動物園は進化する ― ゾウの飼育係が考えたこと

今や動物園は

  • エンリッチメント
    動物福祉として、飼育動物の「幸せな暮らし」を実現する具体的な方策。
  • ターゲットトレーニング
    ターゲット棒と餌を使い、呼び寄せてたり足を出させたりする。その他、多くの動作ができるようになる。飼育係の立ち位置とタイミングをうまく使うのがコツである。

これらをどのように取り入れるか、最大の課題の一つである。

私は10年前までゾウ係としての使命を、ゾウ係の学校を作って、そこで原産国の飼育管理を学ぶことを目標として捉えていた。

この考えが一変したのは、札幌市のゾウの導入のコーデネーターを機に、20年ぶりにゾウのコンサルト、アラン・ルーフクロフト氏連絡したことに端を発した。
1990年代に入ると急速にエンリッチメントの導入が話題にのぼり、欧米の動物園で盛んに取り入れ始めたことは知っていたが、これほど迅速に世界中に浸透していくとは考えなかった。
エンリッチメントは動物園人から一般の方々まで、誰もが待ち望んでいた結果で、競ってその方法に工夫を凝らしている。

もう一つ、ターゲットトレーニングとゾウの特殊な関係がある。ゾウにおける第一人者の1人がアラン・ルークロフト氏である。彼は直接飼育の指導者として著名であったが、そのキャリアを捨てて、ゾウのために何が必要で、動物園でどのようにゾウを飼育するのがベストか、過去の経験をもとにターゲットトレーニングを創始した。その根幹をなすものは3点ある。

  1. 自然環境を整える。
  • 群れで飼育する。少なくとも最小限の母系集団を導入する。繁殖個体もメスは一緒に飼育する。
  • 動物舎を自然環境に近いものを整える。できる限り広い動物舎を確保する。緑やプール、日除け、床を砂や土にする。冷暖房、採光などに配慮する。
  • ゾウが過ごす空間は彼らのテリトリーとして尊重し、飼育係は中に入らない。
  1. ターゲットトレーニングで飼育係の安全とゾウの自由を確保する。
    実施するには、現在のところゾウが押しても破壊されない防護壁を作り、使用方法を熟練者から学ぶ必要がある。
  1. エンリッチメントを充実する。
    今では数多くのエンリッチメントが世界で工夫されている。

日本は欧米に比べ飼育管理方法が遅れがちだ。近年は知識や経験豊富な方々が園長になり、さまざまな工夫をされているが、いずれも簡単に改革ができない。

改革が進まない原因は明確だ。

一つは動物園の敷地面積が狭く、城址公園などではゾウ舎のために1~2万㎢の広さを確保できないのは当然であろう。また、繁殖個体を搬出しないのが良いとすれば、繁殖が軌道に乗ればすぐに倍の頭数となる。そこまで見越したゾウ舎の建設が必要で、理想を言えばその建設費用は50億円にも上るだろう。さらにターゲットトレーニングを行うには、通常の飼育係プラス2名の増員が求められ、外国から指導者を呼べばその費用も2年間は各1,500万円が求められる。まさに簡単には解決できない難問である。

 

動物園は進化する動物園は進化する: ゾウの飼育係が考えたこと (ちくまプリマー新書 (327))

さて、夢を追う多くの学生の皆さんに本書を読んで頂き、実際のエンリッチメントとはどんなことをしているか、ゾウのターゲットトレーニングで何ができるか、その一端を理解してほしい。アラン氏も私も学者ではないが、共に60年の飼育を経験している。経験は短期間では積むことはできなく、不足分は私たちの記録から読み取っていただきたい。

アラン氏は日本以外にも、イギリス、アメリカ、中国、今年からオーストラリア他、世界中を現在も飛び回って指導している。彼の情報は常に新しく昨日のエンリッチメントの変化を今日情報としてもたらしてくれている。

 

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