食肉目 イヌ科
キツネ属
本属はユーラシア、南北アメリカ、北極のツンドラまで食肉目の中で最も分布域が広く、分布域によりそれぞれ特徴があります。チベットの高山(海抜4500~4800m)にすむのはチベットスナギツネです。また、最小の種類はフェネックギツネで、北アフリカのサハラ砂漠からシナイ半島、そして、アラビア半島の砂漠にすみ、大きな耳が特徴な種類です。キツネ属の分類については諸説ありますが、今泉吉典博士は、上記2種の他に、ベンガルギツネ、ブランフォードギツネ、ケープギツネ、ハイイロギツネ、コサックギツネ、シマハイイロギツネ、キットギツネ、オグロスナギツネ、オジロスナギツネ、スウィフトギツネ、アカギツネの11種、合わせて13種に分類しています。
今回は、これらの中からアカギツネとフェネックギツネの2種類を紹介しましょう。
アカギツネ
アカギツネはオオカミと並んで世界中に分布し、ユーラシア(インド中南部とインドシナ半島を除く)、北アフリカ、北米の北部、北極海の沿岸まで北半球に広く生息しています。分布域が広いため、地域差による変異から、50種類近くの亜種に分類する学者もいます。
生息地域は0~4500mの高地、住居近くから農地、平原、半砂漠、深い森林、極地のツンドラまで見られます。夜行性ですが、子育ての時期には昼間も活動し、一晩におよそ8kmを徘徊します。繁殖期以外は、単独でいる成獣のオスとメス、または成獣のオスとメス1~2頭、およびその子どもで3~4頭で構成する小家族のグループがいます。性成熟しても母親のもとに残る子どもはメスが多く、育児ヘルパーとなって、次に母親が出産すると約1ヶ月間、餌を運んできて母親や子どもに与え、あるいは子どもの遊び相手になります。巣穴は基本的に出産と育児に使いますが、育児の合間に引っ越すので3~5個を用意します。多くは斜面に、深さ1~3m、長さが2~10mの迷路のような穴を自分で掘る場合と、マーモット、アナグマ、アナウサギなどが使っていた穴なども利用し、何年にもわたり使うことがあります。動きは軽快で時速48kmの記録が報告され、垂直に約2m飛び上がることや、傾斜した木に登ること、そして上手に泳ぐことが知られています。行動圏となわばりはほぼ一致しており、市街地のなわばりは約0.5km²、砂漠で約50km²と環境による差が見られます。
国内のアカギツネは2亜種いて、北海道に生息するキタキツネは、南千島、国後島、択捉島にも生息しています。電波発信機を付けた個体調査による行動圏は1~8km²でした。1~2月に交尾、4月前後に巣穴で出産します。もう一つの亜種・ホンドキツネは、本州、四国、九州、まれに四国に生息し、キタキツネに比べて一回り小型です。出産期は3~4月で平均4頭を出産します。
からだの特徴

冬、雪が積もり胸の毛が純白に変わり、美しく変身したアカギツネ。写真家 大高成元氏 撮影
アカギツネの典型的な体色は名前の示す通り、背中の色が赤を基調とした赤褐色で、ほかにも灰褐色、黒色、黒と銀色など体色に多くの変異があります。一般に、腹部は白味がかった灰色で、4肢の下部は黒、尾は長い毛で被われていて先端は白です。耳は三角形で大きく先がとがり、背面は黒です。イヌ科の中ではオオカミより一回り小型で、吻が細く尖っている点が特徴です。頭胴長に対して尾が太くて長く、走るときにバランスをとる場合や、眠るときに顔を覆って寒さを防ぐのに役立っています。尾の基部にはスミレ腺と呼ばれる匂いを出す臭腺があり、他にも肛門や指間に分泌腺があります。前肢は5指、後肢は4指ですが、前肢の第1指は地面に着地しません。乳頭数はふつう、胸部1対、腹部2対、鼠径部1対ですが、7~10個まで個体差があります。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、小臼歯4/4、大臼歯2/3で左右上下合わせて42本で、犬歯は細く鋭くなっています。体長45~90cm、体重3~14kg、尾長30~50cm程度で、寒い地方に生息する亜種は、熱帯地方のなかまより一回り大型です。
えさ
