食肉目 イヌ科
フェネックギツネ
北アフリカのモロッコ、アルジェリア、チュニジア、ニジェール、リビア、エジプト、スーダン、およびシナイ半島北部の砂漠地帯と半砂漠に生息します。砂漠の夜間はマイナス20℃以下になり、日中は50℃以上になることから、岩場近くの砂の下に深さ1m、奥行き10m程度の穴を掘り、その中で暮らすことで暑さと寒さを凌いでいます。夜行性ですが、午前中日光浴をして休むことがあります。基本的な社会単位はペアとその家族で多くとも10頭くらいで構成されています。イヌと似たような体を使った行動と鳴き声で、挨拶や威嚇、警戒音、親子間のコミュニケーションをとっています。動作は敏捷で垂直に60~70cm飛び上がり、また水平に120cm跳んで移動できます。
からだの特徴

大きな耳で獲物の出すわずかな声も聞き取っているんですね。写真家 大高成元氏 撮影
イヌ科の中でもっとも小型の種類で、肩高は15~18cm、頭胴長は36~41cm、尾長18~31cm、体重1~1.5kgです。体の割に耳は大きく9~15cmあり、地中に潜む獲物の音を聞き取ると共に、暑いときは血管が拡充し血液温度を下げる役割を果たします。被毛は長くて羊毛のように柔らかく、背中は赤みがかったクリーム色、淡黄褐色からほぼ白色に近い個体もおり、腹側は白っぽい色をしています。目の内側から口唇にかけて濃い赤褐色の筋が通っています。目も大きく瞳は黒です。尾は赤褐色で長さ3~4cmの毛が密に生え、先端は黒です。平熱の体温はイヌより低く37.5℃、脈拍は1分間に100~115回で小型犬程度です。25℃から35℃の外温に適応しており、これより温度が上昇するとイヌのように口を開けてハアハアと浅速呼吸をし、反対に寒くなると、尾を体に巻きつけて暖を取ります。足の裏は幅が広く砂地を歩くのに適しています。パッド(肉球)は毛で被われていて、寒暖の激しい環境に適応した作りとなっています。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、小臼歯4/4、大臼歯2/3で左右上下合わせて42本で、犬歯は細くて小さく鋭くなっています。
えさ
主食はバッタ、セミなどの昆虫、クモ、鳥、卵などに加えウサギ、ネズミ、トカゲ、ヘビ、サソリ、植物の根などを食べます。水分の多い小動物や植物の根を食べているので、水を飲まなくても長期間過ごせると考えられています。ノウサギやアレチネズミなどの小動物の狩りは1頭で行いますが、獲物の首を噛んで仕留めます。余った獲物は砂の中に隠し、鼻で砂をかけておきます。
繁殖
繁殖は年に1回で、交尾期は生息域によってちがいます。通常は1~2月で、出産は3~4月ですが、失敗すると、2ヶ月半から3ヶ月後にもう一度生むことがあります。ペアは頻繁に鳴き合い交流を深め、なわばり内で排尿が頻繁となり攻撃的になります。妊娠期間は50~52日、通常は1産2~5頭です。メスは赤ちゃんが生まれると、子どもを守るために攻撃的になります。オスもまた、赤ちゃんが4週齢まで食べ物を運び、巣穴周辺を守っていますが、母子の巣穴の中までは入りません。
生まれたばかりの赤ちゃんの大きさは、頭胴長11~12cm、尾長4~5cm、耳長約1cm、体重40~45gです。全身が毛におおわれ、目は閉じていて、生後8~11日で開きます。生後51日齢の体重はオスの2例では200g、430g、メスの3例では330g、330g、405gでした。固形物の肉は生後3週間齢で食べ始めますが、授乳は生後61~70日齢まで続きます。ハンティングの真似事は生後7週齢頃からみられますが、性成熟は生後9~11ヶ月齢です。飼育下では、授乳は生後19日齢まで巣箱で行い、生後20日齢以後は外に出て日光浴をするようになりました。メスは子どもの頚部をくわえて移動します。
長寿記録としては、アメリカのミルウォーキー動物園で1988年2月16日に死亡した個体の16歳3ヶ月という記録があります。
外敵としては、家畜のイヌ、ジャッカル、ハイエナに殺されますが、一番の外敵は人間で、ペットや食べるために捕えられます。
データ
分類 | 食肉目 イヌ科 |
分布 | 北アフリカおよびシナイ半島北部の砂漠地帯・半砂漠。 |
体長(頭胴長) | オス・メス 36~41cm |
体重 | オス・メス 1.0~1.5kg |
尾長 | オス・メス 18~31cm |
耳長 | オス・メス 9~15cm |
肩高 | オス・メス 15~18cm |
絶滅危機の程度 | 正確な生息数は不明ですが、目撃情報や捕獲数が多く個体数も多いと推測されることから、国際自然保護連合発行の2010年版のレッドリストでは低懸念(LC)種にランクされています。 |
主な参考文献
今泉吉典 監修 | 世界の動物 分類と飼育2食肉目 東京動物園協会 1991 |
今泉吉典 監修 D.W.マクドナルド 編 |
動物大百科 1 食肉類 平凡社 1986 |
今泉忠明 | 野生イヌの百科 データハウス 1993 |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Parker, S.P. (ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
Lariviere, S. | Mammalian Species . No.714, Vulpes zerda. The American Society of Mammalogists 2002. |