 勝 家畜の文化史 三日月書店 1986.
増井光子(訳・監修) ラクダ ズー・ブックス 誠文堂新光社 1985.
坂田 隆 砂漠のラクダはなぜ太陽に向くか 講談社 BLUE BACKS1991 .
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Weigl, R. Longevity of Mammals in Captivity; from the Living Collection of the World , Vertriebsverlag. 2005.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of The World.2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions
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