No.177 アメリカバイソン – おもしろ哺乳動物大百科 121 偶蹄目(クジラ偶蹄目)ウシ科

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ウシ科

アメリカバイソン

かつて北はカナダのアルバータ州東部、マニトバ州、アメリカのアラスカ州南部からミネソタ州、ミシガン州、ペンシルバニア州、テキサス州、ネブラスカ州、カンサス州、フロリダ州、ニューメキシコ州をへて南はメキシコ北部のチワワ州まで広く分布していましたが、今では一部の地域に保護されているだけです。コロラド州、ワイオミング州、モンタナ州の標高3,200~3,900mの高地や草原からメキシコやアメリカ大陸南部では半砂漠の草地にも生息し、東部のカナダでは森林から川辺や湿地、そして冬には雪のある地域では-30℃の寒さに耐えるなど様々な環境に適応していました。
群居性で、性別、年齢、季節、生息地で群れ構成は違います。群れは次の3タイプに分けられます、

  1. 母系グループ:メスと子ども、大部分の2~3歳とやや年長の数頭のオスで構成。メスがリーダー
  2. 混合繁殖グループ:繁殖期にメスとオスが一緒になるもので、発情時には群れは大きくなります
  3. オスグループ:成獣のオスだけが集まるグループ。

イエローストーン国立公園では母系グループの平均的な大きさは10~63頭で混合繁殖グループは19~480頭でした。メスと繁殖オスとの関係は2~3年続きます。
行動圏は小さな群れは夏季が約30km²、冬季に約100km²でした。カリフォルニア州のサンタカタリナ島ではメスは29.5~70.5km²、ユタ州のヘンリー山地では平均で52km²でした。秋と春に定期的により良い餌場を求めて数百kmも移動しながら生活し、長期間水なしでも耐えることができますが、氷を頭で割って水を飲むこともあります。一日の移動距離は季節や生息地により違いますが1.9~3.2kmで若干の差があり、最高速度は時速60kmで走ります。泳ぐのは上手で、移動中に流れの早い幅約1kmの川を泳いで渡ることができます。泥浴びや木に体をこすりつけて寄生生物を落とします。基本的に昼行性で、昼間は移動、採食、休息、反芻をしていますが、時々夜間にも採食や移動をすることがあります。
聴覚は鋭く、嗅覚に優れ外敵を臭いで発見したり、メスの発情を察知したりします。視覚はウマのような大型のものであれば約1km先で判り、動くものならば2km先のものを認識できます。声はブウブウ音、鼻を鳴らす音が近くならば聞こえます。発情時のオスの独特のうなり声や吠え声は5km近く届きます。

体の特徴

バイソンは逞しさと凄みを備えています。かつて6,000~7,000万頭生息していたと推定されていましたが、さぞかし壮観だったでしょうね。写真家 大高成元氏撮影

  • オスは体長(頭胴長)304~380cm
    肩高 167~195cm
    尾長43~60cm
    体重460~998kg
    半家畜化したオスの体重では1,724kgの記録が報告されています。
  • メスは体長 210~350cm
    肩高150~180cm
    尾長43~60cm
    体重は360~544kg

アメリカ大陸における最大の動物で、大きな頭部は肩から一段と低く、肩部の盛り上がりが大きく上半身が発達し、背の稜線は肩から尾に向かい傾斜しています。頸部と胴は太く、四肢は細目で比較的短くて、また、尾は踵に届きません。頭部がグッと下がっているので起立したままで地面に生えている草を採食できます。蹄は小さくて丸く、直径12~13cmで黒く、蹄底は133.5cm²あります。毛の色は赤褐色ないし黒褐色、頭頂と耳介の毛の色は他の部位より暗色です。前半身の毛は長く、ヨーロッパバイソンとは異なり耳介は長い毛の中にかくれて見えないのが特徴の一つです。毛の長さは横腹と背面が2.5cm、臀部が5~9cm、肩と背中のこぶが6.5~16cm、顎15~19cm、あごひげが約30cm、オスの前頭部は15~21cmです。
冬毛と夏毛の換毛の変化がはっきりとしています。上野動物園での観察例によると、冬毛は11月頃から生えはじめ翌年3月中旬まで冬毛です。3月中旬に夏毛に変わり始めますが、5~6月ではまだ完全に冬毛が抜けきれずボロ毛布をまとったような姿になります。
舌、唇、鼻は黒く濡れています。額は中凸、眼窩は筒状に突出し、左右の眼は広く離れています。オスの角は太く短く、メスは細く内側に向いています。
歯は草食動物特有の臼歯は長冠歯(草食動物の臼歯は摩耗が激しいため歯冠の形成が長く続き、その間は歯根が発生しない特徴があります)と半月歯(咬合面のエナメル質の輪郭が半月に似ているのでこの名がつけられました)、で長時間の咀嚼に耐えることができます。最初の永久歯のM1は1歳で萌芽し、5歳ですべての永久歯が生え揃います。歯式は門歯0/3、犬歯0/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計32本です。匂いをつけるための眼下腺と蹄腺はありません。
乳頭は鼠径部に4個(2対)あります。体温は平均で38.7℃です。

