No.088 ジェフロイクモザル(アカクモザル) – おもしろ哺乳動物大百科 38 霊長目 オマキザル科

おもしろ哺乳動物大百科オマキザル科霊長目ペットコラム

クモザル属

クモザル属は学者によって1種、あるいは4〜7種に分ける場合がありますが、今泉吉典博士は、(1)ケナガクモザル (2)ブラウンクモザル (3)クロクモザル、そして (4)ジェフロイクモザル(アカクモザル)の4種に分類しています。
クモザルは中米のメキシコ南部からブラジルやボリビアにかけて広く生息しています。ほっそりとした4肢と、きわだって長い尾をまるで手のように使うことから、5本の腕を持つクモのようなサルを連想させ命名したと言われます。

ジェフロイクモザル(アカクモザル)

メキシコから中央アメリカ全域にわたり広く分布し、別名をチュウベイクモザルとも称されます。生息地は熱帯多雨林で、川辺林、沼沢地、マングローブ、落葉林から半落葉林にまで広く適応し、樹上で生活しています。昼行性でふつうは高層の樹冠にいて、めったに地上に降りません。夜間は樹上で眠ります。移動は4足歩行とブラキエーション(腕でぶら下がり、反動を利用して枝から枝へ飛び移る移動方法)のほか、太い樹幹の上や、地上を2本足で走ることもできます。群れの大きさは、生息地の環境によって異なり、ふつう1頭又は複数のオスを含む5〜6頭の群れですが、時には数10頭の群れが観察されています。群の間のコミュニケーションのために、オスは遠くまで届くフープと呼ばれる声を出します。オスはメスの尿をなめ、あるいは嗅ぐことで発情を察知しています。匂いつけは、尿の他にも胸部にある分泌腺を木の枝にこすりつけて行います。

からだの特徴

尾でしっかり枝にぶら下がっています。なんとなくクモを連想しますね。写真家 大高成元氏撮影

オマキザル科のなかでは大型で、オスの体重は8kg前後です。体色は金色、赤、暗褐色と変化に富んでいます。目の周りは白く、頭部と4肢の一部が黒です。尾は長く、先端部の約3分の1は内側に毛がなく、汗腺や末梢神経が集まり感覚が鋭敏で、物を摘まむこともできます。また、指紋のような尾紋があり、枝を掴むときにすべり止めの役割も果たしています。前肢の親指は退化し、欠如しているか、痕跡程度なので、外見上、指は4本です。これらの指をひょいと枝に引っ掛けて空中ブランコのように巧みな枝渡りをします。尾は5番目の手のように枝につかまることができるので、より安全な樹上生活を過ごすことができます。メスの生殖器はオスに似ており外見上の性差は簡単にできません。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯3/3、大臼歯3/3で左右上下合わせて36本です。犬歯はオスのほうが大きく発達し、頬袋はありません。乳頭は胸部に1対あります。

えさ

野生時の主食は果物で、約80%を占め、そのほか、木の実、若葉、花や花の蜜、クモ、昆虫、卵などを食べます。動物園では、リンゴ、バナナ、パイナップル、トマト、人参、ミカン、青菜、蒸かしたサツマイモ、サル用ペレット、ゆで卵などを与えています。

繁殖

繁殖は年間を通じて見られます。妊娠期間は226〜232日(226〜262日、210〜225日の報告があります)で通常1産1子、まれに双子が生まれます。発情周期は24〜27日で、発情は2〜7日間続きます。性成熟はオスが約5歳、メスは4歳です。初産年齢は5〜7歳、出産間隔は飼育下の場合は1年半の例がありますが、野生の場合、2年〜4年間隔で繁殖します。赤ちゃんの体重は300〜500gで、赤ちゃんの背中は黒く、おとなのような色に変わり始めるのは生後5ヶ月齢過ぎです。生後6〜10ヶ月齢の間、もっぱら母親に面倒を見てもらい、オスは育児に参加しません。
クロクモザルの人工保育の例によれば、固形物としてバナナを始めて食べたのが、生後46日齢、生後80日齢以降離乳食として果物やチーズを与え、生後180日齢でミルクを1日1回にしています。
また、授乳は2年半に及ぶという報告もありますが、野生の場合、出産間隔が2年以上あるので、この間は母親に依存しているのでしょう。
長寿記録は、タロンガ動物園で47年1ヶ月の飼育記録があるほかに、やはりタロンガ動物園で2004年6月現在、46年6ヶ月飼育されてなお生存中という記録があります。

天敵

人間による生息地の森林伐採のために生息地が減少し分断されたこと、及び食料にするための狩猟が本種にとって大きな脅威となっています。野生動物で主な外敵は、猛禽類のワシやタカとジャガーやピューマなどのネコ科の動物があげられます。

データ

分類 霊長目 オマキザル科
分布 メキシコ南部からパナマ東部までの中央アメリカ全域
体長 30〜65cm
尾長 65〜85cm
体重 6〜9kg
絶滅の危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、クモザルの仲間は、種類ごとにランクが異なりますが、ジェフロイクモザルは絶滅の恐れが非常に高い絶滅危惧種(EN)に指定されています。

主な参考文献

伊谷純一郎 監修
D.W.マクドナルド 編
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社 1986
今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 世界のサル 毎日新聞社1968
杉山幸丸編 サルの百科 データハウス 1996
Welker, C. and Schaefer-Witt, S. New World Monkeys, In (Parker S.P editor) Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990
Nowak,R.M. Walker’s Mammals of the World Six Edition
The Johns Hopkins University Press 1999
山崎 泰 クロクモザルの成長期 どうぶつと動物園
(財)東京動物園協会1984
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