人類と犬の古いつきあい
今年2018年は戌年、人類がもっとも古くからお世話になっているのがイヌです。
ことわざ
イヌにまつわることわざも多くあります。その一つが、
「犬も歩けば棒に当たる」
です。
現代のように、飼い主がリードを付けた犬と散歩していれば何も問題は起こりませんが、この諺が生まれた頃は放し飼いのイヌも多かった時代でのことでしょう。餌を求めて街中を放浪するイヌは、庶民に嫌がられて棒で叩かれ、追い払われる羽目にあったと思われます。
イヌもウロウロと出てこなければ棒で叩かれることはないのに…が
転じて ⇒ 余計なお世話をして出しゃばると思いがけない痛い目に合う、と言うときに使います。
ただし、この反対の意味にも使わることもあります。
外出している間に、思いがけず旧友に会い良い情報をもらったり、困った人を助けた縁で幸運にぶつかったり、するというときです。できればこちらの良い出会いに期待したいものですね。
「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ 」
犬は三日飼っただけでも、三年間その恩を忘れない。 まして人は恩知らずであってはいけない、という意味。
犬は昔から人々に飼われて人々の生活に役立っていました。
飼育数
2017年12月22日 全国のイヌの飼育数は8,920,000頭で前年から436,000頭減少と発表されました。一方、ネコは217,000頭増加して9,526,000頭(推定)ネコの飼育頭数が増加したのでイヌとネコの飼育頭数が逆転しています。
イヌを飼育する場合、飼い主は厚生労働省で定める「犬の登録と狂犬病予防注射は飼い主の義務」が生じ、以下の3点を守る必要があります。
- 現在居住している市区町村に飼い犬の登録をすること
- 飼い犬に年1回の狂犬病予防注射を受けさせること
- 犬の鑑札と注射済票を飼い犬に装着すること
動物を飼うときには責任をもって生涯面倒を見る覚悟で飼育してください。とくに狂犬病は発症すると100%死亡する恐ろしいウイルスなので必ず予防注射を打ちましょう。
オオカミと犬
さて、現在、私たちがペットにしているイヌはタイリクオオカミを家畜化したものと考えられています。そこで次に原種となったイヌ科について紹介しましょう。
イヌ科
イヌ科は10属40種に分類されている。分類は諸説あって11または12属に分類する学者もいる。生息地は草原、森林、山間部、伐採林、叢林などで、オーストラリアと南極大陸以外はほとんど世界中に分布している。
通常は前肢に5本、後肢には4本の指があるが、ネコ科のように爪を引っ込めることができない。耳は生息域によって形状が異なり、フェネックのように砂漠など熱い地域に住む種類では大きな耳を持ち、鋭い聴覚と共に放熱器官としても役立っている。寒い地方に生息するホッキョクギツネは、寝るときにはふさふさした長い尾を抱いて防寒にしている。歯式は門歯3/3、犬歯1/1、小臼歯4/4、臼歯1~4/2~5で合計38~50本ある。上顎の第4前臼歯と下顎第1臼歯は鋭く尖り、肉を裂くように切ることができるので裂肉歯と呼ばれている。イヌ科の中でも昆虫をよく食べる種類では臼歯の数が増えるなど、食性と密接に関連している。ネコ科の動物より雑食傾向が強く植物も採食する。繁殖は生息環境に四季がある場合は、冬季に発情し春に出産する種が多く見られ、熱帯地方では年間を通して繁殖が見られる。
タイリクオオカミ
食肉目のなかまは単独で狩りをする種類が多いが、群れで狩りをする種もいる。オオカミの群れはパックと呼ばれ、ヨーロッパ、中近東、ロシア、アジア、北米、メキシコと広範囲に分布し、2000~4000m級の高地や平らな、山地、森林、砂漠からツンドラまで生息している。一般にツンドラのような寒帯にすむ亜種は大型で、餌も大きなヘラジカやトナカイ、ジャコウウシなどである。ふつう両親と子どもたちからなる7~8頭の群れで暮すが、寒帯で生活するグループは、冬季に20~30頭の大きな群れをつくり、大型の獲物を狙う。行動圏は100~13,000㎢と生息地や獲物の量などにより大きく変わる。群れは雌雄ともに順位制がみられ、上下関係は顔の表情や行動、声で表す。休息するときは出産用の巣とは別の土穴、岩の割れ目、樹洞、切り株の下などを使う。夜行性だが冬季には日中活動することもある。
からだの特徴
