霊長目 ヒト科
チンパンジー
チンパンジーはアフリカに生息し、地域によって3亜種に分類されています。西アフリカのセネガルからガーナにかけて分布するニシチンパンジー、中央アフリカのカメルーン、コンゴ、中央アフリカ共和国に生息するチュウオウチンパンジー、そして、ウガンダ、タンザニアに生息するヒガシチンパンジーの3亜種ですが、最近はナイジェリアとカメルーンの一部に孤立して分布する個体群を、別の亜種(ナイジェリアチンパンジー)として認め、4亜種に分類する場合もあります。
生息地は標高およそ3,000mの高地から低地までの、熱帯多雨林、山地林、サバンナ、乾燥した疎開林と、さまざまな環境に適応しています。昼行性で樹上と地上の双方で生活し、若い個体は樹上を木から木へと身軽に渡ります。移動は地上が多く、手首を伸ばし親指以外の指の第2関節を直角に曲げて指の背を地面につけてナックル歩行で歩きます。手で物を持つときには直立して2本足で歩行します。夜間は毎日、各自が枝を集めて9〜12mの樹上に寝床を作って寝ます。
群れで生活し、複数の成獣の雌雄と子どもで15〜80頭のオスを中心とした父系集団を作っています。メスは8歳ころに生まれた群れを出て違う群れに入り、そこで繁殖をします。群れのリーダーは、オス同志や外から群れに入ろうとするオスとの闘争によって決まります。1日の移動距離は1.5〜15kmで、遊動域は多雨林のような常緑林の地域では20〜40km²ですが、サバンナのような開けた土地では100〜500km²と広くなっています。多様な鳴き声と、豊かな表情や抱擁やキスなどの行動が観察されています。
からだの特徴

オスの筋肉隆々とした感じがわかりますか。 サルやノブタも、こんなチンパンジーがいる群れに捕まったらおわりだね! 写真家 大高成元氏 撮影
体色は成長に伴い褐色から黒に変わっていきますが、亜種間で差があります。ヒガシチンパンジーのワカモノの顔はピンク色で加齢すると黒くなっていきます。また、頬や頭部の毛は長く密に生えていて、別名を毛長チンパンジーとも呼ばれています。尻の毛は白色ですが3歳になると消失し、老齢期の個体は頭髪が薄くなってきます。額に毛が生え、眉弓には毛が生えていないため、顔の表情がわかりやすく、意思の伝達を図ることができます。足の親指は手のつくりと似ており、握力が強く手のように使うことができます。
オスの犬歯は長く顎の力が強力で、ときにはヒョウも撃退します。歯式は、門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本です。胸腰椎は16〜18個、肋骨は12〜13対あります。
えさ
主食は果実ですが、木の葉、花や茎、樹液、キノコ、シロアリ、昆虫、はちみつ、卵、土も食べます。この他に多くの動物を捕えて食べる肉食が知られ、その中には同種のチンパンジーや他のサルの仲間・コロブス、ヒヒ、アカオザル、そして、ノブタ、リス、コウモリ、ダイカー、は虫類、など何でも食べる雑食性動物です。餌を採るために、木の枝や草の茎を使ってシロアリ釣りや、アブラヤシの実を石で叩き割るなど道具使用する動物としても知られ、各地の動物園ではその様子を再現しています。
繁殖
月経周期は30〜36日で、排卵前後の性皮の腫脹は大きく、1〜2週間持続し、この間に交尾します。妊娠期間は230〜240日で通常は1産1子、まれに双子が生まれます。多摩動物公園の出産例によれば、赤ちゃんは体重が1200〜1500gで生まれ、頭部、背、手足の外側は毛が生えており、胸部、腹部、手足の内側には生えていません。イヌやネコは赤ちゃんのおしりをなめて排泄を促す行動が見られますが、チンパンジーは手で刺激を与え排泄させます。生後10〜14日齢で首がすわり自分の力でしがみつき、生後6ヶ月齢になると、出産時に生えていなかった部位にも毛が生えはじめます。尻の白い毛は6〜7歳まであり、この期間は群れの仲間から子どもとして保護してもらえます。生後10ヶ月齢で固形物は何でも食べますが、離乳は生後約18ヶ月齢です。しかし、その後も、夜間は母親の乳首をくわえて寝る状態が6歳くらいまで続き、ほぼ野生における母子の観察記録と一緒でした。野生の初産は13〜15歳で、ふつう生涯に2〜3頭しか生みません。ところが多摩動物公園の1頭は生涯に9頭の子を生みました。外敵の心配がなく、餌が十分あることに加え、このメスが娘たちにも育児を託したためと報告しています。初潮は8〜10歳、メスの性成熟は6〜10歳、オスが7〜8歳です。
長寿記録は、オーストラリアのタロンガ動物園で2007年7月19日に死亡した個体の飼育期間59年、推定年齢60歳という記録があります。
生息数減少の原因
木材の輸出や農地へ転用のために森林を伐採して生息地が減少したことや、食肉用の狩猟が主な減少原因です。そのほか、ペットにするために親を殺して子どもを捕えることで、群れの形態が乱れます。また、漢方薬の材料としても捕えられています。野生の外敵はヒョウくらいです。
データ
分類 | 霊長目 ヒト科 |
分布 | アフリカ西部から中央部(セネガルからタンザニア) |
体長(頭胴長) | オス 77〜92cm メス 70〜85cm |
体重 | オス 34〜70kg メス 26〜50kg |
絶滅危機の程度 | 現在の生息数は172,700〜299,700頭と推測されて、国際自然保護連合(IUCN)発行の2010年版のレッドリストでは、絶滅危惧種(EN)に指定し、近い将来、野生では絶滅の危険性が高いとしています。 |
主な参考文献
Beacham, W. and Beetz, K.H.(ed) | Beacham’s Guide to International Endangered Species Vol.1 Beacham Publishing Corp., Florida 1998 |
イアン・レッドモンド 日本語版監修 齋藤勝 |
ビジュアル博物館 霊長類 同朋舎出版 1997 |
Lang,K.C. (Reviewed by Videan,E .) | Primate Factsheets: Chimpanzee, Pan troglodytes, Taxonomy, Morphology, Ecology, Behavior and Conservation,National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2006 |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1 , The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Estes,R,D. | The behavior guide to African mammals, The University of California Press , 1991. |
Parker, S.P. (ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
杉山幸丸 編 | サルの百科 データハウス1996 |
田坂清・吉原耕一郎 | チンパンジーの成長記 どうぶつと動物園 東京動物園協会 1982 |
吉原正人 | “ジャーニー”, 第9子を出産 どうぶつと動物園 東京動物園協会 1989 |