No.184 ニホンリス – おもしろ哺乳動物大百科 128 げっ歯目(ネズミ目)

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げっ歯目(ネズミ目)

げっ歯目(ネズミ目)は哺乳類の中で最も多くの種類を含んでいます。リス亜目、ネズミ亜目、テンジクネズミ(又はヤマアラシ)亜目の3亜目に大別され、今泉吉典博士は29科1749種に分類していますが、近年の新しい分類では2,000種以上に分類し、全哺乳類の44%に達するとしています。その特徴の一つは門歯が無根で一生伸び続け、かじることでのみのように鋭くなることです。
南極以外のすべての大陸に生息し、地上、樹上、地下、水中まで生息して、環境によって適応した体になっています。体の大きさは、最小のカヤネズミは、体長5~8cm、尾長6~8cm、体重が7~14gです。最大種のカピバラは体重が35~66kgです。仮にカピバラの体重を50kg、最小種のカヤネズミの体重を10gとすれば両者の差は5000倍にもなります。
本編では29科の中からリス科、ビーバー科、ヤマアラシ科、カピバラ科、ハダカネズミ科を選び紹介します。

リス科

今泉吉典博士は49属、256種ですが、学者によっては50属、約260種に分類しています。生息域は広く南極、北極の両極地とオーストラリア大陸以外のほぼ全世界に分布しています。生活形態から樹上性リスタイプ(ニホンリス、キタリスなど)、地上性リスタイプ(シマリス、ジリスなど)、ムササビタイプ(ムササビ、モモンガなど皮膜で滑空するもの)の三つに分けられます。このうち樹上性と地上性のリスでリス科全体の約85%を占めています。
日本には、樹上性のリスとしてはニホンリスやエゾリス(キタリスの亜種)が、地上性リスではエゾシマリス(シマリスの亜種)が分布しています。これらのリスは長くふさふさした尾をもっていますが、北米中央部に分布する地上性リスタイプのプレーリードッグは穴を掘って生活するので耳や尾が短くなっています。また、ムササビタイプのものではエゾモモンガ、ニホンモモンガ、ムササビが日本に分布しています。ムササビの場合は樹の高低差により滑空距離も違いますが、ふつう40~50m程度、うまく風に乗れば100~160m滑空します。一回り小型のモモンガでは滑空距離もふつうは20~30mです。
本編ではこの中からリス属の日本固有種であるニホンリスと北米に生息するプレーリードッグ属のオグロプレーリードッグを紹介します。

リス属

リス属は27種あるいは学者によっては28種に分類しています。種類が多いので個別の紹介は省略し、はじめに日本に生息する二ホンリスを紹介します。

ニホンリス

日本固有種で本州、四国に生息しています。以前は、九州や淡路島でも観察されていましたが、最近は未確認で絶滅が心配されています。本州中部以北では平地から標高2500mあたりまで、富士山では標高2300mで見ることができます。生活圏は広葉樹や針葉樹の森林で、10m近くもある高い樹上に20~40cm程度の楕円形の巣を2~7個作り、休憩場所や隠れ家として使っています。巣材は細い木の枝で外側を作り、内側には柔らかい樹皮、草、それにコケなどを使い、巣穴に適した樹洞があれば利用します。昼行性で朝夕に活発に活動し、夜間は巣の中で休息しています。四季により活動時間が変わり、冬季における長野県蓼科の調査によれば、外温がマイナス20℃にもなる地域では日の出から1~2.5時間後に巣を出て、活動時間も1~2時間程度と短めですが、夏季には早朝4時30分頃巣を出て午後2時30分頃巣に帰り休息し、夕方涼しくなると再び採食に出かけると報告されています。二ホンリスは冬眠しないので夏の終わりから初秋にかけて冬用に食物をあちこちに隠すことが知られています。積雪で種子が手に入らない時のために地中に約60%、樹上に約40%を貯蔵したとの報告もあります。ふだんの行動圏は、メスは5~17ha、オスは4~30haで食物が豊富な地域は行動圏が狭くなります。成熟メス同士の行動圏は重複しませんが、オス同士の行動圏及びオスとメスの行動圏は重複します。春の交尾期にはオスはメスの3倍になった報告例があります。鳴き声は発情の間は頻繁に鳴き、危険が迫ると鋭い警戒音を発します。また、尾はふるわせたり、振ったりして仲間同士で合図を送ります。
センザンコウは赤ちゃんを背に乗せて移動します。これ以上安全な場所はありませんね。

