No.061 アズマモグラ – おもしろ哺乳動物大百科 11 食虫目 アズマモグラ

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食虫目の仲間は、学者によって分類は違いますが、ソレノドン科、テンレック科、キンモグラ科、ハリネズミ科、トガリネズミ科、モグラ科の6科に分けています。肉食ですが、ライオンがシマウマを食べるように大型の動物を食べるわけではなく、昆虫やミミズ、小動物、小鳥、魚、甲殻類、などを食べて生活しています。今回はこれらの中からモグラ科について紹介します。

モグラ科

モグラ科については、今泉吉典先生は17属、32種類に分類していますが、その中には、ロシアデスマンをはじめいくつかの種類は川のそばで生活して、水にすむ生物を食べています。小型の種類としては、シナヒミズが6〜9cm、大型の種類では、ロシアデスマンが18〜20cmと大きな差があります。現在世界に生息しているモグラ科を、篠原明男先生たちの研究グループは、ミトコンドリアDNAから、8グループ(地下生活、地上、水陸両生、ほか5グループ)に分類しています。今回はモグラ科の中から、モグラ属、アズマモグラを見ていきましょう。
アズマモグラ
アズマモグラ 写真家 大高成元氏撮影
大きな手が見えていますね。この強力な手ですばやく地面に穴を掘ります。

アズマモグラ

アズマモグラ – 大きな手が見えていますね。この強力な手ですばやく地面に穴を掘ります。写真家 大高成元氏撮影

なわばりをもって普通は単独で、一つのトンネルに1頭で生活しています。現在国内で広く生息しているのは、アズマモグラとコウベモグラの2種類です。この2種類は静岡、長野、石川県を境にして南北にわかれ、アズマモグラは北側に生息していますが、このほかにも紀伊半島、中国、四国の山岳地帯に小さな生息地があります。元来モグラは攻撃性に富んでおり、大陸からわたってきたコウベモグラは在来種であるアズマモグラより体が大きく、喧嘩が強いので、両者のテリトリーが重なるところではコウベモグラはアズマモグラのテリトリーを侵食してきました。しかし、長年日本のモグラについて研究されている阿部永先生によれば、体格差ばかりでなく、土壌条件もまた生息域の拡大に関わっている、ということなので一挙にアズマモグラが絶滅することはないでしょう。

すんでいる場所

2年前に自宅を引っ越してきて、庭に植木や石を並べると、一夜にしてモグラ塚がポコポコと盛り上がり、せっかくきれいに植えた植物や石までも陥没しました。森では豊富にたまった落ち葉の下に住み、庭のようなモグラ塚は少ないようですが、落ち葉の少ない庭などはトンネルを掘ってその中に落ちてきたミミズや昆虫などを食べています。モグラ研究で著名な今泉吉晴先生によれば、モグラは秋から冬にかけて毎日数個から数十個のトンネルを掘り、穴の中は底が平らの楕円形で、大きさは直径が5cmくらいということです。また、このトンネルをモグラ以外にヒミズも使っています。また、かれらは約4時間周期で眠りと捕食を繰り返すそうですが、4時間くらい間を空ければ、ちょうどミミズや虫が再びトンネルに落ち込んでいるのでしょう。

からだの特徴

体はネズミのようですが、長い口吻をもっています。毛は柔らかく、色は生息する地域によって変化があり、山岳地の個体は暗褐色、平野部では褐色です。モグラはトンネル掘りの名人ですが、掘るための体の特徴がいくつかあります。前後肢とも指は5本あり、親指の外側にはもう1本湾曲した骨(鎌状骨)が張り出し、手のひらの面積を広くすると共に、手の力を強化しています。トンネルの中では前進も後退も同じスピードで走ることができますが、この際、毛が垂直に生えているので、土が体につきません。また、上下の瞼がくっついているので目は見えませんが、明暗はわかるようです。耳介は発達していません。嗅覚と聴覚は良く、トンネルの壁に毛が触れていることで自分がトンネルの中にいることを確認しています。そのため広い場所で飼育すると、精神的に不安定になります。歯の数は42本で、上顎の門歯は計6本あって、浅いV字型かU字型に並んでいます。

えさ

えさは、ミミズ、昆虫のほかにジムカデ類、ヒル類、ナメクジ、種子なども食べます。1日に体重の半分くらいのミミズを食べると言われています。コウベモグラは、ミミズの頭を食いちぎり、体内の泥をしごいて出して食べるそうです。動物園では、ミルワーム、牛ハツ、冷凍バッタやコオロギを与えています。

繁殖

日本産のモグラの繁殖についてはまだ詳しいことがわかっていないようです。アズマモグラでは通常春から初夏にかけて1回に2〜6頭の子どもを産みますが、秋の出産例もあります。寿命は約3年ですが、多摩動物公園では2009年6月現在、5年9ヶ月飼育している記録があります。

天敵

人間のほかに、野生ではオコジョ、ケナガイタチ、イタチ、フクロウ、カラス、ヘビなどがいます。

データ

分類 食虫目 モグラ科
分布 日本
体長 12〜16cm
尾長 1.4〜2.2cm
体重 50〜130g
絶滅の危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2008年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。

主な参考文献

阿部 永 監修・著者 日本の哺乳類 東海大学出版会 2005
阿倍 永・横畑泰志 編 食虫類の自然史 比婆科学教育振興会 1998
横畑泰志 著 モグラ科動物の生態
今泉吉典 著 世界哺乳類図説 食虫目・皮翼目 新思潮社 1966
今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
今泉吉典 著 モグラの地中フレーベル館 2005
大泰司紀之・三浦慎吾 監修 日本の哺乳類学Ⅰ−小型哺乳類 東海大学出版会 2008
篠原昭男 著 多様性と系統進化 モグラ類
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