リカオン属
本属は1属1種 リカオンのみです。ドールはアジアで多くの草食獣たちから強力なハンターとして恐れられていますが、アフリカでは同じイヌ科のリカオンが同じ立場にあります。幅広い頭骨には強い歯が収められ、鋭い犬歯と裂肉歯が発達しているため吻が短くなっています。動物たちが群れをつくる場合、ふつう母系集団として群れに残るのは母と子どもですが、リカオンの場合はメスが群れを出ます。狩りは父系家族を中心とした血縁関係のある群れでパックと呼ばれる集団で行います。パックは共同して狩りを行うため捕える成功率もほかの動物より高く43%や70%に達する地域もあります。また、雌雄の大きさがあまり変わらないのも特徴の一つです。
それではアフリカの強力なイヌの集団、リカオンについて紹介していきましょう。
リカオン
リカオンはアフリカのサハラ砂漠から南側、通常草原やサバンナの疎林で生活していますが、半砂漠やキリマンジャロ(5,894m)の頂上付近で5頭のパックを見た、などの報告もあります。平均10頭程度の群れですが、20頭、40頭、60頭などさらに大集団のパックも報告されています。 群れのメンバーは血縁関係のあるオスの数がメスの2倍以上になります。メスは外部から群れに入りますが複数の成獣メスがいる場合、両者に優劣の順位があり、通常の繁殖は優位ペアに限られます。もし、他のメスも出産した場合は、劣位メスの育児を妨害し、時には殺すことさえあります。パックのメンバーは雌雄が協力して育児をしますが、狩りから戻って肉を吐き戻して与えるのは、ふつう優位のメスの子どもに限られます。構成メンバーはタンザニアのセレンゲテイ国立公園における調査によれば、平均10頭(1~26頭)で、成獣の内訳はオスで平均4頭(0~10頭)、メスは平均2頭(0~7頭)でした。行動圏は南アフリカでは約3,900km²、セレンゲテイでは1,500~2,000km²の調査例があり、獲物が豊富な時は狭くなります。また、繁殖期には50~200km²と縮小しています。
行動圏内の10~50%は隣同士で重複し、明確ななわばりはないようです。狩りのピークは早朝の7時から8時と夕方6時から7時です。獲物は視覚でその場所をつきとめてから、静かに接近して追いかけて捕えますが、10~60分間の追跡の間、最高時速66kmで走り、5.6kmならば時速約50kmを持続できます。狩りの成功率はセレンゲテイ国立公園で43%と70%の調査例があり、捕えてから5分以内に殺します。巣はツチブタやイボイノシシなどの古い巣を利用し、繁殖のときだけ使い、その他のときは行動圏内を移動しながら狩りを続けます。子どもたちはパックの成獣のメンバーから、行動圏、水場、獲物が多いところやシマウマの捕え方などを学びます。そのため他のパックが獲物にしていても、その群れが経験がないと獲物から外れる動物もいます。コミュニケーションは、体を使った威嚇や攻撃、降参のロコモーションや、音声では「ミュー・クー」という鳴き声は数km先まで届きます。その他、マーキングは発情期のオスが交尾したときに排尿するほか、繁殖したメスが巣穴な周辺に頻繁に排泄して行います。
からだの特徴

ハワイのホノルル動物園では群れで飼育しており、体の模様が美しく感動しました。それでも多くの草食獣にとっては怖い猛獣です。写真家 大高成元氏 撮影
体色は背から腹部にかけて黒と黄褐色が不規則に混ざっています。顔は口吻から額は黒で、尾の基部は黄土色から黒くなり先端は白です。高地に生息するリカオンは被毛が密と考えられますが、サバンナに生息するものは、被毛が短くうすいので暑い気候に適応しています。4肢は細くて長く、前後肢の指は4本で、オオカミ爪(狼爪)はありません。耳は長く大きくて、丸みを帯び、短い毛が生えています。乳頭数は6~7対で個体差があります。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、前臼歯4/4、臼歯2/3で左右上下合わせて42本で、下顎の第3臼歯は小さいですが、犬歯と第4前臼歯は細く鋭くなっており、肉食に適応しています。体長76~112cm、体重17~36kgで、オスはメスよりやや重い程度で、あまり体格差はありません。
えさ
獲物は地域によって異なります。パックの場合は、ザンビアのカフューバレーではブッシュダイカーとリードバック、南アフリカのクルーガー国立公園ではインパラ、セレンゲテイ国立公園ではトムソンガゼルとヌ―、まれにシマウマなどが主な獲物となります。しかし単独個体の場合は、ノウサギ、トビウサギ、ネズミのなかまなど小型の哺乳類を捕ります。少量の草は食べますが、草木や昆虫は食べず、腐肉もまれに食べる程度です。
繁殖
