コロブス亜科
本亜科には、アフリカに生息するコロブスの仲間と、アジアに生息するリーフイーターと呼ばれる仲間やテングザルなどが含まれています。アフリカのコロブスについて、今泉吉典博士は、コロブス属とプロコロブス属の2つに分類しています。
コロブス属
今泉博士は本属をアンゴラクロシロコロブス、アカコロブス、アビシニアコロブス(ゲレザ)、キルクコロブス、キングコロブス、サタニックコロブスの6種に分類しています。属や種ごとに川などをはさんですみ分ける地域と、分布が重なる所では同じ場所で木の高さによって、樹冠、中間層、そして、下層とすみ分けて生活するケースもあります。アカコロブスがいない場所ではアビシニアコロブスが樹冠にいます。
今回は国内でなじみの深いアビシニアコロブス(ゲレザ)について紹介しましょう。
アビシニアコロブス
アフリカ中央部の西はナイジェリアから中央アフリカ、東はエチオピア、南はタンザニアにかけて広く分布しています。昼行性で森林や疎開林の樹上で生活していますが、1日の大半は休息し、日没後樹上で寝たあと、日が登っても1時間から数時間は寝ています。群れは6頭から10頭程度が多く、1頭のオス、または複数のオスとメス及びその家族で構成されています。群れのリーダーは年長のメスで、外敵にはオスが対応します。なわばりは5〜25haで、群内の交信やなわばりの主張には、5種類の声と1種類の舌打ちを使っている、との調査報告があります。
からだの特徴

肩の立派なマントと、白くて長い尾が魅力的なサルです。写真家 大高成元氏 撮影
体は全体的に黒く、顔の周囲は白、肩から尻にかけて白いマント状の毛があります。体長は50〜70cmですが、尾の方が長く、オスではおよそ80cmに達し、途中から長くふさふさとした白か薄い黄色の毛が生えています。体重は、オスは約14kgになりますが、メスは9kg未満です。他のオナガザルの仲間と違うところは頬袋がなく、手の親指がないか、いぼ状に退化しているところです。そのため木にぶら下がるときは、4本の指を引っ掛けて反動をつけて飛び移り、物を掴むときは、指と掌の間にはさみます。胃は大きく3つにくびれており、前方でセルロースの消化酵素が出され、微生物により発酵させて栄養源として取り込みます。鼻端は長く口に触れるくらいです。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本で、大臼歯の咬合面は高く盛り上がり、主食となる葉を細かく切る事ができます。オスの尻だこは左右がくっついています。
えさ
野生時の主食は葉ですが、季節により未熟の果実や花も食べます。1日の採食量は体重の三分の一から四分の一に当たる2〜3kgです。彼らの餌となる葉は豊富にあり、採食所要時間も少なくてすみます。大きな胃でゆっくり時間をかけて消化するために日中も寝て休息しています。動物園の餌は、木の葉、ジャガイモ、ゆで卵、バナナ、リンゴなどです。
繁殖
月経周期は約24日間で、外見上メスの発情徴候はありませんが、排卵前後2〜3日間にメスはオスを受け入れます。妊娠期間は158〜170日で、出産間隔は16〜22ヶ月間です。繁殖期は決まっていませんが、雨期に多くなっています。性成熟はメス4歳、オス6歳と推定されています。上野動物園の例では生まれたばかりの赤ちゃんは、体長約20cm、尾が24cm、体重は約500〜600gで、眼は開いており、頭部、手足と尾の先以外は純白の毛で被われていました。生後1週間齢で手足の先、3週間齢で目の周囲が黒くなり始め、親と同じ体色になったのは生後100日齢でした。また、生後1週間齢は母親に抱かれて動かず、その後徐々に離れ生後4週間齢で母親の手の届く範囲まで離れました。父親が育児に参加することが知られていますが、父親が初めて赤ちゃんを抱いたのは生後28日齢でその後頻度が増加しました。生後70日齢で固形物をしゃぶり始め、3ヶ月齢ころまでには咀嚼できるようになり、生後6ヶ月齢では親と同じものを食べました。乳をくわえるのは生後1歳まで続いていました。
長寿記録としては、ドイツのエアフルト動物園で2004年3月22日に死亡した個体の33歳6ヶ月という記録があります。
生息数減少の理由
生息域に人間が増加して、樹木を伐採して建築材や燃料として使用し、さらに農地の開拓をしたことにより、大幅に生息域の減少が進みました。また、きれいな尾は装飾として価値があり、殺されて商品として売られました。この他、肉を得るためにも殺されて生息数が減少しています。野生の外敵としては、カンムリワシ、チンパンジー、ヒョウなどに狙われます。
データ
分類 | 霊長目 オナガザル科 |
分布 | アフリカ中央部の西はナイジェリアから東はエチオピア、南はタンザニアまで |
体長 | オス55〜70cm メス52〜67cm |
尾長 | オス67〜89cm メス71〜83cm |
体重 | オス 9〜14kg メス 8〜9kg |
絶滅危機の程度 | 国際自然保護連合(IUCN)発行の2010年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。 |
主な参考文献
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988 |
Estes, R.D. | The Behavior Guide to African Mammals, University of California Press 1991 |
Gron,K.J. (Reviewed by Fashing,P. and Harris,T.) |
Primate Factsheets: Guereza, Colobus guereza , Taxonomy, Morphology, Ecology, Behavior and Conservation, National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2009 |
林 壽朗 | 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968 |
ジョン・R・ネイピア プルー・H・ネイピア 伊沢紘生 訳 |
世界の霊長類 どうぶつ社1987 |
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 | 世界のサル 毎日新聞社 1968 |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
杉山幸丸 編 | サルの百科 データハウス1996 |