体の特徴

井の頭自然文化園に行く機会があったらリスの小径に足を運んでください。愛くるしい二ホンリスたちに会うことができるでしょう。写真家 大高成元氏撮影

  • 体長 16~22cm
  • 尾長 13~17cm
  • 体重 250~310g

門歯は歯根がなく一生伸び続けます。歯式は、門歯1/1、犬歯0/0、前臼歯2/1、臼歯3/3で合計22本です。乳頭は胸部0-2、腹部4、下腹部2計6~8個です。体色は、冬は暗い褐色や灰褐色ですが夏は明るい茶褐色や赤褐色となります。尾の先端は白、目の周りには白いアイラインがあります。冬毛は耳先にふさ毛が生えます。換毛時期は3月になり暖かくなるころ冬毛から夏毛になり、10月頃夏毛から換わりはじめ12月には冬毛となります。鼻先の毛は長く触毛の働きをしています。
前肢の親指はなく4本、後肢の方が長く、指は5本ありそれぞれ鋭い鉤爪がついています。木を上り下りする時にはこの鋭い鉤爪を樹皮にひっかけます。特に後肢は特殊な構造をしていて、足首を180度自由に回転することができるので、木から下りる時には後肢を後ろにのばし、爪をフックのように引っかけることができます。耳は大きく聴覚が発達して鳴き声でコミュニケーションを行っています。尾は移動するときにバランスをとるのに役立つだけでなく、付け根に血管が集合していて、夏は熱を放散し冬は尾を丸めて抱くようして暖を取るのに役立っています。尾は振ることで他個体とコミュニケーションをはかっています。大きな目は顔の外側に張り出すようについて後方や上下まで広範囲の物を見ることができます。顔の前方についていることでサルのように立体視でき距離感も正確のようです。シマリスと違い二ホンリスには頬袋はありません。

えさ

生活圏内の広葉樹、針葉樹の実や新芽、果実、草などの植物が主食ですが、他にもキノコ、昆虫や鳥の卵、死んだ動物の骨なども採食します。好物はオニグルミと松類の実ですが、他にも季節によって旬の植物を採食しています。春になり花が咲く季節になればヤマザクラやクルミ、コナラ、クリなどの花や新芽を採食し、果実、種子以外の植物質を食べる比率が大きくなります。夏にはヤマグワやヤマモモの熟していない実、オニグルミの実、アカマツ、カラマツ、ゴヨウマツの種子、昆虫などを採食しています。夏季の終わりの8月から10月になると豊富なクリやこぶしの種子、ヤマブドウ、アケビの実、ドングリの実(ブナ科コナラ属のカシ・ナラ・カシワ、スダジイ、クリなど)を地面や木の間に蓄えます。松ぼっくりは外側の鱗片を一枚ずつはがし、鱗片の間にある実を採食します。鱗片が全部取られると残った部分がエビのしっぽのような形になり、林の中で落ちていればリスがいる証拠です。オニグルミは1年を通じて主食のひとつですが、皮が固く貯食しても果実のようにすぐに腐ることもなくドングリ類より実も多く貯食用に最適です。二ホンリスはオニグルミを割れ目に沿って2つに割って食べるのに対し、アカネズミは横に穴をあけて食べるため野山で落ちている実の穴を見れば両者の区別ができます。この時期にはキノコ類も採食します。やがて冬が来ると地中に貯蔵した餌を掘りだして採食します。植物の種類数は15~42種類が報告されています。
動物園の餌は、カシグルミ、ヒマワリ、麻の実、ドッグフード、サツマイモ、ニンジン、リンゴ、コマツナ、繁殖期には動物質補給のためミールワーム、煮干し、ブタの骨も与えていますが良くかじっているそうです。

