No.115 タヌキ – おもしろ哺乳動物大百科 64 食肉目 イヌ科

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食肉目 イヌ科

タヌキ属

日本では古くから民話などに登場し、各地でなじみ深い動物の一つですが、タヌキ属は1種、タヌキがいるだけです。イヌ属やキツネ属に比べると、体が丸みを帯び短足ですばやく動く体形ではありません。その上、雑食性でイヌ科特有の裂肉歯や犬歯も発達していないことなどから、原始的なイヌのなかまとされています。
日本に生息するタヌキは、北海道のエゾタヌキ、本州、九州、四国にすむホンドタヌキの2亜種に分類されています。寒い北海道にすむエゾタヌキは、ホンドタヌキより大型で、被毛も長くなっており、寒さに適応しています。ここでは2亜種を含めた種、タヌキについて解説していきましょう。

タヌキ

シベリア東部のアムール、ウスリ地方から中国、朝鮮半島、ベトナム北部および日本にいたる東アジアに分布しています。現在はヨーロッパの北部や西部および中央アジアに毛皮を採るために持ち込まれた個体が野生化し分布域を拡大しつつあります。生息環境は水辺近くの森林や叢林の繁茂した草地です。夜行性で、岩の隙間、自然の穴、木の洞、ほかの動物が使って住まなくなった穴などに日中は潜んでいますが、動物園では日中も活動するのが観察されます。群れの基本単位は雌雄のペアとその子どもたちで、5~6頭の家族グループを作り、年間を通してペアで行動するとの報告もありますが、一夫一妻か一夫多妻かは、はっきりしません。国内の観察によれば、食物が雑食性で競合することが少ないので、なわばりはないとの報告もあります。行動圏はヨーロッパで0.4~20km²、フィンランドで9.5km²、日本では0.028km²(2.8ha)や秋には0.59km²(59ha)の報告もあります。泳ぎも上手で宮城県の金華山まで約700mを泳ぎ渡った記録もあります。
寒い地方に生息するタヌキは冬ごもりをすることが知られています。冬眠ではないので、大幅な体温の低下や脈拍数の減少はありませんが、秋の11~12月になると冬の穴ごもりに備えて、食欲旺盛となり体重は約50%増加します。そして、春3月には貯めこんだ栄養を使い果たし痩せ細った姿となり出てきます。飼育下では通常穴ごもりをさせませんが、冬季は食欲が減退します。また、タヌキの溜めフンと呼ばれている、同じ場所で排泄する習性があります。人間より鋭い嗅覚をもつ彼らは溜めフンの匂いを嗅ぐことによって、近辺にすむ仲間の情報を得ていると考えられます。
他にも、猟師が鉄砲で撃つと当たらなくとも倒れて失神すると言われてきましたが、すべてのタヌキが失神するのではなく、個体差があり逃げてしまう個体もいます。同様なことはニホンアナグマ、キツネ、オッポサムでも見られ、オッポサムの調査によれば、完全に失神してなく覚醒していたそうです。この行動は、敵に襲われた時に、イヌやキツネのようにすばやく逃げる反射行動をもっていないタヌキにとって、身を守るための捨て身の戦法で進化の過程で得た方法かもしれません。

からだの特徴

満月とタヌキ、昔話に出てきそうなカットですね。写真家 大高成元氏 撮影

体色は一般に灰褐色で、肩部から胸部と前肢にかけて帯状に黒っぽくなっています。4肢と口先は短く、目のまわりと共にそれぞれ先端部は黒褐色です。尾の背面は黒く内側は黄褐色で先端は黒です。春から初夏に換毛すると脱毛して全体的にみすぼらしくなりますが、冬毛にかわると長毛で下毛も密に生えてふっくらと丸みを帯びています。
全体的にみると頭部は小さくて4肢は短く、丸く小さい耳と口先も短いためずんぐりとした体形に見えます。体長は50~70cm、肩高27~38cm、尾長12~25cm、体重は春から夏は4~6kgですが、秋には6~10kgになります。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、小臼歯4/4、大臼歯2~3/3で、上顎の大臼歯が多くなる個体がいるので、左右上下合わせて42~44本です。

