No.085 シロガオサキ – おもしろ哺乳動物大百科 35 霊長目 オマキザル科

おもしろ哺乳動物大百科オマキザル科霊長目ペットコラム

サキ属

サキ属は、
(1)シロガオサキ
(2)キイロサキ
(3)クロヒゲサキ
(4)モンクサキ
の4種に分けられています。いずれの種も異様な容貌をしていることから悪魔ザルという異名を持っています。しかし、サルの仲間にはこのように私たちから見ると、異形と感じるサルも少なくないのです。それは昼行性の霊長類は視力に優れ、顔や体色が保護色となり、また繁殖期のサインや外敵に対する威嚇などのときに重要な意味を持っているからでしょう。

シロガオサキ

サキ属はアマゾン河流域からギアナ、コロンビア、エクアドル、ボリビアまで広く分布しています。シロガオサキはアマゾン川北部のネグロ川とオリノコ川東部に生息しています。熱帯多雨林からサバンナ林、山地、マングローブ林、川辺林や海岸の潅木林の森林で、おもに樹層の中間部から下部で生活し、地上に降りることは少なく、雨期に浸水する場所は好みません。行動は敏捷で、移動は通常は四足歩行ですが、後肢が強く、跳ねるように木から木へと10m近くも飛び移り、ときには木の枝の上を2足歩行します。昼行性で、夜間眠るときはネコのように丸くなって眠ります。群れの構成は雌雄のペアとその子どもの3〜5頭で、単独個体も多く見られます。テリトリーがあり、他の群れに対し、うなるような声から高い声まで警戒音を発します。のどには皮脂腺があり、尿と共に匂いつけ行動がみられます。乳頭は胸部に1対あります。

からだの特徴

サキの仲間は、風貌に特徴のある種が多いのですが、シロガオサキの白いお面をつけたような顔もまたすてきでしょう。写真家 大高成元氏撮影

オマキザル科のなかでは中型ですが、サキの仲間ではもっとも小型で、オスの体重は2kg前後です。体色は、オスは鼻から口にかけて及び全体的に黒です。そして鼻から口の周りがのどにかけて、白か淡黄色で、一見すると白い仮面をつけているような特異の顔をしています。メスは全体に茶色又は茶褐色で、鼻口部には八の字状に白、又はうすい赤褐色のすじがあります。尾は毛深くて長く、走るときや休息しているときは背側にあげています。子どものうちは尾を人間の手や母親の体に巻きつけることができますが、成長するとこの能力は失われます。広鼻猿の名前のとおり、サキの鼻は鼻孔が外側に向って開き、前方からは見ることができません。4肢に5本ある指の爪はすべて平爪で、手で物をつかむときは第2指と第3指の間に挟みます。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯3/3、大臼歯3/3で左右上下合わせて36本です。歯の特徴は、犬歯が外側に反り、門歯との間が空いているところです。下顎の門歯は前方に傾いて原猿類の櫛歯(くしば)と似ていますが、原猿類のように毛づくろいに使わず、果実などを食べるときに使います。頬袋はなく、乳頭は胸部に1対あります。

えさ

食性は雑食性ですが、種子と果実が主食で、その他、花、茎、葉も食べます。ときには小鳥やシロアリ、ネズミ、コウモリも食べるという報告もあります。動物園では、リンゴ、バナナ、ミカン、卵、ドッグフード、ミールワーム、コオロギ、バッタなどを与えています。

繁殖

交尾期ははっきりしませんが、発情周期は18日間で12〜36時間続きます。妊娠期間は約170日(140〜147日・163〜176日の報告があります)、通常一産一子です。飼育下の繁殖は1年中見られますが、野生の出産期は11月から12月です。赤ちゃんは、オス、メスともに初めはほとんど黒く、顔には毛が生えておらず明るい色で良く目立ちます。生後1ヵ月齢ころにメスの成獣と似た体色に変わります。オスの子どもでは約2ヶ月齢になると、顔に特徴ある白い毛が生えてきます。母親は赤ちゃんを最初の約2週間は抱き単独で面倒をみて離しません。初めて母親の背中に乗ったのは生後10日から24日齢、28日齢などのほか、3週齢で初めて姉が抱き上げた報告があります。上野動物園における繁殖例でも、赤ちゃんは生後約2ヶ月齢まで母親から離れませんでした。固形物は3ヶ月齢から食べはじめ、授乳は約4ヶ月間です。生後5ヶ月齢で母親から離れて群れのメンバーと遊び、6カ月齢で独立しますが、まだ家族と一緒の生活を続け、1年で家族の群れから出ます。性成熟は、メスは2歳、オスは3歳です。長寿記録としてはピッツバーク動物園で1995年12月に死亡した個体の推定36歳があります。

天敵

人間が食料にするための狩猟やワシ、タカ、フクロウなどの猛禽類、ヘビ、ネコ科動物がいます。

データ

分類 霊長目 オマキザル科
分布 南アメリカ
体長 33〜38cm
尾長 33〜45cm
体重 オス1.9〜2.1kgメス 1.5〜1.9kg
絶滅の危機の程度 国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。

主な参考文献

伊谷純一郎 監修
D.W.マクドナルド 編
動物大百科 3 霊長類ほか 平凡社 1986
今泉吉典 監修 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 世界のサル 毎日新聞社1968
杉山幸丸編 サルの百科 データハウス 1996
Welker,C. and Schaefer-Witt,C. New World Monkeys. In ( Parker, S.P. editor) Grizimek’s Encyclopedia of Mammals Volume 2, : McGrow-Hill Publishing Company 1990
Nowak , R.M. Walker’s Mammals of the World Six Edition
The Johns Hopkins University Press , Baltimore 1999
渡辺 芳 シロガオサキの繁殖 どうぶつと動物園 (財)東京動物園協会1985
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