No.106 ボルネオオランウータン – おもしろ哺乳動物大百科 55 霊長目 ヒト科またはショウジョウ科

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ヒト科

今泉吉典博士は、オランウータン、チンパンジー、ゴリラはショウジョウ科とし、人間は別にヒト科に分類してきました。しかし、ヒト科とショウジョウ科は共通の祖先から進化・分岐したこと(最も早く分岐したのはオランウータンで約1300〜1500万年前と推定されます)、また最近の分類は、外見的な違いや大きさなどよりも、DNA分析を重視する傾向にあることから、現在はショウジョウ科とヒト科を合わせてヒト科にするのが一般的です。そして、その中をオランウータン属、チンパンジー属、ゴリラ属、およびヒト属の4属としています。本科の種には尻だこや頬袋、尾はありません。また、四肢の指には平爪がありますが、親指に爪がない場合もあります。盲腸があり虫垂もあります。以下にヒト以外の3属について順次紹介していきましょう。

オランウータン属

本属は最近までオランウータン1種に分類し、スマトラ島とボルネオ島に分布する個体群をそれぞれ亜種として扱ってきました。しかし、両島が分離したとされる約2万年前よりはるか以前の約150万年前には、両島の個体群はすでに遺伝学的には分岐していたと考えられています。その結果最近はそれぞれを独立種としてみなし、スマトラオランウータンとボルネオオランウータンの2種に分類しています。
DNAだけでなく、2種には外見上の違いもあります。ボルネオオランウータンは体色が暗色で、頭部や頸部の毛が少なく個体差が大きく、あごひげが目立ちません。また、のど袋が大きく垂れ下がるなどの特徴があります。一方、スマトラオランウータンは体色が明るいオレンジで、頭部や頸部の毛が長く、あごひげが必ずあります。のど袋は成獣になってもそれほど目立ちません。過去には両島に生息するオランウータンは1種として、亜種で分類していたため、動物園では一緒に飼育し亜種間雑種も生まれています。
今回はボルネオオランウータンについて紹介しましょう。

ボルネオオランウータン

ボルネオ島のインドネシア領のカリマンタン、マレーシア領のサバ州、サラワク州に生息し、ブルネイ国には生息していません。生活空間は高地の熱帯林、低地のフタバガキ林、山地林低部、山岸林、湿地林やマングローブの一部などにもみられます。他のヒト科は明確な群れを作って生活していますが、オランウータンのメスは4〜6歳の子ども、1〜2頭と一緒に生活し、メスが性成熟を迎える頃、7〜10歳で子どもと別れます。成獣のオスは単独で生活していますが、メスやワカモノたちは5〜6頭が日中同じ木で採食しているのが観察されています。
昼行性で、樹上生活に適応しており、樹上の移動は手でぶら下がり、体を振って片手で枝をつかみながら、腕を伸ばし先方の枝をつかんで渡ります。地上は4本足で歩くか、両手を上にあげて2本足歩行します。夜間は樹冠部に枝を集めて寝床を作り、数日間同じ巣で寝たり、休憩したりするときに使います。オスはロングコールと呼ばれる鳴き声を1〜2分あげ、自分の場所を主張しますが闘争することはありません。この鳴き声は、数kmも届き、メスを誘う時に呼びかけの役割も果たしていると考えられています。メスの行動範囲は3〜6km²で、1日の移動距離は100〜3000m,平均500m程度とあまり広くはありません。

からだの特徴

どうですかこの立派なオスの顔、初めてジャングルで遭遇した人はびっくりしたでしょうね。写真家  大高成元氏 撮影

体色は栗色か赤褐色で、肩部と背中の毛が長く伸び約30cmにも達します。樹上で上腕を使って枝渡りするので、腕に筋肉をつけるため広い胸部と細い腰をしています。オスは完全に成長すると、頬の両側に固い脂肪層が張出して、喉から胸にかけて膨らんで垂れ下がったのど袋、長い体毛などから、体全体を巨大に見せる効果となっています。頬の張り出しは、その地域で一番強いオスに見られます。身長は約1.5m、両手を広げると2m以上となり、腕の長さは足の1.5倍ほどあります。体重はオスで50〜100kgですが、飼育下では200kgになった個体もいます。手足の指は長く親指は短いのですが、他の4本指に対向しており物をつかむことができます。握力が非常に強く5寸釘や直径1cmのボルトをねじ切ったなどの話を飼育員から聞いたことがあります。歯式は、門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本で臼歯にはヒダがあります。5〜8歳で乳歯から永久歯にすべて生え変わります。

