No.015 ライフルマン

トピックペットコラム

かつて「戦場にかける橋」という題名の映画があり、早川雪洲やアレック・ギネス、ウイリアム・ホールデンという名俳優が出演し日本でもヒットした。このモデルとなった場所がタイとミャンマーの国境クワイ川にかかる橋(メクロン鉄橋)で、今では観光名所になっている。近くの博物館には、急斜面の難所に線路を建設するために働く捕虜とそれを指揮する日本軍の姿が解説されている。戦争の傷跡を見るにつけ平和の有難味をかみ締める。

クワイ川鉄橋のたもとで記念撮影

タイのクワイ川鉄橋から車で2時間ほどミャンマー国境に向かって北上するとお目当ての野生のゾウを見ることができる場所に到着する。夜8時頃になるとゾウが現れるというので、バンガローで待機していた。タイといえども野生のゾウは簡単に見られない。案内してくれるのは現地のゾウキャンプの連中だ。

クワイ鉄道 – こんなところも走る

ゾウキャンプというのは、10頭から20頭くらいのゾウを飼育し、観光客をゾウの背に乗せて、ジャングルの中、今では林程度のところが多いのだが、案内してくれる所だ。ゾウキャンプはタイでは三々五々点在し全土では数十箇所もあろう。

日中は35度〜40度くらいになり、蒸し暑くこの時間帯にウロウロしている動物はいない。みんなジャングルの木陰で昼寝でもしているのだろう。人間のようにタイムカードのないかれらは、暑いときにわざわざ働く必要はサラサラないのだ。

夜、野生ゾウを探しに行くゾウ使い

さて、夜8時頃から見学の準備をして待っていると、パイナップル畑にゾウが出た、とトランシーバーに連絡が入った。それ!とばかり車に乗って駆けつけると、すでに移動していない。バンガローにもどると、今度は群れがサトウキビ畑にいるという。再度車で駆けつけると、畑でサトウキビを食べているが、大勢で行くとゾウが興奮し危険だという。そこで私と同行した友人の2人が行くことになり、ガイドにゾウキャンプのベテランゾウ使い2人が付き添った。一人はライフルに実弾をこめ、ゾウが向かってきたらこれで撃つので心配ない、と自慢げに話しかけてくれた。

サトウキビを食べる野生ゾウ。(これは自然保護事務所に飾ってあった写真を撮らせてもらったもの)

街灯もない畑はわずかな月明かりが頼りで、20メートル先もはっきり見えず、あたりが静寂に包まれる。ガイドが口に手を当てて静かにしろ、とサインを送っている。すると動物園時代聞き慣れたゾウが餌を食べる独特のあの音が聞こえてきた。かれらがサトウキビの皮をしごき、軽くパタパタと脚に叩きつける音から、ゾウの姿が見えなくとも私には彼らの仕草が容易に想像できた。ガイドが小声で、かなり大きな群れで20頭くらいいるかもしれない、と耳打ちしてくれた。

そのとき突然、すぐ横から地面に響くような「ウオー!」という大きな威嚇音が響いた。その瞬間、「逃げろ!」とガイドが大声で叫び、ライフルマンを先頭に一気にもと来た道に向かい走った。私もすかさず走ったがすでに安全な場所までにげたガイドが銃を片手に必死で手招きしていた。ガイドと私の3人は大事に至らず良かったとほっと胸をなでおろしているのに、ゾウの怖さを知らない友人は一番後ろから「何が起こったの?」とトコトコとついてきた。

それにしても先頭を切って逃げたあのライフルマンは何のために付いていたのだ。

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