寒帯のアラスカに生息する亜種はイヌ科の中では最大で、体長130~160cm、体重80kgに及ぶ個体もいるが、熱帯や亜熱帯のアラビアやインドに生息する亜種は小型で、体長が80~120cm、体重20kg程度。体色は、一般に背中が灰色から黄褐色で腹側は黄白色ですが、全身黒色の個体もいる。また、地域によっては全身白色の場合もあり変化に富んでいる。寒帯で生活するグループは、毛の長さ6cm前後で、冬毛では淡色になる。さらに、頸部から肩、背中にかけて、およそ 13cmに達するマントのような毛が生えて、雪や雨から体を守っている。聴覚がすぐれ、耳を左右に動かして音の位置を確かめる。オオカミの遠吠えで知られるように、声はお互いのコミュニケーションの手段として、なわばりの宣言、挨拶、降伏、威嚇のときに使う。排泄もまた重要な情報手段で、一定の間隔で匂いを残しなわばりを主張する。嗅覚は鋭敏で1.6km先の獲物のにおいを嗅ぎ取れる。乳頭数は4~5対。
えさ
餌になる大型動物には、ヘラジカ、ワピチ、ジャコウウシ、オオツノヒツジ、シロイワヤギやバイソンなどがいる。中型のものは、ビーバー、ウサギ、そして小型のネズミ類の他に、魚、両生類、爬虫類等それぞれの生息地の動物がほとんど対象となる。1頭が1日に食べる量は平均すると2.5kgになる。
繁殖
交尾期は1~4月の間で、発情が5日~7日間続きその間に交尾する。交尾は通常群れ内の順位の一番高いペアのみで行う。出産用の巣は、ふつう水辺に近くに掘った長さが2~4mのトンネル状の穴を使う。ほかの動物が使った穴なども利用し、2~3年使うこともある。その他に樹洞、岩の割れ目、倒木の下に掘った穴なども使う。妊娠期間は62~63日。1産1~11頭、平均で6頭を出産する。生まれたばかりの赤ちゃんの体重は約450gで、黒みがかった毛におおわれ、耳は垂れ、目は閉じており、開くのは生後約2週齢(生後11~15日齢)。生後2週齢で歩きはじめ、3週齢で穴の入り口あたりで遊び始める。この頃から遊びの中で順位が決まっていく。授乳は生後2週齢までは乳のみ。その後パックのメンバーが肉を胃に入れて帰り、吐き戻された肉片を少しずつ食べて生後6~8週齢で離乳する。生後6ヶ月齢頃から狩りの仕方を覚えていく。生後8週齢頃になると、普段群れが休憩用に使う巣穴の一つに移動する。性成熟は生後約22ヶ月齢で、繁殖は3歳になることが多い。育児は父親と群れに残った年長の子どもが協力して行い、母親以外のメンバーはヘルパーとなって、子どもの遊び相手や、狩りの獲物をそれぞれ巣に持ち帰り与える。番(つがい)は生涯続く。
長寿記録としては、ブタペスト動物園で1973年1月2日に死亡した個体の飼育期間17年6ヶ月、推定年齢20歳7ヶ月という記録がある。
外敵としては、唯一人間があげられる。
日本ではタイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)の亜種で、北海道に生息していたエゾオオカミがいたが1900年ころ、また日本本土に生息していた亜種のニホンオオカミは1905年に奈良県で捕獲された個体が最後の1頭となり、両亜種ともに絶滅したと推測されている。
(参照:ヘーベルハウハウスのホームページ、おもしろ動物大百科の2010年No.60 タイリクオオカミ)
オオカミは人間が最初に家畜にした動物
私たちの周りにはウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ニワトリ、シチメンチョウなどのいわゆる家畜と呼ばれる動物がいます。これらの中で大型の草食獣は8,000~10,000年前に家畜化が始まりました。ところがイヌは近年のDNA分析によって33,000年前頃に飼育されたとしています。考古学的な検証で壁に描かれたイヌの絵や遺跡の中の骨などの化石から異論もありますが、かなり古くから人々が飼育していたのです。
古代の人々はイヌ以外にも様々な野生動物の馴致を試みたと考えられます。その中でオオカミが家畜化した理由は、オオカミの社会が人間と同様な家族単位の社会形態であったため馴致がしやすかったと考えられます。
例えば仮に30,000年前頃オオカミを馴らしたとしましょう。この頃の人類は農耕が始まっていない時代で、食料は狩猟の獲物、草、果実など雑食性でした。海岸線近くでは貝や魚が主食だったことが貝塚などからも判っています。古代の人々にとって特に肉食獣は外敵であり、オオカミも恐ろしい外敵の一種でした。
そのような生活の中で、オオカミの新生児を得た人々は育児に成功し、家族に子どもがいれば一緒に遊ばせたのではないでしょうか。授乳から一緒に育てればトラやヒョウ、ハイエナ、オオカミも、育てた人間に馴れることは現在の動物園やサーカスで実証済です。一緒に暮らしていれば、彼らが持つ鋭い聴力や嗅覚で人間の五感では気づかない外敵の侵入をいち早く察知し、異変を声や行動で示すでしょう。
