ハイエナ亜科
ハイエナ亜科は2属3種に分類されます。ブチハイエナ属はブチハイエナ1種、シマハイエナ属はカッショクハイエナとシマハイエナの2種がいます。最大種はブチハイエナで体長95cm~165cm、体重40~86kg、最小種はシマハイエナで体長100cm~120cm、体重25~55kgです。両属は体格以外に生態や雌の外性器など種によって違いがありますが、合わせて3種のため順次概説していきます。
ブチハイエナ属
1属1種でアフリカのサハラ以南にブチハイエナが生息しています。
ブチハイエナ
アフリカの赤道周辺の低地の熱帯降雨林と高地を除き、サハラ以南に広く分布しています。生息環境はサバンナ、半砂漠、沼沢地、森林、藪があり岩の多い場所を好み、海抜約4,000mの高所でも見つかっています。ハイエナの仲間では最大になり、メスの方がオスより体重が重く大型で社会的に優位です。南アフリカのカラハリでは、パックと呼ばれる家族を中心としたメンバーは平均でわずか3頭、パックがいくつか集まったクランでも8頭、なわばりは生息地が半砂漠を含むため広く1,095km²の調査報告があります。一方、東アフリカのセレンゲティやゴロンゴロでは35~80頭の大きなクランになります。ゴロンゴロ・クレーターは広さが約265km²あり、ブチハイエナのなわばりは約30km²でした。ケニアで1日の移動距離を調査したところ平均すると約12km、1時間に約1kmで、オスはメスより広い地域を徘徊していました。ゴロンゴロでは年間を通じて同じ地域にとどまっていますが、セレンゲティでは年間の半分は餌となる草食動物を追って1日に30~40km移動します。獲物は追跡して捕らえますが、トップスピードは時速約60km、さらに数kmを時速40~50kmで走り続けることができます。ブチハイエナは大型でアフリカの肉食獣の中で、チーター、ヒョウ、シマハイエナ、カッショクハイエナ、ジャッカル、リカオンより優位で唯一ライオンより劣位ですが、クランでいるときはライオンより優位となり獲物を横取りするときもあります。夜行性で活動時間帯のピークは夕暮れ時で、次は明け方となります。クランのメンバーはお互いに認識しており、出会ったときはお互いの性器を見せて挨拶をしますが、劣位の個体が先に見せます。声によるコミュニケーションも行い、挨拶、威嚇、攻撃、求愛など12種類が知られています。なわばりの境界線には肛門腺から排出するクリーム状のペーストを1つだけ草の茎に付け、糞場では排便後、前足で土をかきむしり指間腺の分泌物をこすり付けます。聴覚、嗅覚、視覚が発達しており、夜間でも遠くまで良く見えるようです。
からだの特徴
ハイエナの中で最も大型で、体長は95~165cm、体重40~86kg、尾長は25~36cmで、雌が雄より体重が4~12%重いのが特徴となっています。4肢は細めで各肢には4本の指があります。体毛は羊毛状で粗く短い毛が生え、地色はくすんだ黄色でこげ茶から黒の不規則な斑紋があります。色調と模様は多様で加齢と共に班紋数が減少します。短いたてがみがあって起立させることができます。がっしりとした前半身は頭部が大きく、他の大型食肉獣が噛み砕くことのできない大きな骨と厚い皮を強い歯で噛み砕くために、小臼歯が他の食肉目の仲間より大きく顎の筋肉が発達しています。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/3、臼歯1/1で左右上下合わせて34本です。犬歯は強力で、獲物を仕留めるだけでなく、肉を切り裂き噛み切るときにも使われます。乳頭数はふつう1対、まれに2対です。ブチハイエナの特徴は外部生殖器が雌雄で類似しており外見上区別できない点です。メスのクリトリスは勃起することができ、オスのペニスほど大きく排尿、交尾、出産がクリトリスを経て行われます。さらに1対の睾丸のような嚢(のう)がありますが、内部は繊維組織で外見上オスの陰嚢に似せるためにあるようです。肛門腺と指間腺から分泌液を排出し、なわばりの境界線に匂いつけをします。
えさ
