ハイエナ科
ハイエナ科は3属4種と分類する学者と、アードウルフ亜科1属1種とハイエナ亜科2属3種に分類する学者がいますが、最近では2亜科に分類する説が主流となっています。アードウルフは食性が他のハイエナの仲間と異なり、シロアリや昆虫の幼虫が主食のため、歯はハイエナ亜科と若干違いますが、解剖学的特徴や染色体、血液蛋白質の組成が類似しているためハイエナ科に分類しています。分布はサハラ以南のアフリカ、トルコからアラビア半島にいたる中東、ソ連南西部、インドに達しています。大型の種類ではブチハイエナが体長95~165cm、体重40~86kgに対し、最小のアードウルフは体長55~80cm、体重約9~14kgなので大差があり、体の縞模様も異なります。アードウルフに比べ、ハイエナの仲間は頭部と前額部が大きく後躯は貧弱です。乳頭は1~3対あります。アードウルフは繁殖期には1夫1妻で育児していますが、餌探しは単独で行います。ハイエナ亜科の仲間は母系集団で生活し、群れの大きさは種によって違いが見られます。夜行性で日中は自分で掘った穴のほかに、ツチブタなど他の動物が掘った穴や岩場の隙間などを利用して休憩します。繁殖期は決まっていませんが、種ごとにピーク時があります。出産はふつう年1回で1~5頭が生まれ、授乳期間は12~16ヶ月間続き、生後3~6ヶ月齢から離乳食を食べ始めます。雑食性で哺乳類及びその死肉、腐肉、鳥と卵、果物や草など肉や腐肉まで食べます。顎の力が強く他の大型の肉食獣が食べることができない骨を噛み砕き、髄を食べることができます。消化できない角、蹄、骨はペリットとして吐き戻します。ハイエナ科の仲間の歯式は全種とも基本的には門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/3、臼歯1/1で左右上下合わせて34本です。
ハイエナ亜科は群れ社会を形成し、交尾を他の群れのオスと行うことから少数で飼育した場合、繁殖が難しいとされています。
アードウルフ亜科 アードウルフ属
1属1種なのでアードウルフについて紹介します。生息域により東部と南部に生息する仲間を別亜種として2亜種に分類しています。
アードウルフ
アフリカの2つの地域に別れて分布し、1つは東部、及び北東部のタンザニア中部からスーダン北東部、他方はアフリカ南部のアンゴラ、ザンビア南部から喜望峰にかけて生息しています。乾燥した地域を好み、年間雨量が100~800mmの半砂漠の草原や潅木林、サバンナなど餌となるシロアリの生息する地域にいます。群れは雌雄とその子どもで構成され、両親は共同して育児と外敵の防衛を行います。ふつう、つがいの絆は強くて2~5年間続きます。夜行性で日中は自分で掘った穴やツチブタ、トビウサギ、ヤマアラシが使った巣穴、岩の隙間を利用し、出産や休憩場所としています。活動時間は南アフリカでは夏季が8~9時間、冬季3~4時間で、夏季には日没後1時間以内に巣穴を出て1~4時間餌を探し、日の出前に戻ります。行動圏は1~4km²で、この中に0.5~1km²のなわばりをもっています。なわばりの中には約3,000個のシロアリの塚があり、それぞれのアリ塚には平均55,000匹のシロアリがいると考えられています。また、なわばり内には10カ所以上の巣穴とほぼ同数の糞塚があります。南アフリカにおける1晩の移動距離は平均4kmで、餌探しをしない時は時速2.3km、餌探しのときは時速約1kmで歩行していました。なわばりの防衛は雌雄共同で行い、セグロジャッカルのような外敵や隣接したアードウルフの侵入に対して、たてがみを立てて大声を上げて威嚇したり、突進したりして撃退します。なわばり内では肛門腺からの分泌液を草の茎に5mm程度付着させます。匂いつけはなわばりの境界線では回数が多くなり、とりわけ交尾期には回数が多く、50m毎に2時間に120回付けた記録や1晩に約200回の記録があります。ふだんは静かな種類ですが、9種類の声によるコミュニケーションが知られています。おもに外敵から子どもを守るために発する威嚇や攻撃、交尾期の求愛、親子間の甘え声などです。
からだの特徴

他のハイエナの仲間よりスマートです。黒い鼻が目立ちます。写真家 大高成元氏 撮影
体の模様はシマハイエナと似ていますが、大きさは半分ほどしかなく全体的に華奢な印象です。体色は黄灰色、黄褐色、黄白色、赤褐色まであり、胴と4肢に黒い縞模様があります。頸部から背を通って尾の付け根までたてがみのような長い毛があり、興奮すると逆立てることができます。鼻面には毛がなく黒色です。上毛は剛毛で、頭部が約7cm、肩部が約20cm、尾部が約16cmあります。下毛は長さ1.6~2cmの柔らかい毛で被われています。尾はハイエナ亜科の仲間より長くびっしりと毛が生えており先端は黒色です。頸部は長く、前肢は後肢より細長くて、指は前肢に5本、後肢には4本あり、爪は引っ込めることができません。歩行はイヌやネコと同じように踵をあげて指骨を地面に付けて歩く指行性です。体長は55~80cm、体重9~14kg、尾長は20~30cmで、雌雄の性差はありません。耳は細長の三角形で約8cmです。顎の筋肉は強く、犬歯は細く鋭くなっていますが、これは外敵のセグロジャッカルやなわばりをめぐる闘争の時に使います。肛門腺は雌雄ともに肛門の上部にあって、匂いつけをする際は肛門嚢(のう)を体外に出して黄赤色の分泌液を出します。舌はオオアリクイのように細長くはなく、ヘラのように大きくて長く、表面には多くの小乳頭突起があります。また、大量の粘液性の唾液を出す顎下腺がありシロアリを効率よく舐めとることができます。嗅覚と聴覚が優れ、大きな鼓胞でシロアリの出す音を聞きとることができます。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯4/3、臼歯1/1で左右上下合わせて34本です。犬歯は強力ですが臼歯は縮小し、広い隙間があき成獣は24本まで減少するケースが多く見られます。乳頭数は2対です。