繁殖は9月以外1年中見られますが、ピークは3~6月の雨期で全体の約60%がこの時期にみられます。クルーガー国立公園の場合は5~6月が繁殖期といわれています。出産間隔は11~14ヶ月ですが、子どもが全て死亡した場合には出産間隔が短縮して約6ヶ月後に出産します。妊娠期間は60~80日間です。1産平均10頭(6~16頭)ですが、飼育下では4~8頭です。赤ちゃんの体重は300~350gで、目は閉じており、生後約13日齢で開きます。生後3週齢ころ巣穴から出て固形物も食べ始めます。ふつう母親は立ったまま授乳し、離乳は生後11週齢ころです。体色は生後7週齢頃から成獣の模様に変わり始めます。生後3ヶ月齢頃からパックの仲間と一緒に行動しはじめ、生後9~11ヶ月齢では獲物を殺せるようになります。オスの初めての交尾は生後21~60ヶ月齢、メスの初産は生後22ヶ月齢でした。性成熟は生後12~18ヶ月齢です。その後、メスは生後18~24ヶ月齢で群れを離脱し、血縁のない未成熟のメスのパックに合流します。通常メスは2.5歳までパックに残る者はいないのに対し、オスは約10年間そのまま残り、新しくパックを作るときは兄弟で離脱し作ります。
長寿記録としては、カザフスタンのアルマ・アタ動物園で1986年1月20日に死亡した個体の15歳1ヶ月という記録があります。
外敵
最も多いのはライオンに襲われる例で死因の10%を占め、ハイエナによるものは2%という報告があります。ヒョウや猛禽類に時々子どもが襲われます。
データ
分類 | 食肉目 イヌ科 |
分布 | アフリカ サハラ砂漠以南~南アフリカまで。 かつてはサハラ砂漠以南全域に広く分布していましたが、現在は下記の国々に分散して生息するだけです。 ボツアナ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、エチオピア、ケニア、モザンビーク、ナミビア、セネガル、ソマリア、南アフリカ、スーダン、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ |
体長(頭胴長) | 76~112cm |
体重 | 17~36kg |
尾長 | 30~41cm |
肩高 | 61~78cm |
絶滅危機の程度 | 国際自然保護連合(IUCN)発行の2011年版のレッドリストでは、絶滅危惧種(EN)に指定し、近い将来、野生では絶滅の危険性が非常に高いとしています。 その背景には、過度の開発により生息域が縮小し分断されため、国立公園以外は生息が困難になっていることがあります。そのほか家畜を襲う害獣としてハンティングされるほか、飼育しているイヌの病気が感染して死亡するケースも報告されています。ジステンパーは1906年に東アフリカに持ち込まれ、リカオンが罹患した報告があります。 現在はセレンゲティ国立公園とクルーガー国立公園で動植物が保護されており、この地域のリカオンや他の動植物たちは恩恵を受けています。 |
主な参考文献
Beacham, W. and Beetz, K.H.(ed) | Beacham’s Guide to International Endangered Species Vol.2 Beacham Publishing Corp., Florida. 1998 |
Estes, R.D. | The Behavior Guide to African Mammals. The University of California Press. 1991 |
H・バン・ラービック J・グドール 藤原英治=訳 |
罪なき殺し屋たち 平凡社 1972 |
今泉吉典 監修 | 世界の動物 分類と飼育2 食肉目 (財)東京動物園協会 1991 |
今泉吉典 監修 D.W.マクドナルド編 |
動物大百科 1 食肉類 平凡社 1986 |
今泉忠明 | 野生イヌの百科 データハウス 1993 |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999 |
Parker, S.P. (ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 4, McGrow-Hill Publishing Company 1990 |
Sillero-Zubiri, C., Hoffmann, M. and Macdonald, D.W. (ed). | Cnids : Foxes, Wolves, Jackals and Dogs. – Status Survey and Conservation Action Plan. IUCN. 2004. |