ウシ科
ウシ科には大型のバイソンやガウル、中型のヌーやオリックスなどのアンテロープの仲間、そしてヤギの仲間のシロイワヤギ、ジャコウウシ、バーバリーシープなどが含まれ、さらにニホンカモシカもシカと命名されていますが、ウシ科に分類されます。このように多種類が含まれるため、生息域も広くアフリカに生息するアンテロープの仲間は熱帯に、ジャコウウシは北米のツンドラで極寒の地域に生息し、寒さに順応して65cmにもなる長い体毛で寒さを凌ぎます。
ウシ科の共通した特徴の一つに角がありますが、シカ科のように毎年抜け替わることはありません。洞角と呼ばれ角質の鞘と骨の芯から成り、鞘の内側から毎年新しい鞘ができ押し上げて少ずつ長くなります。そして、多くの種類で雌雄共にあります。第2指と第5指は不完全でふつう側蹄だけですが、ない種もいます。門歯は上顎にはなく、前臼歯と臼歯は多くの種で歯冠部が高くなっています。上顎の犬歯はありません。多くの種に胆嚢があります。角の形状はらせん状を呈するクーズーやマーコルがいますが、他にも左右にカーブしている種がいます。
現在、野生のウシ科はマダガスカルを除くアフリカ及び、ヨーロッパ、アジア、北アメリカ、東南アジアの島々に分布しています。
なお、今泉吉典博士はウシ科の仲間を7亜科(ウシ亜科、ニルガイ亜科、ブッシュバック亜科、ダイカー亜科、ブルーバック亜科、ブラックバック亜科、ヤギ亜科)に分類しています。
ボンゴ
現在は大別すると、アフリカの2ヶ所に生息しています。一つはアフリカ西部(ギニア、シエラレオネ、リベリア、コートジボアール、ガーナ、トーゴー、ベニン)及びアフリカ中央部(カメルーン、ガボン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国、南スーダン南西部)の低地熱帯雨林、もう一つはケニア中央部の標高2,100~4,300mの密生したジャングルや竹林です。1年を通じて森林で生活し、基本的に長距離を移動することはありませんが、ケニアの山地に生息する個体群は2月から3月の乾季に高地の竹や樹木の多い場所に、雨期になると低い場所に移ります。中央アフリカ共和国のザンガ=ンドキ国立公園の場合、ボンゴの移動ルート沿いの生息環境は混合林が83%、Gilbertiodendron属(マメ科ジャケツイバラ亜科、アフリカに分布する高さが20~40mの常緑樹)の森林が10%、森林内の樹木のない場所が1.6%、そして、塩なめ場はわずか0.02%以下で夜間定期的にナトリウム補給のため訪れます。胃の中にはセルロースを分解してくれる共生微生物が無数にいて、自ら発する酸で死滅するのを防ぐため、唾液のアルカリ性によって中和しています。そのアルカリ源としてナトリウム(塩分)が必要となるからです。
交尾期以外は成獣のオスは単独生活ですが、メスと子どもは平均9.1頭の群れで暮らしています。出産後の1~2ヶ月間はこれらの小集団がいくつか集まって50頭位になります。大きな群れは雌雄、年齢に関係のない集団で、出産後のメスや子どもたちを守るために集まる、と考えられます。夜行性といわれていますが、活動のピークは夕方と明け方です。ザンガ=ンドキ国立公園の場合、10時30分から16時の間は森林で休息しながら反芻していました。また同公園における2つの群れの行動圏は19km²と49km²でした。近縁のエランドは草原にすみ視力が発達していますが、耳は小さく、一方、ボンゴは大きな耳で音を拾い、聴力と嗅覚が発達しています。木々の密生する森林では視界が悪く、生活環境によって発達している部位が異なりそれぞれ外敵の接近を察知している、と考えられます。
体の特徴

体中にある模様はジャングルの中で迷彩服のようになります。大きな耳で常に周囲の状況を伺っています。写真家 大高成元氏撮影
- 体長 170~250cm
- 肩高 110~130cm
- 尾長 45~65cm
- 体重 オス220~405kg
- メス 210~270kg
体毛は全体的に短く、体色は輝くような赤栗色で腹部は黒色、横腹に9~15本の白い横縞があり、その姿は美しく、オカピと並び称されています。この白色の横縞は、1972年に上野動物園で飼育していた個体では右側が12本、左側が14本と左右が不対象でしたので個体によって違いがあると考えられます。また、地色の赤褐色は色が落ち、体表を撫でるとチョコレート色に手が染まり、雨にぬれるとコーヒー色のしずくが滴たったと報告されています。余談ですが、この個体は約1.5mの柵を助走なしで飛び越えて通路に飛びだし、飼育係を驚かせたことがあります。前頭部は褐色か黒色、目の間に三日月形の白斑、頬にも白斑が2~3個あり鼻づらは黒色です。前胸には細い白帯があり、4肢の外側は黒色に近く、内側は白くまだら模様です。これらの鮮やかな模様は森林の中では保護色になり気配を消すと見つかりにくいのです。オスは加齢とともに体色が濃くなります。尾は長く先端に毛の房があります。背筋には短いたてがみ状の毛の房があります。
角はオス、メス両方にあり、一回転、あるいは一回転半ねじれながら外側に開き伸びて、前面のカーブに沿って最長100.2cmの記録がありますが、ふつう60~100cm、平均83.5cmです。角の長さはオスとメスであまり差がありませんが、オスの角の方がメスよりがっしりしています。長い角は森林の中ですばやく走るときに邪魔になると思いますが、頭部を上にあげ角を後ろに伏せることでこの問題を解決しています。
乳頭は2対4個です。歯式は、門歯0/3、犬歯0/1、前臼歯3/3、臼歯3/3で合計32本です。匂いをつけるための眼下腺、鼠蹊腺、蹄腺はありません。
えさ
