アナグマ属
アナグマは1属1種ですが、広範囲に分布するアナグマを24亜種に分類する学者や、亜種を整理し次の3種とする学者もいます。
(1)アジアアナグマ
(2)ニホンアナグマ
(3)ヨーロッパアナグマ
この分類に従った3種の体格と歯式を下記に示しましたが、アジアアナグマの中国に分布する種類は若干小型で、歯式はニホンアナグマと共にヨーロッパアナグマより歯数が少なくなっています。
3種の体格 | 頭胴長 | 体重 | 尾長 | |
(1)アジアアナグマ | 1種2亜種 | 49.5~70cm | 3.5~9kg | 13~20.5cm |
(2)ニホンアナグマ | 1種 | 52~68cm | 5.2~13.8kg | 12~18cm |
(3)ヨーロッパアナグマ | 1種23亜種 | 56~90cm | 10~16kg | 11.5~20.2cm |
3種の歯式 | ||||
アジアアナグマ・ニホンアナグマ | 門歯3/3 | 犬歯1/1 | 臼歯1/2 | 計34本 |
ヨーロッパアナグマ | 門歯3/3 | 犬歯1/1 | 臼歯1/2 | 計38本 |
なお、本稿ではアナグマを1種としてその概略を紹介します。
アナグマ
分布域は、イギリス、スカンジナビア南部以北のヨーロッパ、ソ連のヨーロッパ部分から北極圏、中東のパレスチナ、イラン、及び中国のチベット、中国南部、そして日本にかけて広く分布しています。亜種の一つであるニホンアナグマは北海道を除く本州、四国、九州、小豆島に分布しています。ヨーロッパでは、標高およそ1700mの森林から低地の川辺、藪、草原、ステップ、半砂漠などの混合地帯に生活しています。アナグマはクランと呼ばれる5~6頭の家族単位の群れで生活していますが、イギリスではクランは雌雄の混成群で最大23頭、平均6頭でした。クランは優位のオスとメスによってリードされていますが、オスよりもメスの方が多いのがふつうです。生活空間は、スペイン中央部では高地や低地を避けて水場に近い森林や岩場、スイスのジュラ山脈では冬から春は森林や木のある牧草地、夏や秋は穀物畑を好みます。活動時間は基本的に夜行性で日没から夜明けまでの約8時間ですが、交尾期には日中も活動します。クランは生活するために隠れ場として巣穴を掘りますが、多くの場合、水はけの良い疎林や斜面の掘りやすい土やまわりが藪で囲まれている場所が選ばれます。巣穴はヨーロッパに住むアナグマの方が大きく複雑になっています。2つのタイプがあり、1つは直径0.8~1.5m、深さ2~3m、奥行き50~100mのトンネル状の穴を掘り、出入り口も平均10ヶ所もある共同の巣穴です。内部は清潔に保たれ数ヶ月使うと他の巣穴に移動し、休憩や出産用の場所は乾燥した草や枝、コケ、葉など入れておきます。周辺部2~3kmは、日光浴や遊び場として使います。もう一つは出入り口が1ヶ所で、1頭あるいはペアでなわばりを作り、同性の成獣は一緒に住みません。なわばりは尾腺や肛門腺からの分泌物をこすり付けて目印としますが、境界線を巡ってしばしば戦うときもあります。メスは春から夏の暖かい場合、地面を掘らないで岩の割れ目など自然の隠れ場所を好む傾向があります。ポルトガルの調査例ではメインの巣穴の利用率が62.3%でしたが他にも平均14ヶ所の巣穴があって、それぞれ1頭又はペアでなわばりとしています。行動圏は生息地により幅がありますが、0.1~4km²で、1日の移動距離は1.2~10kmになります。
ニホンアナグマは母親と子どもの家族グループで、性成熟したオスは早春以外家族の元をほとんど訪れません。オスの行動圏は2~3頭の成獣のメスの行動圏を含んでいるので、メスより広くなります。東京における行動圏の調査によれば、オスで0.4km²、メスが0.11km²でした。巣穴は年間平均13.5ヶ所を使いますが雌雄ともに同じ巣穴をほとんど使いません。冬季の寒い時期、ヨーロッパの寒い地方と同様にほとんどの時間を冬眠し巣穴で過ごします。ニホンアナグマの場合、冬眠(又は冬ごもり)期間は42~80日と生息環境によって差があり、この期間は体温の低下が見られます。
からだの特徴

ふっくらとした体と両目を通って黒い縞があるところが特徴です。写真家 大高成元氏 撮影