当初、野生動物の飼育目的は食料調達のためでしたが、大型の草食獣のウシやウマ、ヒツジ、ヤギなどの飼育に成功すると、イヌは食料以外に番犬、狩猟、愛玩用などに飼育するようになったのです。
イヌの品種
オオカミが家畜化の道を辿ってから世界各地で様々なイヌと交配を重ねた結果、数多くの品種が創り出されました。日本の育種学は明治中頃から盛んになり急速に多くの品種が作られた。
そして、長い年月の間に種類数では世界中で在来種も含めると800種類以上となっています。このうち品種として認められているのは国際畜犬連盟(フランス語Fédération Cynologique Internationale=略称はFCI)が約350種類を公認しています。日本には一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)があり、200種近くが登録されています。多くの種類を区別するために、FCIとJKCでは犬の品種を大きく10に区分しています。両者の区分は若干異なるが概ね同様です。FCIは次の10グループに区分しています。
- 牧羊犬・牧畜犬
- 使役犬
- テリア
- ダックスフント
- 原始的な犬
- 嗅覚ハウンド
- ポインター/セッター
- 以外の鳥猟犬
- 愛玩犬
- 視覚ハウンド
日本犬の柴犬や秋田犬、スピッツなどは⑤原始的なグループに含まれています。柴犬はイヌの原種であるオオカミに似ています。
プードル、チワワ、トイプードルなどは⑨グループの愛玩用の品種で、原種のオオカミの面影は少なく人間が創り出したあたらしい容姿で人気です。
江戸時代の犬屋敷
江戸時代、第5代将軍徳川綱吉公は「生類憐みの令」公布した。1685年に初めて出して以来、24年間に135回も出しました。本来は犬などの動物に限らず、捨て子や病人など生き物すべてを保護するために出された法令で、人々に慈悲の心や道徳心を培おうとしたものでした。ところがこの保護政策で野犬が多くなり、むやみ叱ると罰せられるため庶民の悩みの種となったのです。そこで幕府は野犬保護のために1695年、中野に約100ヘクタールの広大な犬屋敷を作りました。最盛期には8万頭余りにのぼり、費用は年額98,000両に達したのです。犬屋敷の莫大な費用は、江戸の商家や天領の農民達の負担で賄われていましたが、1709年、綱吉が死去すると取り壊されました。
今からおよそ330年前に80,000頭の犬が1カ所で飼育されていたとは驚くばかりですね。
我が家のペット事情
我が家では、2頭の柴犬と2頭のネコが老夫婦の間を取り持ち、生活に潤いをもたらしている。大の動物好きの奥方は雨にも負けず風にもめげず毎日朝昼夕の3回、柴犬2頭の散歩を欠かさない。
犬の原種であるオオカミは順位制の家族群でオスとメスの2頭のリーダーがいる。我が家のペットたちにとってオスのボスが私、メスのボスが奥さんのはずである。ところが日常の彼らの反応を見ていると、彼らが敬うのは奥さんであり、一緒に生活している私は年老いた同居の一人に過ぎないようだ。最も散歩に連れて行かず、餌もあげないぐうたら亭主など見向きもしないのが道理だ。そんな彼らの様子を日々楽しみながら見ている。
それにしてもイヌは一瞬にして誰がボスか認識するが、それは我が家の奥さんが獣医師で犬を扱い慣れているという特殊事情にもよる。
動物病院に来て診察台に乗るとそれまで粋っていた猛犬さえもまな板の鯉状態でおとなしくなるイヌが多い。きっとイヌは獣医師のオーラを感じ取っているのだろう。
昔、動物園で小型のオオカミを捕まえるときに、担当者は一人で玉網(魚を掬うときに使うような網で素材が頑丈、かつ柄も太いもの)を持って室内に無造作に入りひょいと伏せてしまった。もちろん飼育係は他にも数人が外で様子を見ているのだが、ヘビに睨まれたカエルのように縮こまっていたのだ。新人の飼育係ではこんな芸当はできないので、先輩の方法を見て覚えるしかない。これが貴重な経験となり次世代に受け継がれていくのだ。
動物に接するときは何も警戒をしないでスッと近寄るのが一番良い方法と思う。嫌いな人は警戒オーラが知らぬ間に出るらしく近寄ると敏感なイヌは向こうが身構える。うちの奥さんはそのあたりが私と違い全く無意識に近寄れるのだと思う。
今年は「犬も歩けば棒に当たる」の戌年、
皆々様共々、戌年の良い運にめぐり逢いたいものです。