えさ

アメリカバイソンはヨーロッパバイソンより草食性が強く95%を草類が占めています。年間を通してイネ科の草とスゲ類(イネ目、カヤツリグサ科スゲ属で、大部分が多年生の草本で草原、森林、海岸その他、さまざまな環境に生息する種がある。湿ったところに生育するものが多く、湿地や渓流沿いに集中する傾向がある)を採食しています。半砂漠地方の草が少ない地域では小枝やイネ科以外の雑草を採食します。冬季積雪のある場合は頭で雪をかき分けて草を探し採食しています。

繁殖

発情期は7~9月で北米北西部のモンタナ州の場合、7月下旬から8月上旬に約90%が交尾期になります。オスの中にはメスの群れと1年を通じて一緒にいるものもいますが、その他のオス特に成熟オスは単独でいるか、発情期がくるまで2~6頭の交尾相手のいないオスの群れの中にいます。種オスとしての最盛期は6~9歳で、発情期間中オスは頭と頭を突き合わせて優劣を決めます。勝者は数日メスと一緒に過ごし、他のオスは8m以内に近づく事ができません。発情周期は約21日で9~28時間持続します。妊娠期間は平均285日、ヨーロッパバイソンは260~270日です。北方地方では南方地方より約2週間発情期が遅くなります。メスは出産のときに一時群れから離れて出産場所に行き、分娩後子どもが十分歩けるようになると群れに戻ります。出産は4月中旬から5月で、ふつうは一産一子ですが、まれに双子のこともあります。生まれたばかりの子どもの体重は15~30kg、生後3時間で走ることができます。
上野動物園の繁殖例によれば、出産後まもなく起立して乳を飲み、生後4日齢で放飼場に出すとすぐに歩きました。新生児は成獣が近づくと放飼場の中央の樹木保護柵の中に入り成獣と直接接するのを回避しました。
出産した子どもの10例によれば、分娩後10.9分と32.2分で起立し乳を飲み、生後5日齢で草を採食しようとしました。1週齢で水を飲み、1ヶ月齢で草を反芻して消化しました。新生児は生後2~3週齢の間、2~15頭で群れを形成しています。メスたちは子どもたちを外敵から守っていますが、オスは関与しません。また、生後7~8週齢で孤児になった子どもも生きのびることができたとの報告があります。授乳は7~8ヶ月齢から遅くても1歳まで続きます。3歳で親とほぼ同じ大きさになります。
新生児の毛色は生後2ヶ月齢までは赤褐色ですが、その後頭部から肩、背中と黒くなりはじめ約生後4ヶ月齢で大人と同じ毛色になります。体重は生後8~9ヶ月齢で135~180kg、20~22ヶ月齢で225~315kgになります。
オスグループはメスを守るので遠く離れることはありません。メスが群れから離れて出産場所に行くと、オスは周辺部を外敵のコヨーテなどに襲われないように歩き回ります。メスは2歳で交尾し3歳で初産、その後は12~15歳の間に3年に2頭の割合で出産します。オスは2~4歳で性成熟に達しますが、実際に交尾できるのは6歳ぐらいになってからです。

長寿記録

野生での寿命は20歳以下と考えられています。飼育下の長寿記録としては、アメリカニューヨーク州のキャツキル・ゲームファームで1946年に生まれ、1980年6月27日までペンシルバニア州のポコノ野生動物ファームで飼育された個体(オス)の飼育期間33年6ヶ月以上があります。そのほかにイリノイ州立ぺオリア野生生物プレーリー公園で1974年10月16日に飼育を始め、2004年4月現在も飼育中の個体(メス)の飼育期間29年6ヶ月があります。

外敵

外敵として挙げられるハイイロオオカミ(シンリンオオカミ)は、主にメスや子どもを襲います。カナダのウッド・バッファロー国立公園での1962年調査では、ハイイロオオカミの冬の獲物は65%がバイソンでした。その他に若い個体や病気やけがをした個体がコヨーテ、ボブキャット、ピューマ、アメリカヒグマなどに捕食されます。

主な減少原因

かつてアメリカバイソンは北米大陸の草原に6,000~7,000万頭が生息したと推測されています。アメリカ先住民は槍や弓矢を使ってバイソンを狩り、肉や血は食料に、皮はテントや衣料、骨と角は弓と矢じりに加工して余すことなく使っていましたが、長い間バイソンの生息数は極端に減少することはありませんでした。ところが銃器を持った白人の入植者が入り、先住民もまた火器を使い始めるとたちまち減少し、乱獲により19世紀末までに絶滅寸前にまで追い込まれ、20世紀初頭にはアメリカの西部とカナダの森林に数百頭が生き残るだけになりました。しかし、アメリカ合衆国第26代大統領セオドア・ルーズベルトの尽力で、1894年にアメリカバイソンを保護する法律が制定されました。現在は、アメリカでは元大統領の偉業を称えてその名を冠した国立公園や保護区、カナダやメキシコの保護区、国立公園に3ヶ国で合計約3万頭の純粋なアメリカバイソンが生息しています。

