動物たちと喜怒哀楽~怒りをみせるとき~

動物一般

動物園では動物の移動や、病気やケガの治療のときに、動物たちを捕獲することがあります。

私が新米の飼育係だった頃、トラを他の動物園に送るために輸送箱に入れ ることになりました。私も先輩に連れられて手伝いに行き、10人くらい飼育係が集まったところで作業が始まりました。
私は先輩にまじって、トラを輸送箱に追い込むために、2mくらいの樫の棒で背後 からトラのすぐ脇の床をバシッと叩いて威嚇しました。そのとたん、大きな雄トラは くるりと向きを変えると、姿勢を低くし、体中の毛1本1本まで逆立て、目をいっぱいに見開き、口を大きく開けて強大な犬歯を見せ、私をにらみつけたのです。びっくりした私が息をのんでひるんだ隙に、太くたくましい腕と、鋭い爪の飛び出た大きな 手で、ガキッと私の出した棒を押さえたのです。
私はあわてて、棒を取られまいとして渾身の力を込めて引っ張ったのですが、棒は微動だにしませんでした。ライオンと共に最大の猛獣であるトラが見せた怒りの表情と圧倒的な力を一度に体験した私は、このトラと素手で渡り合うことのない幸せをか みしめたものです。

動物たちの怒りは、なわばり内への侵入者がある場合いや、繁殖シーズンに雌と交尾する権利を得るために雄同士で争う場合、そして家族や群れを守る必要があるとき などに見られます。 素手でのなら、絶対に人間などには負けないトラも、武器をもった人間にはかないません。その上、現在は森林破壊だ、いや環境汚染だと、動物たちは人間の営みの影響 を受けて絶滅への道を歩み続けています。
もちろん、動物はそんな事は理解できないでしょうが、目の前にいる敵に怒りをぶつけることしかできない、そんな動物た ちに代わって、私が動物園での体験をお話することが、一人でも多くの人の動物に関 する興味を誘い、多様な生命が共存していく道を考えてもらうきかっけとなることを 願っています。これが動物園の卒業生のひとりとして、今後私が動物たちにフィード バックできることかな、と思います。

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