No.002 ゴリラの頭とゾウの頭

動物エピソードペットコラム

こんな顔でジロリとされた。写真は友人の写真家・大高成元氏

夜中に初めて目の前でゴリラと顔をつき合わせたときはびびったぜ。
それは今から〜十年まえのことだ。上野動物園に飼育係として採用された直後、なんと夜警の一人が病気で入院して、まだ担当動物も決まっていない私は夜警に任命された。
夜警はいわば夜の飼育係(現在はいない)で、夜10時、朝2時と5時の3回、一人で園内を巡回し、動物に異常がないか、鍵をかけ忘れていないか見て回るのが仕事だ。

初めて夜警を担当した日、先輩と一緒にゴリラ、チンパンジー、オランウータンのいる類人園舎に入ったときのこ とだ。チンパンジーがケージの扉をゆすり、壁を強烈にバンバン叩くすごい音に肝をつぶした。そのとき先輩が、川口さん後ろを見てごらん、と言うので振り向 くと、すぐ後ろののぞき窓から私をじっと見つめる雄ゴリラの巨大な顔があった。ここでアカンベーでもされれば私も慌てなかっただろうが、声も出さずジロリ と一瞥された。私の倍もありそうな顔は貫禄十分で、恐ろしく一生忘れられない思い出だ。

雄のゴリラは雌に比べ頭のてっぺんが大きく盛り上がり、顔は全体に丸くここに強力な筋肉がある。どんな人間もかなわないほど強い咬筋、背筋、腕力を生み出している。

アフリカゾウの大きな頭額の横幅が70〜80cmもある

話は変わるが、一世紀前は野生ゾウがたくさん棲んでいて、ゾウ狩りが行われていた。ハンター目がけて突進する ゾウの巨大な頭部を撃って仕留めるのだが、頭部に命中してもゾウは倒れず、そのまま突進され反対にハンターがお陀仏になった例が報告されている。頭部に当 たっても肝心の脳に命中しなければゾウは倒せない。

実際、私の担当していたゾウの脳重量は約5kgであったが、5kgの肉の塊など大した大きさではない。頭の中央部にある30cmに満たない脳に命中させないと、ゾウを倒すことはできないのだ。

ゾウの頭部が大きい理由の一つは、長い鼻をつけるためのスペースを頭部に確保する必要からだ。鼻の根元で周囲約1m、長さは約2mある。こんな長くて太い 鼻を自由自在に振り回すには、しっかりした筋肉が必要であり、その基礎となる頭が大きくなったというのだ。しかし脳がぎっしり詰まっているのではなく、頭 骨の上の部位は中が空洞だらけの蜂の巣のような構造で巨大な頭部を軽減するのに役立っている。
このように見ていくと、ゴリラにしても、ゾウにせよデコボコしているところは、それなりの役割を果たしている。ところで、ゴリラ、オランウータン、チンパンジーの頭蓋内容量は、400〜600ccであるが、ゴリラでは 725ccあった記録もある。現代人では1200〜1500ccあるので、体重比から見れば、人間は圧倒的に大きいけど、脳重量が重いからといって頭が良 いとか悪いとか言わないでほしい。
人間が余計なおせっかいをしなければ動物たちは今よりずーっと栄えていたのだから。

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