えさ

果実(ドリアン、イチジク、ランブータンほか)、木の葉、花や茎、樹液、キノコ、シロアリ、昆虫、卵などで、ごく稀に小型動物食べた報告があります。およそ350種前後におよぶ種類の食物を食べていますが、1日の種類数は10種類前後と報告しています。

繁殖

交尾期は不定ですが、乱婚で飼育下ではメスの発情に関係なく、オスがメスと強引に交尾するのが観察されています。月経周期は22〜30日といわれていますが、多摩動物公園の例では、4頭の平均が36日でした。発情は5〜6日間続きます。妊娠期間はやはり多摩動物公園の例で7頭の平均が264日間でした。野生の初産年齢は14〜15歳、出産間隔は6〜8年ですが、飼育下の方が若い年齢で出産します。1産1子で、多摩動物公園の出産例によれば、赤ちゃんの体重は、1.5〜2kg、目は生まれてすぐに開きましたが、見えるようになるには生後1ヶ月齢、動くものを追うのは生後2ヶ月齢以上かかりました。体重は上野動物園で出産した例では、生後6ヶ月齢に約13kgになりました。授乳は2歳くらいまで続き、4歳近くまで一緒の巣で寝ます。4〜5歳ころになると母親の近くで自分の巣を作ります。性成熟に達するのは一般的にはオスで8〜15歳、メスでは7〜10歳です。
長寿記録としては、多摩動物公園で2011年4月30日に死亡した個体の飼育期間55年5ヶ月25日、推定年齢59歳4ヶ月という記録があります。

生息数減少の原因

ボルネオの森林破壊はすざましくオランウータンが暮らしていた森林の80%以上が破壊され、木材として搬出され、その跡にパームヤシ畑を作ったことにより、生息地域を奪われたことが、彼らの生息数の減少の一番大きな原因です。そのほか、山火事などの自然災害、ペット、漢方薬の材料として捕られます。野生の外敵はほとんどいませんが、まれに子どもがウンピョウやニシキヘビに狙われます。

データ

分類 霊長目 ヒト科
分布 ボルネオ島
体長(頭胴長) オス 平均 97cm、メス 平均78cm
座高 70〜90cm
体重 オス 50〜100kg、メス 30〜50kg
絶滅危機の程度 現在のボルネオにおける生息数は最近の報告によると、45,000〜69,000頭と推測されて、国際自然保護連合(IUCN)発行の2010年版のレッドリストでは、絶滅危惧種(EN)に指定し、近い将来、野生では絶滅の危険性が高いとしています。
ボルネオでは、1964年「セピロク・オランウータンリハビリセンター」がWWFの援助のもと設立され、現在森林局で管理されています。

主な参考文献

Lang,K.C. (Reviewed by Husson,S.) Primate Factsheets: Orangutan, Pongo, Taxonomy, Morphology, Ecology, Behavior and Conservation, National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2005
林 壽朗 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968
ジョン・ボネット・ウェクソ編
増井光子 訳・監修
ゴリラ・オランウータン 誠文堂新光社 1985
京都大学霊長類研究所 編著 新しい霊長類学 2009
宮本 昇 In,世界の動物分類と飼育1 霊長目 1987
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1 ,The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
小寺重孝 In,世界の動物分類と飼育1 霊長目 1987
杉山幸丸 編 サルの百科 データハウス1996
安間茂樹 ボルネオ島 アニマル・ウオッチングッチング・ガイド 文一総合出版 2002
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