ボンゴはおもに木の葉を食べていますが、そのほかに小枝、樹皮、木の根、竹の葉、果実、ハーブ、花、シダ、スゲ、二次林の植物、キャサバ(イモノキ)、タロイモの根、サツマイモの葉、イネ科植物の先端など農園の植物まで採食していて非常に変化にとんでいます。南西スーダンに生息するボンゴの場合、森林の双子植物のうち116種を採食した報告があります。中央アフリカのザンガ=ンドキ国立公園では乾燥帯の森林はアオギリ科やニレ科の木々が茂り、林冠は開けています。その低木層はしばしばクズウコン科やショウガ科などの植物が見られ採食されています。138種類の植物の中で97種類の若葉を採食しましたが、このうち好んで食べるのは26種類でした。その内訳はツル植物が45.7%、灌木が42%、樹木が6.2%でした。この他にミネラルが多く含まれる土を食べるために、特定の場所を訪れます。水も必要で泥水でも飲みます。
ふつうに立ったまま採食する他に、前足を木の幹にかけ立ち上がって高さ2.5mの木の葉をとって食べます。また角を上手に使って枝をひねり採ったり、根を掘り起こしたりして採食します。
繁殖
野生ボンゴの繁殖に関する情報は少ないのですが、ケニアの山地における繁殖期は6月~9月、及び10月~1月との報告があり、飼育下では12月、4月、8月に出産例があります。中央、西アフリカではもう少し範囲が広いかもしれません。繁殖期には他のウシ科動物と同様に雌雄共に攻撃的になり、成獣オスの間でメスを巡る闘争で負傷して致命傷を負うこともあります。メスの発情周期は21~22日で3日間続き、交尾の間中オスは鳴き声をあげています。出産間隔は466日、525日、3例の妊娠期間は282~287日でした。一産一子で稀に双子が生まれます。出産時の子どもの体重は平均19.5kgでした。体の模様は成獣と同じですが黄褐色が明るく鮮明です。飼育下の2頭は生後27ヶ月齢と31ヶ月齢で妊娠しました。授乳は半年続き、その後、雌雄ともに2~2.5歳で性成熟します。
名古屋東山動物園では6頭のボンゴが繁殖し繁殖賞を受賞しています。(繁殖賞とは、日本動物園水族館協会が規定している表彰の一つ。協会に加盟する園館で、飼育動物の繁殖に成功し、かつ、それが日本で最初であったものに与えられる)
1968年、1973年にオスのボンゴとメスのシタツンガの間で繁殖能力のある異種間のハイブリッドが生まれています。シンシナティ動物園では1984年に体外受精でボンゴの受精卵をエランドに移植して出産に成功しています。
長寿記録としては名古屋市東山動物園で1989年2月25日に生まれ、2011年12月25日に老衰のため死亡した個体(メス)の22歳10ヶ月があります。
外敵
外敵として成獣はヒョウとブチハイエナ、幼獣はゴールデンキャット、大型のニシキヘビに狙われます。
生息数の減少と絶滅危機の程度
人口増加と家畜のための牧草地の開墾による生息地の消失、スポーツハンティングによる被害、イヌによる被害、ウシの放牧による牛疫の伝染により生息数は減少していますが、低地に生息するボンゴの約60%は保護区で生息し、生息数は約28,000頭と推測されます。そのためにIUCN(国際自然保護連合)発行の2015年版のレッドリストでは、種としては現在のところはすぐに絶滅する恐れは少ないとして近危急種(NT)になっています。しかしケニアの高地に生息する個体群は、現在生息数が75~140頭に減少しているので、絶滅の恐れが極めて高い絶滅寸前亜種(CR)に指定されています。
亜種
今泉吉典先生は次の3亜種に分類していますが、学者によっては2亜種にする場合もあります。
- リベリアボンゴ:シエラレオネ、リベリアからカメルーン、ガボンにかけて分布。
- コンゴボンゴ:コンゴを中心に分布。
- ケニアボンゴ:ケニアの高地に分布。
データ
分類 | 偶蹄目(クジラ偶蹄目) ウシ科 ブッシュバック属 |
分布 | アフリカ西部からアフリカ中央部、アフリカ東部(ケニアの高地) |
体長(頭胴長) | オス 170~250cm |
体重 | オス 220~405kg メス 210~270kg |
体高(肩高) | 110~130cm |
尾長 | 45~65cm |
主な参考文献
D.A.マクドナルド編 今泉吉典 (監修) |
G.E.ベロフスキー著動物大百科4 大型草食獣 ウシ亜科23種 平凡社 1986. |
今泉吉典 | ウシ科について In世界の動物 分類と飼育偶蹄目=Ⅱ (財)東京動物園協会 1979. |
今泉吉典 | ウシ科の分類 In世界の動物 分類と飼育偶蹄目=Ⅲ (財)東京動物園協会 1988. |
Estes, R.D. | The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991. |
林 壽朗 | 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968. |
中川志郎 | ボンゴー密林の珍獣― どうぶつと動物園 Vol.24 No.9 (財)東京動物園協会 1972. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.Ⅱ The Johns Hopkins University Press, Baltimore. 1999. |
Ralls,K. | Mammalian Species. No.111, Tragelaphus eurycerus The American Society of Mammalogists. 1978. |
Parker,S.P.(ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2. McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of The World. 2. Hoofed Mammals, Lynx Edicions 2011. |