大型のシマウマ、ヌー、トピ、ゲムズボック、ガゼルなどの多くの有蹄獣が主食ですが、生息地により獲物の種類の割合に違いが見られます。他に、魚類、カメ、シロアリ、ヘビ、センザンコウからサイ、ライオンの子ども、腐肉、果物も食べます。一度に自分の体重の25~30%を食べることができ、18kgの肉と骨を1時間で食べた記録があります。主に死肉を食べると考えられてきましたが、実際はその割合は三分の一以下で、自分で捕らえる獲物が60~95%に及び、体重20kg以上の哺乳類が90%以上で、20頭のクランが1歳の体重約100kgのヌーをおよそ13分で食べた報告があり、早食いでも有名です。獲物は水中に一時蓄え、後で食べることあります。水は少量しか飲まず1週間飲まなくとも大丈夫です。他の肉食獣が食べない骨の部位も食べ、有機物として補い、消化できない蹄、角、骨はペリットとして吐き出します。
繁殖
年間を通じて繁殖しますが、ピークは2月から3月で、この時期はサバンナで有蹄獣の出産が多い時期と一致しています。メスの発情周期は14日間で1~3日間続きますが、オスには発情周期はありません。メスは1回の発情の間に1~4頭のオスと交尾し、妊娠期間は約110日、産子数はふつう1~2頭、25~30%が双子でまれに3頭生まれます。新生児の大きさは1~1.5kgで、目は開いて生まれますが視力はありません。前肢で這うことはできます。歯はすでに犬歯と臼歯が生えそろって生まれるため、同性の場合他の子どもを殺すことがあります。新生児の毛色は黒の単色で、生後5~6週齢から変わりはじめ、成獣と同じ斑紋に変るのは生後4~5ヶ月です。出産はクランのいる巣穴とは離れた母子だけの巣穴で行われ、2~5週齢になるとクランの巣穴に移動します。クランの巣穴には誕生日の違う20~30頭の子どもが過ごしていますが、ふつうは自分の子どもの面倒をみて他の子どもが近づくのを拒みます。生後8~12ヶ月齢迄ここで過ごし、その後餌探しに母親と共に同行します。母親は巣穴に肉を持ち帰ることがあり、子どもは生後2.5ヶ月齢で食べ始めますが、定期的に食べるのは生後7~8ヶ月齢です。子どもへの授乳は3ヶ月齢までは1日におよそ6回おこなわれ、血縁関係がある場合は他の子どもに授乳することがあります。授乳期間は長く、通常は生後13~14ヶ月齢まで続きますが、劣位のメスから生まれた双子の場合では約2歳まで授乳します。このころには子どもはほぼ成長しています。子どもの死亡率は離乳後急速に上昇し、成獣になる前に50%が死亡します。子どもは1.5歳頃から狩りに参加します。性成熟はオスが約2年、メスの最初の出産年齢は2~6歳と幅がありますが、ふつう3~4歳で繁殖が始まります。
長寿記録としては、ベルリン動物園で1965年8月6日に死亡した個体(オス)の飼育期間41年1ヶ月があります。
外敵
人間以外の野生動物の外敵として存在するのはライオンのみですが、子どもは他の肉食獣に狙われるだけでなく、成獣のブチハイエナのオスにも狙われ命を落とすことがあります。
データ
分類 | 食肉目 ハイエナ科 |
分布 | アフリカ東部と北東部、及び南アフリカ |
体長(頭胴長) | 95~165cm |
体重 | 40~86kg |
尾長 | 25~36cm |
絶滅危機の程度 | 生息域が広く食物が人間と競合しないため現在のところは絶滅の恐れは少ないと判断され、国際自然保護連合(IUCN)発行の2012年版のレッドリストでは、低懸念種(LC)にランクされています。 |
主な参考文献
Estes, R.D. | The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991. |
今泉忠明 | 動物の狩りの百科 データハウス 1995. |
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988. |
今泉吉典 監修 | 動物大百科 食肉類 平凡社 1986. |
林 壽郎 | 標準原色図鑑全集 動物II 保育社 1981. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
川口幸男 | ハイエナ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育□2 食肉目:今泉吉典 監修, (財)東京動物園協会 1991. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009. |