アメリカバイソンの衰亡の歴史

  1. 1730~1830年 ミシシッピー川東部のバイソンが絶滅。
  2. 1830~1874年 アメリカの開拓の時代で大陸横断鉄道が通じ、近代銃器の開発とアメリカ先住民の主食であったバイソンを捕ることで、西部開拓の労働者の食料を確保し、肉以外の皮や骨は鉄道で東部へ運ばれ、さらに草原は家畜のウシを飼う牧場へと替わりました。
  3. 1876~1883年 ハンターは北部に進出し、ついに1894年にはイエローストーン国立公園の奥地で20頭、カナダでも約250頭が見つかるのみとなりました。

絶滅危機の程度

2015年発行のIUCN(国際自然保護連合)レッドリストでは、すぐに絶滅する危険性は小さいが、将来的に絶滅する危険性があると判断され、準絶滅危惧種(NT)に指定されています。また、亜種モリバイソン(下記亜種の項参照)はワシントン条約付属書Ⅱ表にリストアップされ、輸入にさいしては輸出国の輸出許可書が必要です。

亜種

アメリカバイソンは以下の2亜種に分類されています。

  1. ヘイゲンバイソン Bison bison bison
    耳介は褐色・オスは頭部、顎の下部、四肢、尾は暗褐色で先端のみ褐色で、残りの部位は淡褐色です。頭部は大きくモリバイソンより低く下げています。
  2. モリバイソン Bison bison athabascae
    ヘイゲンバイソンより体が大きく、角は細長くヨーロッパバイソンに似ています。体毛は密で絹状、明るい褐色ないし暗褐色で、頭の上部と四肢はほぼ黒食、耳介と尾の先端も黒褐色です。

雑種

アメリカバイソンとヨーロッパバイソンはともに家畜化されませんでした。ただし、正田陽一博士によれば、19世紀終わりにアメリカバイソンのオスとヘレフォード種やアバディーン・アンガス種のメスと交配させてキャタロ種という雑種を作ったそうですが、遺伝的に固定することができませんでした。

ヨーロッパバイソン

アメリカバイソンの近縁種です。かつてはヨーロッパの西部、南部から東はコーカサス、シベリアのレナ川まで分布していました。1800年当時、生き残っていた地域は、ポーランドとロシア国境にあるビャロビエジャの森とロシアのコーカサス地方のみでした。そして、1917年 帝政ロシアが革命により崩壊すると権力のシンボルであった亜種コーカサスバイソンも1921年2月19日野生の1頭が射殺され、動物商が飼育していたオスも1925年2月26に死亡し絶滅しました。一方もう一つの亜種リトアニアバイソンも1921年に野生のものは絶滅しましたが、ヨーロッパの動物園などに飼育されていたものを一ヵ所に集めて繁殖させ、現在はポーランドのビャロビエジャ国立公園などに野生復帰させた個体と飼育下にあるものを含めて約5,500頭が残っています。

データ

分類 偶蹄目(クジラ偶蹄目) ウシ科 バイソン属
分布 アメリカのアラスカ、カナダからメキシコ北部までの一部
体長(頭胴長) オス 304~380cm メス 210~350cm
体重 オス 460~998kg メス 360~544kg
体高(肩高) オス 167~195cm メス 150~180cm
尾長 オス、メス 43~60cm

主な参考文献

浅倉繁春(監修) 朝日=ラルース「週刊 世界動物大百科」50号、偶蹄目ウシ科ウシ亜科 朝日新聞社 1972.
D.F.ロット バイソンの繁殖 In 動物大百科 4 大型草食獣 D.A.マクドナルド(編) 今泉吉典(監修)平凡社1986.
中村好伸 アメリカバイソンの飼育 In 世界の動物 分類と飼育偶蹄目=Ⅱ(財)東京動物園協会 1977.
石川智洋 アメリカバイソンの繁殖 猛太郎の思い出  In世界の動物 分類と飼育偶蹄目=Ⅱ (財)東京動物園協会 1977.
今泉忠明 絶滅野生動物の事典 東京堂出版 1995.
今泉吉典 ウシ科について In世界の動物 分類と飼育偶蹄目=Ⅱ (財)東京動物園協会 1977.
今泉吉典(監修) 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988.
Meagher, M. Mammalian Species. No.266, Bison bison.The American Society of Mammalogists. 1986.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
Parker,S.P.(ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990.
プロジェクトチーム(編)
WWF Japan (監修)
失われた動物たちー20世紀絶滅動物の記録 広葉書林 1996.
正田陽一 バイソンと家畜牛 In 偶蹄目総論 世界の動物 分類と飼育 偶蹄目=Ⅱ (財)東京動物園協会 1977.
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. (ed) Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011.
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