体格は、体長49.5~90cm、体重3.5~16kg、尾長11.5~20.5cmと生息地によって幅があります。体重の重いものでは秋に30~34kgになった成獣オスが知られています。体形はずんぐりとして、短い4肢にはそれぞれ5本の指があり、前肢の長く鋭い爪は穴を掘るのに適していますが、後肢の爪はそれほど大きくはありません。耳と尾は短く鼻端部は太く尖っています。頭部から鼻端までの中央線及び耳は白く、その両側に両目を通り2本の黒い縞が入っています。体毛は上面が淡褐色から褐色、灰黒色まであり、背の部分は淡く腹部及び4肢と目の周囲は黒色です。オスはメスより頭部が広く、頸部と尾も太くなります。肛門腺や尾部下腺からの分泌液をなわばりの境界線や相手の体に擦り付け、あるいは、逆立ちして木の30~40cmの高さに排尿して匂いを付けることもあります。これらの匂いによる役割は、餌を探すためだけでなく、個体間の識別、メスの発情状態の確認などコミュニケーションの手段としても重要なので、嗅覚は鋭いと思われます。乳頭数は3対です。
えさ
雑食性で主食は地下に住む無脊椎動物のミミズですが、他にも、昆虫、ハチの幼虫、甲虫や小型の哺乳類のモグラ、ネズミ、ウサギ、両生類のカエル、爬虫類のトカゲやヘビ、鳥類、果物のイチゴ、ブドウ、根茎、穀類、ハチミツ、キノコなども食べます。果物が豊富にある季節はその割合が増えますが、ヨーロッパの調査例では56~89%が地下のミミズや虫で占められていました。また、これらの餌が不足している場合は腐肉(死肉)も食べます。1頭のアナグマがミミズを1時間で数100匹を捕えることが知られています。
繁殖
ヨーロッパに生息するアナグマの交尾期は1年中見られますが、最も多いのは冬の終わりから夏の半ばにかけてです。受精卵の子宮内への着床が10ヶ月間も遅延することがあります。そして胎児の発達は着床後6~8週で急速に進み出産します。交尾から出産までの妊娠期間は9~12ヶ月で、出産期はおもに2月から3月です。産子数は3~4頭、多いもので6頭です。生まれたばかりの赤ちゃんの体重は約75g、目は閉じていますが生後約1ヶ月齢で見えるようになります。授乳期間は生後約2.5ヶ月齢までで、秋には母親から離れます。雌雄ともに約1歳で性成熟し繁殖活動に参加します。
ニホンアナグマの交尾期は4月から8月で、受精卵は翌年の2月ころまで着床遅延し、出産期は2~5月です。産子数は1~3頭、オスの子どもは生後24ヶ月齢まで成長を続けますが、メスの成長は早く1歳で親と同じ大きさになります。性成熟はオスで約2歳、メスは1歳で性成熟し着床遅延をはさんで2歳から出産が始まります。ニホンアナグマのメスの子どもは母親と一緒に生後14ヶ月齢迄しかいませんが、オスは生後約26ヶ月齢まで一緒にいます。
長寿記録としては、チェコのプラハ動物園で1979年12月9日に死亡した個体(オス)の飼育期間18年7ヶ月があります。
外敵
人間が一番の外敵で、畑を荒らした場合は毒殺やワナ、狩猟で捕獲されます。各国で狩猟期には捕えられますが、毛質が悪く毛皮用ではなくヒゲ剃り用のブラシや毛筆に利用されています。野生の外敵としては、オオカミや野犬があげられます。
ペットのイヌにダックスフントがいますが、このイヌはヨーロッパでアナグマを穴から追い出すために改良した品種です。ドイツ語でダックスはアナグマ、フントはイヌを意味し、アナグマ用のイヌという意味です。
データ
分類 | 食肉目 イタチ科 |
分布 | ヨーロッパ、アジアの寒帯、亜寒帯、温帯地域 |
体長(頭胴長) | 49.5~90cm |
体重 | 3.5~16kg |
尾長 | 11.5~20.5cm |
体高(肩高) | 22~33cm |
絶滅危機の程度 | 分布が広く、雑食性で主食がミミズなどの地下に住む動物で餌が豊富なこと、また環境への適応性が高いことから国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ない低懸念種(LC)に指定されています。 |
主な参考文献
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社 1988. |
今泉吉典 監修 | 動物大百科 食肉類 平凡社 1986. |
林 壽朗 | 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981. |
齋藤勝・伊東員義・細田孝久・西木秀人 | イタチ科の分類.In.世界の動物 分類と飼育□2食肉目: 今泉吉典 監修,(財)東京動物園協会 1991. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Parker, S. P. (ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 3, McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of the World, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009. |
日高敏隆 監修 | 日本動物大百科1 哺乳類Ⅰ 平凡社 1996. |