主食はネズミのなかまですが、捉えるときは垂直にジャンプし上から押さえ込んで仕留めます。果物が豊富に実るころは重要な食料源となり、冬に備えて脂肪を蓄えるのに役立っています。他にも鳥、昆虫、爬虫類、両生類、昆虫、魚、カニ、死肉、果物など何でも食べる雑食性で、食べ残したものは、落ち葉などをかぶせて保存します。
繁殖
交尾期は地域差があり、ヨーロッパの南部では12月~1月、中部・1月~2月、北部・2月~4月ですが、北米では大きな差はありません。発情は1~6日間続き、妊娠期間は51~53日です。出産は年1回、3~5月に1産平均5頭(1~13頭)の赤ちゃんを産みます。赤ちゃんの体重は約100g(50~150g)で、黒い毛が生えています。目は閉じており、生後9~14日齢で開きます。生後2週齢ころから固形物も食べ始めますが、離乳は生後8~10週齢です。生後3~4ヶ月齢でほとんどの子どもは親の元を離れて分散してゆきますが、一部は親の行動圏の近くにとどまるものもいます。分散する距離は通常メスで約10kmですが、オスでは約40km、時には394kmという記録も報告されています。性成熟は8~10ヶ月齢です。
長寿記録としては、アメリカのアイダホ州にあるボイス動物園で、2004年7月現在飼育中の個体の飼育期間18年11ヶ月、推定年齢21歳3ヶ月という記録があります。
外敵としては、クマ、オオカミ、オオヤマネコ、ワシやワシミミズクなどの猛禽類がいます。しかし、最大の敵は人間で、スポーツハンティングで狩猟の的になり、あるいは毛皮をとるためや家畜を守るためにワナで捕えられています。
データ
分類 | 食肉目 イヌ科 |
分布 | ユーラシア(インド中南部とインドシナ半島を除く)、北アフリカ北部、北米 |
体長(頭胴長) | オス55~90cm メス 45~70cm |
体重 | オス4~14kg メス 3~7kg |
尾長 | オス 36~49cm メス 28~44cm |
ホンドギツネ(日本に分布する2亜種) | |
体長(頭胴長) | オス・メス 52~76cm |
体重 | オス・メス 4~7kg |
尾長 | オス・メス 26~42cm |
キタキツネ(日本に分布する2亜種) | |
体長(頭胴長) | オス・メス 60~80cm |
体重 | オス・メス 4~10kg |
尾長 | オス・メス 37~44cm |
絶滅危機の程度 | イヌ科のなかまで最も分布域が広く、個体数も多いことから国際自然保護連合(IUCN)発行の2010年版のレッドリストでは低懸念(LC)種にランクされています。雑食性で何でも食べ、広い生息域を持ち環境への適応性が高いために、絶滅の危険は少ないと考えられています。 |
主な参考文献
今泉吉典 監修 | 世界の動物 分類と飼育2食肉目 (財)東京動物園協会 1991 |
今泉吉典 監修 D.W.マクドナルド 編 |
動物大百科 1 食肉類 平凡社 1986 |
今泉忠明 | 野生イヌの百科 データハウス 1993 |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
Parker, S.P. (ed) | Grzimek’s Encyclopedia of Mammals, Volume 2, McGrow-Hill Publishing Company 1990. |
浦口宏二 | 病気と生態―キタキツネ In 日本の哺乳類学(監修 大泰司紀之・三浦慎悟監修) 東京大学出版会 2008 |
Lariviere, S. and Pasitschiniak-Arts, M. | Mammalian Species . No. 537 . Vulpes vulpes, 8 The American Society of Mammaloigists, 1996. |
阿部永 監修 | 日本の哺乳類(改訂版) 東海大学出版会 2005. |
Wilson, D. E. and Mittermeier, R. A.(chief editor). | Handbook of the Mammals of the World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions. 2009. |