パンダ科
本シリーズの分類は今泉吉典博士の分類に従っているので、レッサーパンダとジャイアントパンダはパンダ科の中に含めて、レッサーパンダ属とジャイアントパンダ属の2属について概説します。しかし、レッサーパンダとジャイアントパンダの分類は、他にもレッサーパンダをアライグマ科、クマ科、レッサーパンダ科に、ジャイアントパンダをクマ科あるいはジャイアントパンダ科とする説など諸説あります。(社)日本動物園水族館協会では、レッサーパンダはアライグマ科にジャイアントパンダはクマ科に分類しています。
レッサーパンダは中国南西部からヒマラヤの高山に生息し、体重が5kg前後でキツネより小さめです。一方、ジャイアントパンダは中国南西部の高山に生息し、体重も100~120kgと大型です。ともに、4肢には5本の指があり蹠行性です。主食は竹ですが、他にも少量の小型の哺乳類や卵も食べます。ジャイアントパンダは「第6の指」と言われる手首の種子骨の突起が、前足の指に対向し竹をつかむときに人間の親指と同じ働きをしています。レッサーパンダにも同じような突起があります。盲腸はありません。歯式は、門歯3/3、犬歯1/1、前臼歯3~4/4、臼歯2/2、で左右上下合わせて総数は38~42本です。
レッサーパンダ属
1属1種ですが、ネパールレッサーパンダとシセンレッサーパンダの2亜種に分類しています。シセンレッサーパンダの方が大型で体色が濃いのが特徴です。ネパール、アッサムのヒマラヤ山系からミャンマー北部、中国の雲南省、四川省の標高1,800~4,000mの森林や竹林に生息しています。
レッサーパンダ
中国の雲南省、四川省からアッサム、ネパール、ミャンマー北部に分布し、標高1,800~4,000mの竹林や森林に生息していますが、ミャンマー北部では夏季におよそ5,000mまで登り、一方インドのメーガーラヤの熱帯林では700~1,400mの低地にも見られるなど生息地によって異なります。
活動時間は日中や夜間も活動しますが、ほとんどは朝夕が多く日中は樹上で休憩しています。嗅覚、視覚、聴覚を使ってコミュニケーションを行うほか、排泄物や足跡から匂いを嗅いで情報を得ます。匂いつけや鳴き声は交尾期になると平常時より頻繁になります。成獣はふつう繁殖期以外単独で生活していますが、他にも血縁関係のある3~5頭のグループでいるとの報告もあります。出産した子どもは1年間、あるいは母親に次の子どもができるまで一緒にいます。行動圏は野生の場合、1~4km²、1日の移動距離235~481mの報告があります。
からだの特徴

背中が赤茶色で腹部が黒ですが、顔にばかり気を取られていると体色はわからないものでしょう。写真家 大高成元氏 撮影
頭部は丸く、鼻口部が短く、耳は大きめの三角形で先端がとがっています。体毛は柔らかくて長く、全身が赤茶色で背は濃い栗色、中国に生息する亜種は体色が濃いのが特徴です。尾には淡褐色のリングがあり、黒の部位は耳の裏、4肢、腹部で、白い部位は鼻口部、唇、頬、耳の先端部です。ジャイアントパンダに比べると小さいですが、手首の種子骨が突起状になり、竹やその他のものをつかむときに親指のような役割を果たしています。肛門腺が発達しており、なわばり内の岩や木の幹にこすり付けて匂いつけをします。4肢は短く各肢に5本の指があり、足の裏にも毛が生えています。爪は湾曲し内側に少し引っ込めることができ、木登りをするときに役立ちます。長い尾は樹上を移動する時にはバランスをとる働きをし、寝るときは体に巻いて暖を取るのに役立ちます。地上では尾を真っ直ぐ立てるか水平にして歩きます。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯3/4、臼歯2/2で左右上下合わせて38本です。乳頭数は4対です。
えさ
主食は竹の葉で一年を通して80~90%を占めています。筍は春、果物は夏遅くから秋にかけて重要な餌となり、他にも小型の哺乳類、鳥、卵、果実,昆虫を食べます。インドのダージリンにあるヒマラヤ動物園では、野生のレッサーパンダの糞を調査したところ糞中に昆虫の痕跡はなく昆虫は食べない、と報告しています。木登りは上手で高い木の上にも容易に登りますが、採食は地上で行います。横浜市野毛山動物園でかつて飼育していたレッサーパンダは、左利きと右利きがあり、竹をつかむとき決まった方の前肢で持つ個体がいたと報告しています。
