インドリ科
インドリ科はアバヒ属、シファカ属、インドリ属の3つに分類され、マダガスカルの東部、南部から西部にかけて生息しています。跳躍力に優れ木から木へおよそ10mを飛び移ることができます。地上を歩くときは4本足歩行ができないので、両手を上にあげて横に飛び跳ねて移動するのですが、そのさまはダンスでも踊っているかのように、軽やかにステップを踏んでユーモラスです。採食のときもほとんど手を使わないで直接歯で葉などの食物をむしりとって食べます。
シファカ属
南部と西部に生息するヴェローシファカと東部に生息するカンムリシファカの2種類がいますが、最近まで亜種として分類していたものを種に入れて9種類に分類している学者もいます。体重は3.0〜8.5kgと種類によって大きく異なりますが、今回は、体が小さく、体毛が厚くて長いヴェローシファカを紹介しましょう。
ヴェローシファカ

背中に赤ちゃんをおんぶして軽やかに2本足で跳ぶように移動しています。大高 成元氏撮影
南部から西部の海岸に沿って常緑多雨林の上層部で生活しています。キツネザルの仲間と同様に昼行性で、早朝に体を温めてから活動を開始し、日中の暑いときは樹上で休み、日没前に活動を再開します。1日におよそ1kmを移動していますが雨期は乾期に比べ移動距離が短くなります。群れは数頭の成獣の雌雄とその子どもたち3〜12頭で構成されていますが、同性間でも優劣があり、雌雄間ではメスのほうがオスより優位です。また群れ同士でなわばりがあり、隣接した群れではしばしばトラブルを起こします。非交尾期はお互いにジャンプをし合って牽制しあう程度で優劣が決まりますが、交尾期には気が荒くなり相手に傷を負わせることもあります。
からだの特徴
ヴェローシファカは4亜種に分かれ、毛の色が純白から黒まで変化に富んでいます。大きさは、頭胴長が40〜50cm、体重は3.0〜3.5kg、尾が約45〜50cmです。嗅覚が発達しており、尿や、メスは肛門腺や性器、オスは喉にある臭腺の分泌液を木にこすり付けてなわばりを主張し、雌雄共にこれらの匂いを嗅ぎ取って情報を収集しています。歯式は門歯2/2、犬歯1/0,小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて30本です(下顎の第2門歯を犬歯とする説もあります。この場合の歯式は門歯2/1,犬歯1/1,小臼歯2/2,大臼歯3/3となります)。櫛(くし)歯は6本ではなく4本となっています。乳頭は胸部に1対あります。遠くから響く大きな声は「シファカ」という風に聞こえ、お互いのコミュニケーション手段として使っています。
えさ
野生でのえさは、雨期は葉のほかに花や果実が増え、乾期には葉や樹皮が主食となります。
繁殖
交尾期は1月下旬から3月上旬まで続きますが、年に1回の発情はおよそ2日間と短く、発情するとすぐに交尾が見られます。妊娠期間は154〜160日、162〜170日、130〜141日と諸説あります。6月〜9月にかけて1産1子を通常は隔年で出産します。赤ちゃん(新生児)はほぼ無毛で、体重はおよそ40g、出産後は母親の腹部につかまって移動し、1〜3月齢で徐々に背に乗って移動するようになります。生後5〜6カ月齢で離乳し、21ヶ月齢で親と同じ大きさになります。性成熟は3〜5歳、メスはふつう6歳で初産となります。長寿記録としては、デューク大学レムールセンターで30年6ヶ月飼育された記録があります。
天敵
人間による生息域の破壊やワナ、狩猟が最大の天敵です。母親は常に子どもを肉食獣に狙われないように注意していますが子どもの死亡率は高く、乾期の間にジャコウネコ科のフォッサによっておよそ30%が殺され、さらに猛禽類のワシ、タカ、フクロウにも同程度殺されます。
データ
分類 | 霊長目 インドリ科 |
分布 | マダガスカル南部から西部 |
体長 | 40〜50cm |
尾長 | 50〜60cm |
体重 | 3.0〜3.5kg |
絶滅の危機の程度 | 国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。 |
主な参考文献
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988 |
今泉吉典 監修 D.W.マクドナルド編 |
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986 |
京都大学霊長類研究所編著 | 新しい霊長類学2009 |
杉山 幸丸編 | サルの百科 データハウス 1996 |
淡輪 俊監修・宗近功編著 | レムール マダガスカルの不思議なサルたち 東京農業大学出版会 2009 |
NickGarbutt | MAMMALS OF MADAGASCAR A&C BLACK LONDON 2007 |
Nowak,R.M. | Walker’s Mammals of the world Six Edition The Johns Hopkins University Press 1999 |