えさ

雑食性で生息場所や季節によって差はありますが、豊富に手に入る小型の哺乳類、鳥類と卵、爬虫類、両生類、昆虫。植物は根から葉、果実まですべて食べます。たとえば、アカネズミ、ヒミズ、セミ、バッタ、トカゲ、ヘビ、カエル、カワニナ、タニシ、サカナ、サワガニ、ザリガニ、ミミズ、ナメクジ、カタツムリ、カキ、アケビ、ケンポナシ、などです。

繁殖

交尾期は1~4月で、発情期間は4日間ですが、ホンドタヌキは3月ころに発情し、5月ころが出産期となります。妊娠期間は59~64日、平均すると63日です。巣穴で出産し1産の平均は5~7頭ですが、最多で19頭の記録があります。生まれた時の体重は60~110gで、体には黒く柔らかい毛が生えています。目は閉じて生まれ、開くのは生後9~10日齢です。歯の萌芽は生後14~16日齢です。授乳期間は1.5ヶ月齢から2ヶ月齢で、固形物は生後25~30日齢から両親が運んできて与えます。育児は父親も協力し、妊娠後期から出産後数日はメスに食べ物を運んできます。父親は赤ちゃんをなめてグルーミングし、遊び相手となり母親の手助けをします。生後4~5ヶ月齢で親とほとんど同じ大きさになり、親と一緒に獲物をとるようになります。秋には親から離れますが、同じ行動域に留まるものもいます。生後9~11ヶ月齢で性成熟しますが、野生で繁殖するのは2~3歳からです。
長寿記録としては、広島市安佐動物公園で1995年12月29日に死亡した個体の16歳7ヶ月という記録があります。

外敵

野生の外敵としては、オオカミ、リンクス、クズリ、キエリテン、イヌワシ、オオワシ、ワシミミズク、野犬や家畜イヌなどがいます。しかし、タヌキもまた、毛皮や肉、毛筆用に使うため、人間に捕えられてきたことが一番の減少理由でしょう。
またタヌキは交通事故での死亡例が多く、高速道路で事故死する動物の中で40%を占めています。事故数は行動量が増える春の交尾・出産期や秋の子別れの時期と生息環境に適した丘陵地や雑木林に近い道路といった特定の場所に多くなっています。これは高速道路によってタヌキの行動圏が分断されていることをうかがわせるとの指摘もあります。他にも、高速道路では車の速度が速く、ライトの灯りでびっくりしてフリーズすることや、車がそばに来てから避けられるほど反射神経が発達していないことに起因しているようです。

データ

分類 食肉目 イヌ科
分布 東アジア(中国、朝鮮、ベトナム北部、ウスリ、アムール地方、日本)。ヨーロッパの北部や西部および中央アジアでは移入種となっています。
体長(頭胴長) オス・メス 50~70cm
体重 オス・メス 春~夏 4~6kg 秋~冬 6~10kg
尾長 オス・メス 12~25cm
肩高 オス・メス 27~38cm
絶滅危機の程度 タヌキは、現在分布域が広く、個体数も多いことから、IUCN(国際自然保護連合)発行の2010年版のレッドリストでは低懸念(LC)種にランクされています。

主な参考文献

和泉 剛 身近な夜行性動物 第2回 タヌキ
なきごえ 大阪市天王寺動物園広報誌 1994
今泉忠明 野生イヌの百科 データハウス 1993
今泉吉典 監修 世界の動物 分類と飼育2食肉目 (財)東京動物園協会
盛口 満 タヌキまるごと図鑑 大日本図書1997
Nowak, R. M. Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1,
The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999
Ward,O.C. and Wurster-Hill, D.H. Mammalian Species. No.358, Nyctereutes procyonoides. The American Society of Mammalogists 1990
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. (chief editor) Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores.
Lynx Edicions 2009
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