繁殖
交尾期は1月から3月中旬で、この間に26~44日の周期で発情を繰り返し、発情中の12~36時間中に2~3回交尾します。飼育下の17例の妊娠期間は112~158日、平均134日でした。出産は主に6~7月で、野生の場合は、樹の洞や岩の割れ目などの巣穴に、出産の数日前から枝や草などの巣材を入れます。産子数は通常2頭ですが、1~4頭の幅があり、5頭の記録もあります。生まれた時の子どもの体重は110~130gです。後頭部は淡黄色、腹部は薄茶色、口さきは淡桃色、耳は茶褐色の柔らかな毛でおおわれています。生まれて数日から1週間、母親は頻繁に子どもの体をなめ、生後1週齢頃から徐々に自分の餌を採りに巣穴から出る時間が長くなり、時々授乳や世話をするために帰ってきます。生後約18日齢で目が開き、東京都多摩動物公園での出産例では生後2ヶ月齢で体重が約1kgの報告があります。体色は生後約70日齢で成獣と同様になります。釧路市動物園の繁殖例によれば、初めて固形物を食べるのは生後3ヶ月齢頃で、最初食べたのは竹でしたが、その後の好物はブドウでした。離乳までの育児はすべて巣穴で行われます。生後約90日齢で巣穴から出て、生後約12ヶ月齢で成獣と同じくらいに成長します。オス、メスともに生後18~20ヶ月齢で性成熟します。
長寿記録としては、京都市動物園で2004年9月現在、19歳3ヶ月でなお飼育中いう記録があります。
外敵
人間以外の外敵としては、ユキヒョウやウンピョウ、キエリテン、また子どもはワシやフクロウなどの猛禽類に狙われることもあります。
生息数減少の原因
原因としては、生息地の消失と分断化、密猟、商取引の横行、森林火災、道路の開発などが挙げられます。中国ではこの50年間で40%が減少したと推測されています。中国、インド、ブータン、ネパールなどの生息地域の国々では、それぞれ野生動物保護法、森林法などで捕獲や狩猟を禁止して保護しています。
データ
分類 | 食肉目 パンダ科 |
分布 | ブータン、ネパール、インド北部、中国南西部、ミャンマー北部 |
体長(頭胴長) | 50~60cm |
体重 | オス3.7~6.2kg (平均5.0kg) メス 4.2~6.0kg (平均4.9kg) |
尾長 | 30~50cm |
肩高(体高) | 28~29cm |
絶滅危機の程度 | 国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版レッドリストでは、絶滅の恐れが高い危急種(VU)に指定されています。 野生での調査が十分におこなわれていないために、正確な生息数は不明ですが、現在分布域の面積はおよそ69,900km²で、16,000~20,000頭が生息していると推定されています。 |
主な参考文献
林 壽朗 監修 | 標準原色図鑑全集 動物Ⅱ 保育社1981. |
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988. |
小林強志 | 野毛山Zooっといい話 かなしん出版1999. |
板山聖子、志村良治 | レッサーパンダの誕生 どうぶつと動物園 30巻 10号 (財)東京動物園協会 1978. |
中里竜二 | 3.パンダ科の分類 In.世界の動物 分類と飼育2 食肉目:今泉吉典 監修、 (財)東京動物園協会 1991. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Roberts, M. S. and Gitttleman, J.L. | Mammalian Species. No.222, Ailurus fulgens . The American Society of Mammalogists 1984. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A.(ed) | Handbook of The Mammals of the world, 1. Carnivores, Lynx Edicions 2009. |
MacClintock, D. | Red Panda ― A Natural History―, Macmillan Publishing Company. 1988 |