食肉目イヌ科
タイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)
食肉目のなかまは単独で狩りをする種類が多いのですが、群れで狩りをする種もいます。代表的な種類は、アフリカとインドに生息するライオンで群れをプライドと呼びます。一方、オオカミの群れはパックと呼ばれ、ヨーロッパ、中近東、ロシア、アジア、北米、メキシコと広範囲に分布し、2000~4000m級の高地や平らな草原、山地、森林、砂漠からツンドラまで生息しています。一般にツンドラのような寒帯にすむ亜種は大型で、餌も大きなヘラジカやトナカイ、ジャコウウシなどです。これに比べ暑いメキシコなどに住む亜種は、中型や小型のウサギやネズミのなかまです。
ふつう両親と子どもたちからなる7~8頭の群れで暮らしますが、寒帯で生活するグループは、冬季に20~30頭の大きな群れをつくり、大型の獲物を狙います。移動は通常時速8km位ですが、獲物を追跡するときは、先頭を交代しながら時速55~70kmの高速で走ることができます。行動圏は100~13,000km²と生息地や獲物の量などにより大きく変わります。群れは雌雄ともに順位制がみられ、上下関係は顔の表情や行動、声で表します。上位の個体は尾を上げ、劣位は下げて仰向けになり腹部を相手にさらすなど、服従の姿勢をとります。休息するときは出産用の巣とは別の土穴、岩の割れ目、樹洞、切り株の下などを使います。夜行性ですが冬季には日中活動することもあります。
からだの特徴

一見するとイヌと変わりませんが、どんなに強そうなペットのイヌでも、遭遇すれば尻尾を巻いて逃げるでしょう。強いんです! 写真家 大高成元氏 撮影
寒帯のアラスカに生息する亜種はイヌ科の中では最大で、体長130~160cm、体重80kgに及ぶ個体もいますが、熱帯や亜熱帯のアラビアやインドに生息する亜種は小型で、体長が80~120cm、体重20kg程度です。
体色は、一般に背中が灰色から黄褐色で腹側は黄白色ですが、全身黒色の個体もいます。また、地域によっては全身白色の場合もあり変化に富んでいます。寒帯で生活するグループは、毛の長さ6cm前後で、冬毛では淡色になります。さらに、頸部から肩、背中にかけて、およそ13cmに達するマントのような毛が生えており、雪や雨から体を守っています。走るときの尾の位置は、コヨーテが下がっているのに対し、オオカミは上げているので遠方からでも区別できます。聴覚もすぐれ、耳を左右に動かして音の位置を確かめます。オオカミの遠吠えで知られるように、声はお互いのコミュニケーションの手段として、なわばりの宣言、挨拶、降伏、威嚇のときに使われます。排泄もまた重要な情報手段で、一定の間隔で匂いを残しなわばりの主張とします。嗅覚は鋭敏で1.6km先の獲物のにおいを嗅ぎ取ります。犬歯と裂肉歯(上顎の第4前臼歯と下顎の第1臼歯)が大きくて顎の力も強く、獲物を倒すのに適応しています。歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、小臼歯4/4、大臼歯2/3で左右上下合わせて42本です。乳頭数は4~5対です。
えさ
餌になる大型動物には、ヘラジカ、ワピチ、ジャコウウシ、オオツノヒツジ、シロイワヤギやバイソンなどです。中型のものは、ビーバー、ウサギ、そして小型のネズミのなかまの他や魚、両生類、爬虫類等それぞれの生息地の動物がほとんど対象となります。1頭がいちどにおよそ9kgの肉を食べることができますが、その後は数日間食べないので、1日に食べる量は平均すると2.5kgほどになります。
繁殖
交尾期は1~4月の間で、発情が5~7日間続きその間に交尾します。交尾は通常群れ内の順位の一番高いペアのみで行われます。出産用の巣は、ふつう水辺の近くに掘った長さが2~4mのトンネル状の穴を使います。ほかの動物が使った穴なども利用し、2~3年使うこともあります。
その他に樹洞、岩の割れ目、倒木の下に掘った穴なども使います。妊娠期間は62~63日です。1産1~11頭、平均で6頭を出産します。生まれたばかりの赤ちゃんの体重は約450gで、黒みがかった毛におおわれ、耳は垂れ、目は閉じており、開くのは生後約2週齢(生後11~15日齢)です。生後2週齢で歩きはじめ、3週齢で穴の入り口あたりで遊び始めます。この頃から遊びの中で順位が決まっていきます。授乳は生後2週齢までは乳のみですが、その後パックのメンバーが肉を胃に入れて帰り、吐き戻された肉片を少しずつ食べて生後6~8週齢で離乳します。生後6ヶ月齢頃から狩りの仕方を覚えていきます。生後8週齢頃になると、普段群れが休憩用に使う巣穴の一つに移動します。生後約22ヶ月齢で性成熟しますが、繁殖は3歳になることが多いです。育児は父親と群れに残った年長の子どもが協力して行い、母親以外のメンバーはヘルパーとなって、子どもの遊び相手や、狩りの獲物をそれぞれ巣に持ち帰り与えます。番(つがい)は生涯続きます。
長寿記録としては、ブタペスト動物園で1973年1月2日に死亡した個体の飼育期間17年6ヶ月、推定年齢20歳7ヶ月という記録があります。
外敵としては、唯一人間があげられます。
データ
分類 | 食肉目 イヌ科 |
分布 | 北アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中近東 |
体長(頭胴長) | 100~160cm |
体重 | オス 20~80kg メス 18~55kg |
尾長 | 35~56cm |
肩高 | 68~97cm |
絶滅危機の程度 | 分布域が広く、個体数も多いことからIUCN(国際自然保護連合)発行の2010年版のレッドリストでは低懸念(LC)種にランクされています。 かつて北半球の砂漠と熱帯雨林以外はほとんど生息していましたが、人々が各地で彼らの生息地まで拡大し生活し始めると、オオカミが牧畜業者の飼育している家畜を殺すので、銃やワナ、毒を使って殺しました。そのほかにも、毛皮をとるために盛んにハンティングを行い一部の地域では絶滅しました。日本でも北海道に生息していたタイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)の亜種とされるエゾオオカミは1900年ころ、また日本本土に生息していた亜種、ニホンオオカミは1905年に奈良県で捕獲された個体が最後の1頭となり、それぞれ絶滅したと推測されています。 一方、北米のイエローストーン国立公園ではオオカミが絶滅した結果、エルクなどシカの仲間が過剰になって森林の木々が食料となりダメージを受けました。解決策として、再びオオカミを公園に放し食物連鎖のバランスを図った結果、エルクは半減しましたが、ときおり家畜が被害を受けるので経緯を注意深く観察しています。 |
主な参考文献
今泉忠明 | 野生イヌの百科 データハウス 1993 |
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988 |
今泉吉典 監修 | 世界の動物 分類と飼育(2)食肉目 (財)東京動物園協会 1991 |
林 壽朗 | 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968 |
Mech, L. D. | Mammalian Species . No.37 Canis lupus . The American Society of Mammalogists 1974. |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. eds. | Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |
ジョン・ボネット・ウェクソ編者 増井光子 訳・監修 | ズ―・ブックス 6 オオカミ/クマ 誠文堂新光社1985 |
今泉吉典 | インターネット Yahoo!! 百科事典(小学館『日本大百科全書』) |