ニホンザル
ニホンザルは50万から30万年前に朝鮮半島から渡ってきたと考えられ、DNAで遺伝子の変化を見ると、西日本のサルのほうが古く、最終氷河期のあと東日本に分布域が広まったと推定しています。マカク属のサルは、飼育下で同居させると生殖能力を持つ種間雑種ができます。野生では青森県の下北半島他いくつかの群れで、同じマカク属のタイワンザルとの間に種間雑種が増えて物議をかもし出しています。
ニホンザル
日本の本州、四国、九州、および周辺の島々に生息し、南限は鹿児島県の屋久島、北限が青森県の下北半島で、サルの仲間で北限にすむ種として知られています。生活域は海岸から標高3,000mを超える日本アルプス高山地帯まで広い範囲に生息しています。多くの群れは、常緑広葉樹林、落葉広葉樹林を生活圏としています。群れの大きさは10頭以内から数100頭まで幅がありますが、亜種のヤクシマザルの群れはホンドザルに比べ、一つの群れの頭数は少なく、50頭内外と報告されています。また、餌付けした群れでは高崎山のように1,000頭以上になります。群れの構成は、母親と子ども、およびオスで生活しています。オスは性成熟を迎える4〜5歳になると群れから出て行き、群れをわたり歩いたり、単独で生活したりします。
からだの特徴

雪が降るとやっぱり温泉だね。ほんとに地獄谷は寒いんだから!写真家 大高成元氏撮影
体色は茶褐色から灰褐色ですが、ホンドザルのほうがヤクシマザルより色が薄くなっています。ただし、赤ちゃん時代は黒味を帯びています。乳頭は胸部の左右に1個ずつあります。頬袋をもち、この中に食物を一時溜めて安全な場所に移動した後で取り出しゆっくり食べます。歯式は門歯2/2、犬歯が1/1、小臼歯2/2、大臼歯3/3で左右上下合わせて32本で、オスの犬歯はメスより大きいです。昼行性で色覚も発達して、ほぼ人間と同程度の視力があると考えられています。人間の聴覚は、高い音は20kHzくらいですが、ニホンザルは50kHz以上の超音波を聞くことができます。低い音は人間のほうが良く聞こえます。
指は手足とも5本あって、それぞれに平爪があります。親指と他の指が向かい合っているので物を握ったり、つまんだりすることができます。顔や臀部が赤いのは、この部分の毛が少なく皮膚の下の血管がすけて見えます。血液中の赤血球にはヘモグロビンという赤い色素が含まれており赤く見えるのです。
えさ
ニホンザルの主食は植物で、遊動しながら、一つの群れで50〜200種類の植物を食べて生活しています。ヤクシマザルのおもな活動時間の平均は、採食33%、移動23%、休息23%、グルーミング19%で、季節によって変化はあるものの採食と移動時の合計時間はほぼ一定との調査結果があります。
繁殖
野生のニホンザルの交尾期は大きく2つに分けられます。一つは広島県の宮島ほかの地域で見られる10月から12月に迎える群れと、もう一つは、宮崎県の幸島ほかで1月から3月に見られ、前者より3ヶ月間遅れとなっています。妊娠期間が173日前後、月経周期は26日〜28日、月経の持続日数は3日前後、排卵は月経から15日目頃と報告されています。一産一子で赤ちゃんの体重は400〜600g、ごく稀に双子もあります。生後1ヶ月齢頃から母乳以外のものを飲み込みます。生後3ヶ月齢になると便に母乳以外のものが混じり、生後6カ月齢頃に離乳します。初産の年齢は、高崎山では、6歳から7歳が多く、出産間隔も隔年や数年に一度が多いです。一方、上野動物園におけるサル山の初産は4〜5歳で3歳の出産例もありました。さらに16頭出産し、このうち14年連続出産した個体もいます。
絶滅危機の程度
環境省レッドリストでは、下北半島に生息するニホンザルは今まで「絶滅のおそれのある地域個体群」に掲載されていましたが、2007年8月3日の最新版では削除され、現在は、金華山と北奥州・北上山系の2つの地域個体群のみが指定されています。また、日本の天然記念物として、宮崎県幸島、大分県高崎山自然公園、大阪市箕面山自然公園、千葉県高宕山自然公園、岡山県臥牛山自然公園、青森県下北半島の6ヶ所が指定されています。
国際自然保護連合(IUCN)発行の2009年版のレッドリストでは、現在のところは絶滅の恐れが少ないので、低危急種(LC)に指定されています。
データ
分類 | 霊長目 オナガザル科 |
分布 | 日本 |
体長 | オス53〜60cm メス45〜55cm |
体重 | オス11〜18kg メス8〜15kg |
尾長 | オス8〜12cm メス7〜10cm |
主な参考文献
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988 |
河合雅雄 岩本光雄 吉場健二 | 世界のサル 毎日新聞社1968 |
京都大学霊長類研究所 編著 | 新しい霊長類学 講談社2009 |
杉山幸丸編 | サルの百科 データハウス 1996 |
ジョン.R.ネイピア,プルー・H.ネイピア著 伊沢紘生訳 |
世界の霊長類 自然誌選書 1987 |
Nowak , R.M. | Walker’s Mammals of the World Six Edition The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999 |
丸橋珠樹・山極寿一・古市剛史 | 屋久島の野生ニホンザル 東海大学出版会1986 |