No.077 スラウェシメガネザル(別名セレベスメガネザル、オバケメガネザル) – おもしろ哺乳動物大百科 27 霊長目 メガネザル科

おもしろ哺乳動物大百科霊長目ペットコラムメガネザル科

メガネザル属

サルの仲間で一番目の割合が大きく、片方の目だけでも脳より大きな目の持ち主です。通常、目が大きな動物は夜行性で、夜間に目が見えるように、目の奥に光を増幅するタペタムを持っています。ところが、メガネザルの場合には真猿類のようにタペタムがないことなどから、真遠類にするか原猿に入れるか議論の的になっています。しかし、タペタムはなくとも夜行性動物の中でもひと際大きな目と、するどい聴覚を使い夜間の生活を可能にしています。
メガネザル科は、今泉吉典博士は(参考文献1)、1属3種:(1)ニシメガネザル(ボルネオメガネザル) (2)フィリピンメガネザル、そして今回紹介する(3)スラウェシメガネザル(セレベスメガネザル、オバケメガネザル)に分類していますが、最近は更に細かく種を分ける傾向が見られます。

スラウェシメガネザル(別名セレベスメガネザル、オバケメガネザル)

スラウェシメガネザルは、生息域のスラウェシ(セレベス)島及びその周辺に生息しますが、地域によって特徴があるので、(1)中部に住むダイアナメガネザル(2)中央部高地に住むピグミーメガネザル(3)東部にすむヒガシメガネザル(スラウェシメガネザル)の3種に分類する学者もいます。このうち、ピグミーメガネザルは絶滅したと考えられていましたが、2008年11月に北米のテキサスA&M大学の研究チームが、標高2100mの高地の森林で生存個体を捕獲しました。これはじつに87年ぶりの発見で、捕らえた個体の体重は約60gで発信機を装着して放したそうです。
本種は、主に多雨林や二次林、低木林、マングローブ、そして農園などの、地上から1〜2mの低い樹上が生活場所となっています。食性がフクロウの仲間と似かよっていますが、フクロウより低い場所にすむことで、共存しています。通常は、母系の家族やペアで生活し、巣は作りませんが日中は樹の茂みや、樹洞などの決まった場所1箇所、稀に数箇所で休んでいます。日没から夜間、早朝にかけて採食行動や一般的な親子のグルーミング、休息、繁殖行動などを行います。なわばりは尿や上腹部腺の分泌物を木にこすり付けて主張しています。後肢の踵の部分が長く跳躍力に優れ、カエルのように跳びはねることができます。英語名のTarsierは長く伸びた中足骨に由来します。

からだの特徴

どうです、この大きな目、でもネコの目のように赤く光っていないでしょう。写真家 大高 成元氏撮影

日本名のメガネザルは、メガネをかけたように見えるサルというのが由来になっています。体色は灰色から淡黄色など個体差があります。頭胴長は10〜15cmでシマリスと同じくらいの大きさです。顔は前方を向いた大きな目と小さな顎、首が短く180度後ろに左右回すことできるので、360度を居ながらにして見ることができます。耳はうすく膜質で動かすことができ、鼻は乾いています。前後肢共に5本の細長い指をもっており、指の先は吸盤のように膨らんでいて物を掴みやすくなっています。後肢の第2指と第3指は鉤爪でグルーミングなどに使いますが、そのほかの前後肢の指は平爪です。親指は完全な対向性ではありませんが、広げることができて物を握ることができます。尾は長く先端の半分から3分の2くらいの部分に毛が生えており、皮膚はネズミの尾のようにうろこ状になっています。また尾は巻きつけられませんが、尾を縦にしてずり落ちるのを防ぎます。歯式は門歯2/1、犬歯1/1,小臼歯3/3、大臼歯3/3で左右上下合わせて34本です。下顎の門歯はまっすぐ上を向いて生えています。乳頭は胸部と鼠径部に各1対で計4個あります。

えさ

野生でのえさは、甲虫、アリ、サソリなどの節足動物、トカゲ、コウモリと昆虫など肉食が主食で、植物質のものは採食しません。水は木の葉などに溜まった露をなめて飲みます。

繁殖

出産は1年中見られ、妊娠期間は約6ヶ月といわれていますが、上野動物園での出産例によると約4カ月で出産した例も報告されています。フィリピンメガネザルの場合、発情周期は25〜28日、妊娠期間は約6ヶ月、ニシメガネザルでは、発情周期が18〜27日でこの間の数日の間に交尾します。
1産1子で、全身は毛で被われており、目は開いています。赤ちゃんの体重は、20〜30gで生まれた日からヨチヨチと歩き、軽くジャンプします。赤ちゃんは母親の腹部にしがみついたり、口でくわえられて運ばれます。6週間くらいで獲物を捕まえはじめ、その後授乳が減少して生後2カ月半ぐらいで離乳します。15〜18ヶ月で成獣の体重と同じになります。長寿記録は2004年9月現在、8年3カ月飼育されてなお生存中の記録があります。また近縁種のニシメガネザルで16年4カ月、フィリピンメガネザルで14年2カ月の飼育記録があります。

天敵

野生の天敵としては、樹上性のヘビ、トカゲ、フクロウ、野生のネコがいますが、大きな脅威となるのは森林の開発による生息域の大幅な減少が挙げられます。

データ

スラウェシメガネザル(セレベスメガネザル、オバケメガネザル)
分類 霊長目 メガネザル科
分布 インドネシアのスラウェシ(セレベス)島、サンギヘ諸島、ペレン島
体長 8.5〜16.0cm
尾長 13.5〜27.5cm
体重 80〜165g
絶滅の危機の程度 絶滅危機の程度:国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、スラウェシ島とその周辺に分布する種を6種に分け次のようなカテゴリーに指定しています。
サンギヘメガネザル、ペレンメガネザル:絶滅危惧種(EN)
ヒガシ(スラウェシ)メガネザル、ダイアナメガネザル:危急種(VU)
ラリアンメガネザル、ピグミーメガネザル: 情報不足種
なお、近縁種のニシメガネザルは危急種に、フィリピンメガネザルは近危急種に指定されています。
いずれの種も森林伐採と乱獲で生息数が減少しています。

主な参考文献

今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
今泉吉典 監修
D.W.マクドナルド編
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社1986
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 世界のサル 毎日新聞社1968
林壽郎 著 動物Ⅰ 標準原色図鑑全集 別巻 保育社1968
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the world Six Edition
The Johns Hopkins University Press 1999
杉山 幸丸編 サルの百科 データハウス 1996
Gron, K.J. Primate Factsheets: Tarsier(Tarius) Taxonomy,
Morphology, Ecology, Behavior & Conservation,
National Primate Research Center (University of Wisconsin) 2008
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