繁殖

繁殖期は通常2~3月に発情し、3~4月に出産します。餌がふんだんにあって気候も温暖で発情に適した環境の場合、さらに2回目の発情が5~6月にきて8月頃出産します。出産は巣の中で行います。巣は長径40cm,短径25cm,高さ20cm程度で、巣材は巣をかける樹の小枝を使い、内側はおもにスギ・ヒノキの樹皮やコケです。発情期間は短く半日から2日間で、発情したメスの陰部は腫脹し、オスは睾丸が下垂、腫脹します。発情したメスは2~3日キイキイ、ルルルッと激しく鳴き、複数のオスと交尾します。妊娠期間は約40日で妊娠したメスは攻撃的になりオスを近づけません。一腹の産子数は井の頭自然文化園(以下井の頭と表記)の例では3~4頭ですが、野生の報告例を合わせて見ると1産に2~7頭になります。生まれたばかりの子どもの体重は6~8g、井の頭の3頭の平均体重は7.7g、頭胴長5.2cmと報告されています。生まれたばかりの子は体に毛が生えておらず、目も閉じたままです。生後3~4日齢でよちよち歩き、毛も少し生えてきます。生後1ヶ月齢で目が開き、毛も生え揃います。子どもが歩けない時期には母親がくわえて1頭ずつ移動先の巣に運びます。巣箱から子どもが顔を出すのは生後約40日齢です。育児はメスだけで行い、授乳は生後10~14週間続き、子ども離乳します。性成熟は約1年です。
寿命は野外ではふつう3.5~5歳です。飼育下での長寿記録としては、井の頭で1994年6月17日から2003年5月10まで飼育された個体(メス)の飼育期間8年10ヶ月があります。

外敵

外敵としては、猛禽類(オオタカ、ノスリ)、ホンドキツネ、イタチ、テン、ノネコ、ヘビがいます。

生息数の現状と絶滅危機の程度

環境省レッドリスト2015年版よると中国地方と九州地方のニホンリスは、絶滅のおそれがある地域個体群に指定されています。また東京都のレッドリスト・2010年版では区部では絶滅、北多摩地区の二ホンリスを絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定し、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いものとしています。
日本の固有種で鳥獣保護法によって保護され都道府県の長の許可なく飼育することはできません。

データ

分類 齧歯目(ネズミ目)リス科リス属
分布 日本固有種(本州、四国、九州、淡路島)。九州と淡路島の個体群は近年観察されず絶滅が心配されています。
体長(頭胴長) 16~22 cm
尾長 13~17 cm
体重 250~310 g

主な参考文献

阿部 永 (監修) ニホンリス In 日本の哺乳類「改訂版」 東海大学出版会 2005.
今泉吉典 (監修) 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988.
林 壽朗 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社 1968.
井田素靖 井の頭をリスの森に どうぶつと動物園 (財)東京動物園協会Vol.42. No.7 1990.
金子之史 哺乳類の生物学 ① 分類 東京大学出版会 1998.
中山 孝 新ニホンリス舎 (飼育トピックス) どうぶつと動物園 Vol.38 No.11 (財)東京動物園協会 1986.
成島悦雄 監修 二ホンリス 図解雑学 動物の不思議 ナツメ社 2006.
西垣正男・川道武男 げっ歯目総論・ニホンリス In日本動物大百科 哺乳類Ⅰ:川道武男 編集 平凡社 1996.
田村典子 リスの生態学 東京大学出版会 2011.
田村典子 二ホンリスはどのようにクルミを食べるのか どうぶつと動物園 Vol.59 No.4 (財)東京動物園協会 2007.
高松美香子 二ホンリスの成長過程を調べる どうぶつと動物園 Vol.67 No.3 (財)東京動物園協会 2015.
霍野晋吉 ハムスターウサギリスなどの飼い方 成美堂出版 1995.
三浦愼悟 他 In小学館の図鑑 NEO動物 動物 小学館 2014.
菊池文一 リスを育てる ―二ホンリスの飼育日誌からー どうぶつと動物園 Vol.24 No.1 (財)東京動物園協会 1972.
北垣憲仁 ネズミ目の動物 In小学館の図鑑 NEO動物 2014.
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