No.100 パタスザル – おもしろ哺乳動物大百科 49 霊長目 オナガザル科

おもしろ哺乳動物大百科オナガザル科霊長目ペットコラム

パタスザル属

パタスザル(またはパタスモンキー)属は、1種類ですので、パタスザルについて紹介しましょう。

パタスザル

草原をかけるパタスザル。写真家 大高成元氏撮影

アフリカ中央部の西はセネガルからエチオピア、ケニア、そして東アフリカのタンザニア北部まで分布しています。生息環境は、疎開林や潅木林の草原から半砂漠や高山の岩地などで、熱帯雨林や川沿いの場所には生息しません。昼行性で朝夕の涼しいときに活動し、真昼の暑さが厳しいときは数時間樹上で休みます。群れは、おもに夜間活動するハイエナやジャッカルなどの外敵にそなえて、親子以外は分散して樹上で眠ります。群れの大きさは10〜70頭とさまざまで、普通1頭のオスとその家族で構成されています。オスは成長すると、群れから出て行きオスの群れに入るか、単独でくらしますが、メスは群れに残ります。テリトリーは地域や群れで違いますが20〜50km²で、1日4〜5kmを移動した報告例があります。仲間同士の交信は声より顔の表情や行動で表わすことが多いのですが、これは地上性の本種が外敵に居場所を知られないためと考えられています。

からだの特徴

アップにすると口ひげがわかるでしょう。写真家 大高成元氏撮影

体毛は全体に赤褐色で、腹部、尻、4肢の内側は白か灰色です。鼻の色は、地域、年齢、妊娠中と授乳中などさまざまな要因で変化します。鼻下に白い口ひげがあり、一列に並んで行進することから別名を、軍隊ザル、あるいは軍人ザルとも言われます。雌雄差が大きく、オスの体重がおよそ10kgに対し、メスは5kgで半分しかありません。体長は50〜90cmで尾も同じくらいの長さです。地上生活に適応し、手足が長く細い体型はイヌのようで、4足歩行で指先を地面につけて尾を上げてバランスをとって走ります。草原で外敵に追われると地上を時速55kmで逃げた記録が報告されています。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本で、オスの犬歯は強大です。ほお袋があり、また、尻だこは中央で離れています。

えさ

野生時の主食は草ですが、他にも果物、葉、種子、木の髄、根、樹脂、昆虫、トカゲ、ヘビ、ヒナや卵など、地上で採れるものは何でも食べ、消化ができます。動物園では、果物や根菜類、サル用ペレットなどを与えています。

繁殖

飼育下の月経周期は30〜33日、発情は13.5日続きます。妊娠期間は平均167日、1産1子です。他のサルが夜間出産することが多いのに対し、昼間に分娩します。これは夜行性の肉食獣から防御する上で役立っていると考えられています。交尾期は雨季の夏、出産期は乾季の冬に多く、カメルーンとその近辺では11月から1月、ウガンダでは2月ころと地域差があります。乾季の方が栄養価の高い食物が採れることに起因しています。交尾期は群れのリーダーだけでなく外から群れに入ってくるオスとも交尾します。メスは2歳半で性成熟し、初産は3歳ですが、オスは少し遅く4歳で性成熟します。生まれたばかりの赤ちゃんは黒い毛で覆われており、体重は約300gで、目が開いています。生後3ヶ月齢ころから成獣のように赤くなりはじめます。飼育下の例では、生後7週齢ころから固形物も食べ始めます。およそ生後4ヶ月齢で親や他の個体から盛んにグルーミングされて、生後6〜7ヶ月齢で一人前の子どもになります。しかし、授乳は回数が少なくなりますが、次の子が生まれるまで続きます。
長寿記録としては、2003年10月20日に豊橋動物園で死亡した個体の28歳4ヶ月という記録があります。

生息数減少の理由

アフリカの生息地では、生息地の破壊のほかにも、農作物を荒らす害獣としてあるいは食料源として現地の人に捕えられています。野生の外敵としては、ヒョウ、チーター、ジャッカル、ハイエナなどの肉食獣や、猛禽類のワシ・タカなどに狙われます。

データ

分類 霊長目 オナガザル科
分布 アフリカのセネガル、エチオピア、ケニア、タンザニア
体長 オス60〜90cm メス約50cm
尾長 50〜75cm
体重 オス7〜13kg メス4〜7kg
絶滅危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2010年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
Gron,K.J.
(Reviewed by Enstam, K.)
Primate Factsheets: Patas Monkey, Erythrocebus patas , Taxonomy, Morphology, Ecology, Behavior and Conservation,
National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2006
林 壽朗  標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968
ジョン・R・ネイピア
プルー・H・ネイピア
伊沢紘生 訳
世界の霊長類 どうぶつ社1987
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 世界のサル 毎日新聞社 1968
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999.
杉山幸丸 編 サルの百科 データハウス1996
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