No.120 メガネグマ – おもしろ哺乳動物大百科 69 食肉目 クマ科

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クマ科

最近の分類では5属8種、7属9種とする学者もいますが、このシリーズは基本的に今泉吉典博士の分類に従っているので次の6属、(1)メガネグマ属 (2)ツキノワグマ属 (3)クマ属 (4)ホッキョクグマ属 (5)マレーグマ属 (6)ナマケグマ属について概説していきます。
メガネグマ、ツキノワグマ、マレーグマ、ナマケグマ各属では毛は黒く、前胸部にツキノワ(月の輪)と呼ばれる白斑(はくはん)を持っている種類が多いのに対し、他の属ではほぼ単色となっています。分布域は南米にメガネグマ属がいるほかは、北極から北米、ヨーロッパ、アジアと北半球の広範囲に生息し、オーストラリア、アフリカ及び南極にはいません。生活圏は北極、ツンドラ、高山、森林から低地の森林、山間部など200~4,700mの空間で生活しています。北極のような寒冷地から暑さの厳しいアジアまで生息しているため体のつくりも多様で、それぞれの生活圏に適応し、皮下脂肪の厚さ、毛質、餌などに差が見られます。北にすむ種類は冬眠(冬ごもり)して、その間に受胎しているメスは出産しますが、暑い地方のクマは冬眠をしません。歩行の仕方にも特徴があり、人間と同様に足の裏をかかとまで地面につけて歩く蹠行性(しょこうせい)です。北方系のクマは肉食傾向が強いのに対し、温暖な地方のクマは植物質を主食とした雑食性です。イヌやネコに比べると腸は長いのですが、盲腸はありません。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて42本ですが、ナマケグマ属では上顎の門歯が1対少ないため総数は40本です。

メガネグマ属

1属1種でメガネグマがいます。メガネグマは南米に生息する最大の肉食獣で、アンデスの4,000m級の高地にも生息する種類として知られています。体格はニホンツキノワグマ程度ですが、体色が違い、目の周りに白い模様があることからこの名前が付けられています。また、木登りも上手で、豊富な果実類や生息場所によってはサボテンなども重要な食料源となっています。熱帯雨林から海岸沿いの砂漠まで様々な環境で生活しています。冬眠はしません。

メガネグマ

メガネのツルがない、などとヤボなことは言いっこなし。写真家 大高成元氏 撮影

南アメリカのベネズエラ西部、コロンビア、エクアドル、ペルーからボリビア南部にかけてのアンデス山脈の主として太平洋側に生息し、ペルーでは沿岸に沿った砂漠で潅木のある場所にもいます。湿度の高い森林を好み、沿岸の水辺では棘植物の生えている地域に住んでいます。ペルーのアンデス山脈における調査例では、標高457~3,658mで生息していますが、1,900~2,350mの湿潤な森林を好むとしています。成獣は交尾期以外において単独生活が普通ですが、トウモロコシ畑とサボテンが豊富な所で、9頭も集まって採食しているのが報告されています。ボリビアの調査例では、昼行性で夜間9~12時間寝て日の出と共に起きる、と報告しており、昼行性の理由として主食が植物質なのであえて夜行動することもないとしています。一方で、ペルーの調査例によれば、夕暮れから夜活動する夜行性で、昼間は地上や樹上に作った巣や洞穴で休んでいるとの報告もあることから生活環境によって活動時間が違うのかもしれません。木登りは上手で15~30mの樹上に巣が見られることや果実を採るのも見られています。行動圏の報告は限られていますが、狭いもので約10km²、最大で150km²程度と推測されています。オスはメスより広い行動圏を持ち、餌が豊富にある場所に集まり、雌雄の行動圏は一部重複しています。豊富な餌を求めて季節により高地と低地の間を移動します。

からだの特徴

体色は全体に黒か暗褐色、目の周囲と頸部の全面が白色で、胸部まで伸びています。模様は一様ではなく、顔が黄白色や模様のない個体もいます。体長は120~180cm、体高70~80cm、尾長約7cm、体重はオスで130~175kg、まれに200kg、メスは35~65kgです。からだは頑丈で4肢は短く各肢に5本の指があり、鋭い鉤爪は木登りや穴を掘るときに使います。臼歯は扁平で植物をすりつぶすときに役立っています。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて42本です。乳頭数は2対です。

えさ

アナナス(パイナップル)科の芯、ヤシの葉柄、イチジク、イチゴ、竹の芯、サボテンの実、ミミズ、昆虫、ハチミツ、げっ歯類など小型の哺乳類、まれにビクーニャ、ラマ、シカや放牧している家畜を襲いますが、動物質は約4%です。砂漠ではサボテンも食べ、エクアドルでは20~30mの高さのシュロの木に登り、新芽を食べることも報告されています。総数で83種類の食べ物を食べた報告があります。

繁殖

交尾期は3~6月や6~8月の報告があり、動物園では12月下旬から3月の報告例もあることから、冬眠しないことを合わせて考えると年中繁殖できるのかもしれません。メスの発情は3~14日間続き、この時は外陰部が腫脹し、頻繁に鳴きます。着床遅延するので、妊娠期間は160~210日間と大きな幅があります。ベノスアイレスの動物園における出産は6月、ヨーロッパの動物園では12月下旬から3月と報告されています。産子数は1~2頭、まれに3頭が巣穴の中で生まれます。新生児の体重は250~370gで、歯は生えていず、目は閉じていますが、生後4~6週齢で開きます。生後3ヶ月齢ころまでは安全な巣穴で過ごします。生後8ヶ月齢までは母親と一緒に生活します。性成熟はメスが4~7歳、オスは平均5歳です。長寿記録としては、ローマ動物園で1991年7月11日に死亡した個体の飼育期間38年4ヶ月、推定年齢39歳という記録があります。

外敵

成獣は人間以外には外敵はいないと考えられますが、子どもはピューマとジャガーだけでなく、メガネグマのオスの成獣にも襲われます。

生息数減少の原因

農地や家畜を飼育するための牧草地を拡大したことで大幅に生息域が減少し分断されたことが、生息数減少の大きな原因の一つです。加えて、以前より行われていた毛皮や肉、薬用にするための密猟による捕獲も引き続き行われており懸念されています。各地における国立公園の保護区内で一部保護していますが、ベネズエラでは数が減少し、絶滅が心配されています。また、世界の動物園は国際血統登録対象種としてメガネグマを認定し、絶滅を防ぐべく繁殖プログラムを作り、国際間のブリーディングローンを実施しています。

データ

分類 食肉目 クマ科
分布 南米のベネズエラから太平洋岸沿いにボリビアまでの主にアンデス山脈に生息。
体長(頭胴長) 120~180cm
体重 オス130~175kg メス35~65kg
尾長 7cm
肩高(体高) 70~80cm
絶滅危機の程度 生息地の減少、分断あるいは密猟などにより、生息数の減少が続いていることから、国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版レッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。このような減少がこれからも続くようであれば、さらにランクが上の絶滅危惧種(EN)に指定されるおそれがあると懸念されています。野生での調査が十分におこなわれていないために、正確な生息数は不明ですが、13,000~25,000頭ぐらいではないかといわれています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科1食肉類 平凡社 1986
林 壽朗 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981
川口幸男 クマ科の分類.In.世界の動物 分類と飼育2食肉目:今泉吉典 監修
(財)東京動物園協会 1991
Parker, S.P.(ed) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill Publishing Company 1990.
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) Handbook of The Mammals of the world, 1. Carnivores,
Lynx Edicions 2009
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