食肉目
食肉目の仲間は、大きく2つのグループに分かれています。一つは、陸上で生活するイタチ、ジャコウネコ、アライグマ、クマ、マングース、ハイエナ、イヌ、ネコなどで裂脚亜目、もう一つは、主に海で生活するアシカ、アザラシ、セイウチ等で鰭脚亜目です。
裂脚亜目のうちジャイアントパンダとレッサーパンダは、以前パンダ科に分類して9科としていましたが、最近のDNAの分析結果からそれぞれをクマ科とアライグマ科に分類するのが主流なので、8科とします。裂脚亜目は3科に分類されています。
今泉吉典博士は食肉目を12科(パンダ科を含む)、109属、271種に分類しています。概して体は被毛におおわれ、鉤爪があります。歯が発達し、なかでも犬歯は鋭く肉を切り裂き、雑食性の種類では、臼歯が発達しています。獲物を探すために嗅覚や聴覚が鋭く、強い咬筋や脚力を持っています。
イヌ科
イヌ科は10属約40種に分類されています。分布域は草原、森林、山間部、伐採林、叢林などに広く生息しています。オーストラリアと南極大陸以外はほとんど世界中に分布しています。
通常は前肢に5本、後肢には4本の指があります。耳は生息域によって形状が異なり、フェネックのように砂漠など熱い地域に住む種類では大きな耳を持っています。寒い地方に生息するホッキョクギツネは、寝るときにはふさふさした長い尾を抱いて防寒にしています。ネコ科のように爪を引っ込めることができません。
歯式は門歯3/3、犬歯1/1、小臼歯4/4、臼歯1~4/2~5で合計38~50本あります。上顎の第4前臼歯と下顎第1臼歯は鋭く尖り、肉を裂くように切ることができるので裂肉歯と呼ばれています。イヌ科の中でも昆虫をよく食べる種類では臼歯の数が増えるなど、食性と密接に関連しています。ネコ科の動物より雑食傾向が強く植物も食べます。繁殖は生息環境に四季がある場合は、冬季に発情、春に出産するのが多く見られ、熱帯地方では年間を通して繁殖が見られます。
イヌ属
コヨーテ、タイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)、セグロジャッカルなど9種類に分類され、北米、中央アメリカ、ユーラシア、アフリカに分布しています。前肢の指は4~5本、後肢は4本で、つま先を地面に付けて歩く指行性歩行をします。犬歯は強く裂肉歯が発達しています。小さな盲腸があります。
初めにコヨーテから解説していきましょう。
コヨーテ

大きく口を開けて、仲間に合図を送っているのかな。写真家 大高成元氏 撮影
北米のアラスカ、カナダのオンタリオ南部からコスタリカまで広い地域に分布しています。生息環境は開けた草原、伐採林、叢林ですが、近年は都市周辺まで生息域を広げています。群れの基本的単位はペアで、その他に単独、家族グループで大きなグループは作りません。行動圏はオスが20~40km²、メスが8~10km²です。一晩に平均約4kmを移動し、ふつう時速32~48kmで走りますが、時速64kmの速さで獲物を交代で追跡しながら捉えた報告もあります。基本的に夕方から活動する夜行性ですが、日中も活動します。耳が大きく聴覚が発達し、朝夕どこかで遠吠えが聞こえると、周辺のコヨーテが呼応して一連のコーラスとなります。警告、警戒、挨拶、服従など11種類の声で交信します。聴覚の下限は100Hz、上限は80kHzまで聞くことができ、ペットのイヌに比べ高音で交信しています。
からだの特徴
体色は一般に褐色ですが、灰色や黄色、黒みがかったものもいます。四肢は橙色で、尾端は黒です。寒い地方にすむものは、下毛が密に生え防寒に優れています。口の先はキツネのようにとがり、耳介は大きく直立しています。体長75~100cm、尾長30~40cm、体重オス8~20kg、メス7~18kg、肩高45~53cmです。北方産の方が大型になっています。爪はオオカミに比べると丸みを帯びています。走るときの尾の位置が、オオカミは上げているのに対し、コヨーテは垂れているので遠方から見て区別できます。
歯式は、門歯3/3、犬歯が1/1、小臼歯4/4、大臼歯2/3で左右上下合わせて42本です。
えさ
生息地によって多少の差異はありますが、食物の90%は哺乳類で56種を採り、植物28種を食べた報告があります。胃の内容物の調査結果によれば、ジャックウサギやワタオウサギ、小型のげっ歯類のネズミやプレーリドッグなどが主食となっています。他にも腐肉や果実、小型の両生類や爬虫類、鳥類、水中に入って魚やザリガニなども食べる雑食性です。食肉目の仲間の多くが絶滅していく中で、雑食性のおかげで生息域を広げていき、都市部近郊まで進出し絶滅を免れています。
繁殖
カナダなどの北方域に生息するものは、繁殖期が決まっています。発情期は1~3月で、発情期間は2~3ヶ月間ありますが、この間における交尾の適期は2~5日間です。妊娠期間は58~65日、平均63日です。樹洞、岩の隙間、あるいは自分でやぶの斜面に穴を掘ってその中で出産します。
1腹2~12頭、平均で4~7頭を出産し、生まれた時の体重は250~275gです。目は閉じており、開くのは生後約2週齢です。授乳期間は5~7週間で、固形物は生後3週齢くらいから食べ始めます。生後8週齢まで週に約300gの割合で増加する、との報告があります。オスと群れに残った年長の子どももヘルパーとして育児に参加し、餌を吐きもどして子どもに与えます。排泄は生後2~3週齢まで母親に陰部をなめてもらい行いますが、その後は自力で排泄します。巣穴から生後2~3週齢経つと出入りをはじめ、生後6~9ヶ月齢で巣穴から出ます。メスは1歳で繁殖が可能となりますが、実際に行動圏をもってペアとなるには2歳です。多くの子どもは、秋から冬にかけて親の元を離れますが、その距離は80~160㎞、なかには544㎞も移動したとの報告があります。
長寿記録としては、フィラデルフィア動物園で1904年6月20日に死亡した個体の、飼育期間21年10ヶ月という記録があります。
野生の外敵としては、人間の他には、天敵として、ピューマ、オオカミ、イヌワシなどがいます。
データ
分類 | 食肉目 イヌ科 |
分布 | 北アメリカから中央アメリカ北部にかけて |
体長(頭胴長) | オス、メス 75~100cm |
体重 | オス 8~20kg メス7~18kg |
尾長 | オス、メス 30~40cm |
肩高 | オス、メス 45~53cm |
絶滅危機の程度 | コヨーテは、現在分布域が広く、個体数も多いことから、IUCN(国際自然保護連合)発行の2010年版のレッドリストでは低懸念(LC)種にランクされています。 |
主な参考文献
今泉忠明 | 野生イヌの百科 データハウス 1993 |
今泉吉典 監修 | 世界哺乳類和名辞典 平凡社1988 |
今泉吉典 監修 | 世界の動物 分類と飼育(2)食肉目 (財)東京動物園協会 1991 |
林 壽朗 | 標準動物図鑑全集 動物Ⅰ 保育社1968 |
Bekoff, M. | Mammalian Species . No.79 , Cannis Latrans . The American Society of Mammalogists 1977 |
Wilson, D. E. & Mittermeier, R. A. eds. | Handbook of The Mammals of The World. Vol.1 Carnivores. Lynx Edicions 2009. |
Nowak, R. M. | Walker’s Mammals of the World, Six Edition Vol.1, The Johns Hopkins University Press, Baltimore 1999. |