えさ
基本的にシロアリが主食で、他にも昆虫とその幼虫、小型の哺乳類、ヒナ、腐肉、ウジなども食べます。ふつう各地域で1種類のシロアリを食べていますが、いない時は、約10%を他のシロアリやアリ、甲虫、ガなどで補います。シロアリたちの出す音を感知して風下から近づきますが、このほかに鋭い嗅覚も、シロアリが分泌する匂いを探知するのに役立っていると考えられています。東アフリカでは1ヵ所で20~28秒間、南アフリカの場合平均で11秒間食べていました。調査区域や乾季と雨期及びシロアリの種類によって大きさが違うので、採食量に幅がありますが、一晩に6時間の餌探しで20~30万匹を採食すると推定され、重量に換算すると1~2kgになります。また、年間1億500万匹食べるという報告もあります。シロアリ1kgと赤身肉750gがほぼ同等の栄養価があると分析結果が出ています。水は通常はシロアリの表面についた水分で補えますが、シロアリが少ない地域では水場を探すことがあります。
繁殖
繁殖期は春から夏で、発情は1~3日間持続します。妊娠期間は90~110日で2~4頭出産します。基本的には1雌1雄ですが、交尾期の間にはいわゆる“つがい外交尾”がしばしば起き、南アフリカではその割合が40%になります。南アフリカのケイプ州北部では6月初旬の2週間に交尾し、毎年10月初旬に出産します。生まれた時の子どもの体重は200~350gで、目は開いています。生後約1ヶ月齢まで巣穴に留まり、4~6週齢で短時間親がそばについて外に出ます。6~9週齢になると巣穴からおよそ30m以内で遊び、9~12週齢では巣穴から約100m以内を親と一緒にシロアリを探しに出掛けます。12週齢から4ヶ月齢では、なわばり内を親と共に餌探しに出かけ、4ヶ月齢頃に離乳します。メスが採食に巣外に出ている間はオスが巣穴に残って子どもの面倒を見ますが、メスは採食に約6時間離れるのにくらべオスはわずか2~3時間しか離れません。子どもの成長は早く、親と同じ体重になるのは生後3~6ヶ月齢です。生後7ヶ月齢で独立し、最初は親のなわばり内で一緒に過ごし、次の子どもが巣穴から出て餌を食べる頃には親のなわばりを離れます。ケイプ州における生後12ヶ月齢までの子どもの生存率は1981~1984年の間で68%でした。しかし、1984年の冬季の厳しい旱魃時には55%が死亡したとの報告があります。性成熟は約1.8歳です。交尾期には週1回程度オス同士で闘います。
長寿記録としては、フランクフルト動物園で1986年5月27日に死亡した個体(メス)の飼育期間18年11ヶ月、推定年齢20歳があります。
外敵
野生の主な外敵はセグロジャッカルですが、その他にライオンやヒョウなどの大形の肉食動物があげられます。オオミミギツネとケープギツネは餌が昆虫食で競合しています。また、同種内のなわばり争いで死亡する例もあります。
データ
分類 | 食肉目 ハイエナ科 |
分布 | アフリカ東部と北東部、及び南アフリカ |
体長(頭胴長) | 55~80cm |
体重 | 9~14kg |
尾長 | 20~30cm |
絶滅危機の程度 | 農地や住宅地のために過度の開発が進められた結果、生息域が減少しています。また、ジャッカルを駆除するために農場などで撒く毒餌で成獣と子どもが犠牲になるほか、食料にするための狩猟、夜間の交通事故も減少原因となっています。しかし、幸いなことに彼らの主食がシロアリや昆虫などで人間と競合せず、生息数が比較的安定していることから、現在のところは絶滅の恐れは少ないと判断され、国際自然保護連合(IUCN)発行の2012年版のレッドリストでは、低懸念種(LC)にランクされています。 |
主な参考文献
Estes,R.D. | TheBehaviorGuidetoAfricanMammals.TheUniversityofCaliforniaPress.1991. |
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988. |
今泉吉典 監修 | 動物大百科 食肉類 平凡社 1986. |
林 壽郎 | 標準原色図鑑全集 動物II 保育社1981. |
Koehler,C.D. & Richardson,P.R.K. | Mammalian Species . No.363, Proteles cristatus. The American Society of Mammalogists 1990. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
川口幸男 | ハイエナ科の分類. In. 世界の動物 分類と飼育□2 食肉目:今泉吉典 監修, (財)東京動物園協会 1991. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009. |